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特殊スキル「美」を持つ令息は、道端の石になりたい。  作者: をち。
ウィル17歳

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20/40

なりふり構う余裕はない

 口元には笑みを浮べているというのに、その目が全く笑っていない。

 俺は知っている。この顔をしたときのアイスには要注意だ。


 じりじりと後じさりすると「逃がさないよ?」とぐっと腕を掴まれた。

 そのまま強引に引き寄せられ、キスしそうなほどの距離で囁かれる。


「傍で護ればいいと思っていたんだけど、状況が変わった。もう牽制なんて言っている場合じゃないんだ。きちんとした形にせねば、他国に隙を突かれる。嫌だろうとなんだろうと、ウィルには私と婚約し、結婚する道しかない。そのために法律まで変えたんだ。可哀そうだが、諦めてくれ」


 おい!近い!

 諦めろって? 俺にも諦められるものとそうじゃないものがあるんだよ!

 ドンと両手を突き出し、必死でアイスを遠ざける。


「諦められるかよ! アイスは俺の親友だろ? 俺から親友を奪うつもりか! それとも、特殊スキル持ちを手に入れるために、親友のふりをして俺を騙していたのかよ!」


 言いながら、むなしくて情けなくてたまらなくなった。

 だって、アイスだけは違うと思っていたのに。メルはともかくとして。

 俺はそれなりにアイスと友情を育んできたつもりだった。でも、アイスはそうじゃなかった。

 俺を他国に取られないために、俺の周囲を牽制するために、俺の側にいたのか? 親友だと思っていたのは、俺だけだったのか?

 そんなの、俺を崇める信者より酷い。

 胸が痛い。苦しい。目頭が熱くなる。こぼれそうになる涙を、奥歯を噛んでグッと堪えた。

 ちきしょう!


 するとアイスの腕の力が少し抜けた。


「…………親友なら、愛してはいけないのか?」


 初めて聞くような小さく弱弱しい声。

 「は?」と思わず聞き返すと、今度はまるで喧嘩でも売っているかのように大声で叫ばれた。


「親友を愛してはいけないのか?!」


 その声音の切実さに思わず顔を上げた俺の目に映ったのは、泣き出しそうに悲痛な表情をしたアイスの顔だった。

 アイスの言葉とその表情に驚き、出かけた涙が引っ込む。

 俺はアイスに気圧されたように、こう口にしていた。


「い、いや、いけなくはないけど……」


 するとアイスがパチリと瞬きをし、ふう、と息を吐いた。

 何度か息を吐いて吸って。何かを振り切るように顔を上げた時には、迷いの無い表情になっていた。

 

「私はウィルの顔が好きだ。美しい太陽を移したようなその髪も、空を宿したその瞳も、生意気そうなカーブを描くその唇も、ツンと尖った鼻も、何もかもが好ましい。それになにより、ウィルの純粋さ、優しさ、善良さが好きなんだ! 貢物に困っているくせに、それをくれた一人一人の名を覚えているところが。律儀にコッソリとお返しを送っているところが堪らなく好きだ! どんな相手にでも丁寧に接する生真面目さが好ましい。身分や外見におごらず、勉強や体術など努力を惜しまないところも。屋台の物を美味しそうに食べるところも可愛いと思う。小さなことに喜びを見出すところも、好きだ。親友だからこそ知ることができたウィルの全てが好きなんだ」


 息もできないというのはこういうことを言うのだろう。

 俺の目を見つめながら真摯に告げられた言葉。そのアイスらしからぬ飾らぬ真っすぐな言葉は、だからこそストンと俺の中に入ってきた。


 俺はずっとこの美しさを讃えられてきた。

 天使だと、女神の化身だと、目にするだけで幸せになれるのだと、ありとあらゆる言葉を尽くして讃えられてきた。

 でも、アイスの言葉のほとんどは……俺の外見じゃない。俺の芯の部分、俺の中身に関することだった。

 俺自身が当たり前だと思っていることの数々。俺の日常の姿。そういったものをこそ、アイスは好ましく思ってくれていたのか。親友だからこそ知った俺の姿を。

 そう思ったら、急に顔に熱が集まった。


「……あ、あれ?」


 かあっと赤くなったのが分かる。なんだ、どうした?

 心臓がドキドキとうるさい。

 わああ! 俺、絶対におかしい!


「……ウィル? どうした? 大丈夫か?」


 急に黙り込んで赤くなった俺を心配し、アイスが顔を覗き込んできた。

 え? こいつ、こんな顔だったか? めちゃくちゃカッコよくないか?

 それに、いつも俺を見るときこんな目をしていたのだろうか。愛情と気遣いに満ちた、こんな目を。


「わ……」

「わ?」

「わああっ!」


 ドッカーン!


 俺はアイスを渾身の力で突き飛ばし、アイスの部屋から弾丸のように飛び出した。


「ウィル?!」

「ちょっと、どこに行くんですか?!」


 待て、と焦ったようなアイスとメルの声が聞こえた気がしたが、俺の足は止まらない。


 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!!

 ま、まさか、まさか、俺………


「わああーーーっ! ないないない! ねえよ、今さら! 俺はそんなにチョロくねえーっ!」




 

 混乱のままに王城を駆けまわった俺は、王族のプライベートゾーンから出てしまっていたようだ。


「……どこだ、ここ……」


 王城は広い。気がつけば見覚えのない通路に居た。

 俺の知らないゾーンというと、文官など多数の人物が出入りする執務棟か、来賓専用の南棟か?

 いずれにせよ、アイスから知らされた俺の状況をから察するに、よろしくない状況だ。


「……どうしよう」


 ぽり、と頬を掻き途方に暮れる。

 これは下手に歩き回るより、人の居ない場所を探し、アイスとメルが見つけてくれるのを待つか?



読んでくださいましてありがとうございます♡

少しでもいいねと思っていただけましたら、ぜひ☆をポチっと……|ω・)チラリ


作者のモチベーションが爆上がりして踊り狂います。



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