俺の危うい立場
アイスから見た俺の立場は、俺の思っていたものとは全く違うものだった。
俺の存在価値は、俺自身が思っていた以上に高いものだったようだ。
「あのね、スキル持ちの価値はとても高いんだ。実際にこの国は女神によるスキルのお陰でここまで大きくなった。つまり、他国にとって喉から手が出るほど欲しいのが、特殊スキル持ちなんだ。通常のスキルならば問題ない。女神の力の及ぶ範囲、つまりこの国を出たら無効となるものだからね。たとえ巨匠と呼ばれる職人だろうと他国に連れ去られるとか引き抜かれるだとか、そういう心配はない。無駄だからね。剣術にしても、ほとんどは本人のもともとの資質と努力に由来する。これもまた問題はない。でもね、例外は存在する。それが特殊スキルだ。特殊スキルである勇者も『この国への脅威を排除するために』授けられた。実際に彼は《《この国の外で》》他国をその圧倒的な力で退けたのだという。つまり、特殊スキルは『この国の外でも使える特別なスキル』なんだ」
真面目な顔で何を言い出すかと思えば、そんなことか。
「そりゃあそうだろうな。国内に攻め込まれぬようこの国を守るのが勇者だからな。外で戦うこともあるだろう」
何を当たり前なことを、と思っていると、アイスに突っ込まれた。
「何を当たり前のことを、みたいな顔をしているけれど……分かってる? これは君にも当てはまるんだよ?」
「だろうな。美だもん。消えたり戻ったりするわけないじゃん。でもさ、忘れてないか? 俺の顔は生まれた時からこれだ。正直、スキルによるものというより、生来のものだと思うぞ?」
至極真面目に伝えれば、それにはアイスも同意してくれた。
「うーん。それについては私も同感だ。どこまでがスキルでどこまでが生来のものかと言われると、微妙なところだよね。でも、分かってる? どちらにしても、君の美は多くのものを虜にする。その他者を魅了する美は《《他国に行っても通用する》》ということなんだよ? おまけに他国に狙われても、過去の勇者たちのように武力で自分の身を守ることができない。君のスキルは美だからね」
「ああ。だが、特殊スキルっていったって『美』だぞ? 使い道なんてないと思うんだが……。わざわざ特殊スキルだのなんだの女神が言い出すからこんなことになってるだけで」
だから問題ない、と苦笑した俺に、アイスもメルも大きなため息をついた。
「ね? この人、分かってないんですよ」
「うん。メルの言う通りだ。説明したのに、全く分かっていない。それがウィルのいいところでもあるのだけれど。悪いが、今はそう悠長にしていられないんだ」
まるでアホの子を見るかのような視線で俺を見ながら、当事者の俺抜きでなにかしら分かり合うメルとアイス。
その訳知り顔がムカツク。
「おい! 二人で分かり合うなよ! 俺にも分かるように話せ!」
ムッと口を曲げる俺に、アイスが困ったように片手を額に当て、形のいい眉を下げた。
「端的に言うよ? 君は他国から狙われている。周辺諸国が君の卒業前に一斉に動くようだ」
「……は? 俺が? え? なんで狙……っ?」
衝撃の事実に思考がまとまらない。
だって、スキル『美』なんて周辺諸国にどんな利益が? 少なくとも俺以外には害にもならなければ得にもならないスキルだと思うんだが?
ガーン、とショックを受けていると、二人に渋ーい顔をされてしまった。
「アイス様、反省してください。王族と公爵家でがっちり囲い込んで甘やかした結果がこれです」
「うん。囲い込んだ自覚があるだけに、反省している。だって優秀なのに抜けているって、ものすごく可愛いよね?」
「私の好みではありませんが、確かに、この人の抜けているところを割と気に入ってはいますね。ですが面白がってはいられないようです。《《そういう意味での婚約》》なのですよね?」
「さすがはメル。そう。《《そういう意味での婚約》》だね。そろそろ悠長にしていられる余裕がなくなってきたんだ」
またしても二人だけで分かりあっている。なんだよお前ら、仲良しだな!
「おい! 俺は王命について言及しに来たんだが? 俺をのけ者にするなよ! 寂しいだろうが!」
拳を握って訴えたら、馬鹿な子を見るような目でため息をつかれてしまった。
「こういうところでしょう?」
「こういうところだよね」
「おい!」
ここでアイスの纏う空気が変わる。目をスッと細めて、口元から笑みを消すアイス。
「では、真面目な話をしよう。これを聞いたら、もう逃げることはできないよ? 覚悟はいい?」
ギラリと光るその瞳に、俺は先ほどの発言を撤回したくなった。
やっぱ聞きたくない、ってアリ? あ。ダメか。
アイスが語った内容は、確かに「余裕がない」という言葉がピッタリくるものだった。
俺は自分の「特殊スキル『美』」をたいして意味のないもの、むしろ邪魔なものだと捉えていたのだが、実はかなり効果を発揮していたのだ。
そう。「いるだけで国を豊かにする」という方面において。
他国が「欲しい」と思うくらいに王国は変化していた。
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