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特殊スキル「美」を持つ令息は、道端の石になりたい。  作者: をち。
ウィル17歳

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23/40

自らの首を絞めた俺

 なんとかアイスの部屋に戻った俺は、被せられていた上着をバサリと剥ぎ取り、ふらふらとソファに倒れ込んだ。

 もう大丈夫だと思ったら、一気に気が抜ける。

 情けないところを見せた気恥ずかしさと、先ほどまでの恐怖から無事に帰還した安心感とで、俺はつい言わなくてもいいことを口にしてしまった。


「あーあ! ひどい目にあったぜ! あんな奴らが王城に居るんなら先に言えよな!」


 足を投げ出しながらぼやく俺。

 ビシッ。

 アイスの目が凍るのが分かった。


「……言うより先にウィルが飛び出して行ったんだよ? ウィル、きみは自分の置かれた状況を理解していないようだね?」


 ひえ! こ、怖え! 正直、あのゼオなんとかいうヤツに腕を掴まれたときの比じゃない。

 投げ出した足をさりげなあくそっと引き寄せた。

 

 目をすがめたアイスが声だけは穏やかに言った。


「きみには躾が必要なようだ。これまで甘やかしすぎた。……ウィル、そこに座って?」


 そこ、とアイスが指さしているのは、アイスの前の床。


「……は? あの、そこ、床だけど……」


 分かってるよ、とほほ笑むアイスの目は、全く笑っていない。これはマジなヤツだ。


「そこに座って?」


 言い返そうと口を開けかけて、慌てて閉じる。

 俺は生まれて初めて「アイスって王族なんだな」と実感した。王族の威圧、半端ねえ。問答無用で「従うことが当然なのだ」と思わされる。

 しおしおと床に膝を付いた俺に、アイスが満足そうに頷く。


「よくできました」


 俺は犬かよ! と思いはしたが、賢明な俺は黙って口をつぐんだ。

 俺の従順な態度に気を良くしたのか、アイスの口が少しだけ緩む。


「あのね、あの話には続きがあったんだ。きみの状況はきみが思う以上に危うい。これまで国内の貴族は私が牽制することで抑えられていたが、他国が相手ではそうもいかない。あと一年だ。成人になれば婚姻が可能となる。そのタイミングで無理やり襲……こほん、婚姻させられては、こちらにも手の打ちようがない。国家間の争いになるからね。男同士だから、なんて言い訳は通用しない。彼らだってそれだけの覚悟をしてここに来ているはずだ」


 何で今頃、と思ったが、俺の成人待ちだったのか! 確かに、子供をいくら囲い込んだところでギリギリで覆されたら終わりだもんな。

 それにしても、これまでの俺、俺が思う以上にアイスに護られていたんだな。

 レグおじも、ヤバい親父ではなくそれなりの思惑があって動いていてくれたのか。俺信者の筆頭だなんて誤解していて申し訳ない。


 神妙な表情で話を聞く俺。

 うんうん、と頷く俺は、この話がどこに着地するのか理解していなかったんだ。


「だからね、婚約者のふり、ではなく正式に婚約を結んでおく必要がある。他国が付け入る隙を少しでも減らしておきたいからね。それがきみを守ることに繋がる。でもそれではきみは納得しないだろう? だが、それ以外にきみを守る術がない。悪いが、きみが嫌がろうと婚約はする。そういう意味での王命なんだ。私の気持ちを隠したまま婚約するのは卑怯だろう? だからきみに私の気持ちを伝えた。だが、ウィルの気持ちまで強要するつもりはないよ? 婚約はするけどね」


 俺はパカンと口を開けた。

 いや、だって、それって……。


「強要するつもりはないって、強要じゃん! 俺の気持ちがどうだって、無理やり婚約させるのは強要じゃん!」


 ビシっと指を突き付け抗議する俺。

 アイスはそんな俺を見てにこっと微笑んだ。いわゆる「王族が外交で見せる微笑み」というやつだ。


「婚約というのは、あくまでも制度上の話だからね。きみの気持ちは自由だよ? 私を好きにさせてみせる自身はあるけど。だってウィル、もう私のことをそれなりには好きだろう?」

 

 俺はガバリと立ち上がろうとして、足がしびれてバタリと転んだ。

 それでも負けずに腕を振り上げて叫ぶ。


「はああ?! はああ?! 俺が言ったこと、忘れたのか? 俺が好きなのは親友としてだってえの! そういう意味じゃねえんだよっ!」


 はいはい、とアイスが俺の前にしゃがむ。

 ギリっと睨む俺の顎をひょいと指であげさせ、首を傾げるアイス。


「じゃあ、ゼオライト殿下と婚約したい?」

「ねえし!」

「今のところ彼が一番の強敵なんだよ。ジルべリアはそれなりの大国だからね。戦で勝つ自信はあるが、貿易を止められると、正直痛い。あちらは同盟を組んでいるからね。国同士なら戦いようがあるが、周辺国全てを敵に回すのは避けたい。理解でいる?」


 冗談だろう、と言いたいが言えなかった。

 アイスの声が、表情が、アイスの言葉は一片の誇張もない真実だと告げてきたからだ。


 唇を震わせて視線を下げた俺の頭を、アイスが撫でる。

 子供扱いだ。

 だが、俺は……ガキだ。全く周りが見えていない、アイスたちが作ってくれた箱庭で遊ぶだけのガキ。



 

 ふう、と息を吐く。

 床にぺたりと顔を伏せる俺に、アイスが慌てたように言った。


「ごめん。怖がらせた?」


 伸ばされた手を、ガシっと掴む。


「怖がってねえ。いや、怖がってたけど、今は違う」


 掴んだ手をグイっと引っ張り、その反動で一気に立ち上がった。


「うわっ! ……ウ、ウィル?! どうした?」


 驚きの表情を浮かべたアイスを見下ろし、してやったという顔でニヤリと笑う俺。

 心を決めた。

 逃げても同じなら、立ち向かってやる。

 特殊スキル持ちが国を危険にさらしてどうする! 望んでいたスキルじゃねえが、俺だってこの国を守りたいんだ。



「アイス、行くぞ」

「え? どこに?」

「ウィル様、大丈夫ですか? ……壊れたのか?」


 メル! 聞こえたからな!


「陛下の所に決まってるだろう。善は急げだ。さっさと婚約しちまおう。婚姻でもいい。結果は同じだからな」


 

 

読んでくださいましてありがとうございます♡

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作者のモチベーションが爆上がりして踊り狂います。



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