またまた大ピンチ!
と。
真っ暗な部屋の中でごそりと誰かが動く気配。
「……ねえ、きみは誰?」
はぁ?
なんだ、誰かいるのかよ! マジか!
少し高温の声音。だが男だ。
バサッと音がしたところを見ると、本でも読みながら寝落ちでもしていたのだろう。
不用心なことだ。
俺はサッと立ち上がると、声の方に背を向けて扉に手を掛けた。
幸い、この暗さでは俺の顔はバレていないはず。このままとっとと逃げよう。
「すみません。扉が開いていたので、不審に思いまして確認に。まさか人がいるとは。空き部屋だと勘違いしておりました。失礼いたしました」
言いながら部屋の外の気配を伺う。
よし、人の気配はないな。行くか。
アイスたちはまだ来ていないようだが、ここでコイツと居るするよりは外の方がマシだろう。
「失礼をお詫びいたします。では」
とたん。カチという小さな音とともに、パッと部屋の中央に灯りが灯った。
「待って!」
「?!」
急に灯った灯りと声に、反射的に振り向いてしまう俺。
慌てて顔を背けたのだが、遅かった。
「わあ! ねえ、きみってすっごくキレイだ! もしかして、『スキル美の人』?! ボクはアルメルト国のミカエル・メルト。あのね、ボク新学期から……」
学習した俺は、はしゃいだ声をあげた相手が近づいてくるより先に、大慌てで外に飛び出した。
礼儀も何もかもかなぐり捨てて、逃げるが勝ち!
「急いでいるので失礼しまーーっす!!」
「あああーっ! ねえ、まってよお!」
数分後。
植木の陰にしゃがみ込んで隠れながら、俺は切ない気持ちで過去の自分を振り返る。
ああ。フードか何かを被って来れば良かった。せめてメガネだけでも。俺の馬鹿。勝手知ったる王城だからと、油断しすぎだろう。
行動指定範囲外に何があるのかを分かっていなかった。
「……坊……」
ん?
「ウィル坊~~~おいで~~~」
「どこにいるのかな?」
あの声は……!
「メルううう! アイスうう!」
「うわあっ! ウィル様! なんてところに!」
「ウィル! 良かった!」
バッと飛び出したままの勢いで抱き着いた俺を、アイスがしっかりと抱き留めてくれる。
そのまま俺の顔を抱え込むようにして、見えないよう隠してくれるアイス。
「無事で良かった。心配したんだぞ?」
心底安堵したような声音と頬に伝わる早い鼓動に、相当心配させてしまったのだと分かった。
「ごめん……。なあ、なんで俺がここに居ると分かったんだ?」
「さっき誰かを探しているようなゼオライトを見かけてね。珍しく狼狽していたから、ウィルに会ったのかと思って……。大丈夫だった?何があった?」
そうか、アイツか。思わずビクリと身を固くすれば、とんとん、と子供にでもするように背を優しく叩かれた。
とたん、泣きたくなるほどの安堵が俺を包む。ここに居れば大丈夫だ、と心底ほっとした。
すり、と無意識に頬を摺り寄せている自分に気付き、慌てて離れる。
自分で自分が怖い。俺はいつの間にアイスにここまで依存していたんだろう。
「そうですよ。迷い込むにしても、どうしてよりにもよってこんなところに……」
メル、それを言うな。俺だってそう思ってる。
「とりあえず、戻ろう。ここ、ヤベエよ」
アイスとメルの袖を引くと、二人はハッとしたように頭を前に振った。
「だね。誰かに見つかる前に急ごう。気分が悪くなった友人を支えていることにするから、大人しくしていて」
バサリと頭からアイスの上着を被せられ、二人に支えられるようにしてアイスの部屋に戻る俺。
最初は抱きかかえられそうになったのだが、それは断固拒否した。いくら何でも情けなさすぎる。
途中、幾人かの使用人とすれ違った。が、アイスが「すまない。友人の体調が……」と憂い顔でやり過ごしてくれた。王城での万能ガード、アイス。有難い。俺は今日ほどアイスを心強く思ったことはない。
メルも俺を助けてくれたのだが、アイツは俺を猫の子でも呼ぶようにして探していやがったからな。いくら名を呼べないにしても、もう少し言いようがあるだろうが! あれは絶対に面白がっていた。
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