そして現在~ウィリアムとアイスリードの婚約
そして17歳。
まさかの王城からの手紙に、俺と母は困惑しきり。
「叔父上がなぜわざわざ蜜蠟で封をした手紙を? こんなことをせずとも、毎週顔を合わせているのに……」
首をひねる俺を母が急かす。
「それだけ重要だということでしょう。とにかく開けてごらんなさい」
嫌な予感しかしない。
王城に行けばすっ飛んで来るレグおじ。そんなレグおじがわざわざこんな面倒な手段をとるなんて、間違いなくろくなことじゃない。
思わず鼻の上に皺を寄せると、すかさず母に見咎められた。
「もう! 嫌な顔をしないの! 陛下に甘やかされているといっても限度があるわ。あなたも貴族の家に生まれたのだから、蜜蝋付きの手紙の重要さは理解しているでしょう? さっさと開けなさい!」
開けたくはないがそうもいかず、震える指で渋々封を切る。
この物々しさだ。可能性は薄いが、茶会の招待状とかそういうのであってくれ!
祈るような気持ちで書状を開けると……
「! 王命だ!」
なんてこった!
「……此度、法改正により我が国においても同性同士の婚姻が可能となった。故にバークレー公爵家嫡男であるウィリアムを、第二王子アイスリードの婚約者とする。アイスリードに新たな爵位を与え家を興すことも可能であるが、ウィリアムが公爵家嫡男であることを鑑み、希望あらばアイスリードをバークレー公爵家の入り婿としての降家も可能とする。これは王命である。余程のことがない限り、覆らぬものと心得てほしい……はあぁ?!」
いや、法改正ってなんだよ? いつの間にそんなことになってたんだ? それよりなにより
「俺がアイスの婚約者? 嘘だろ! レグおじはいったい何を考えているんだ?」
唖然とする俺。
遅れて母も叫んだ。
「ウィルが同性婚⁈ 王族が我が家に婿入りって、本気なの? どうしましょう、ウィル!」
母が俺の襟首をつかんでガクガクと揺さぶってくるが、俺だって訳が分からん!
「いや、叔父上が俺のことを好きすぎるのは知っていますが、まさかこんな強硬手段に出るなんて思わないでしょう! 法改正まで! いくらなんでもやりすぎだ!」
青ざめる俺に、メルが神妙な表情でひとこと。
「……レグルス陛下ですよ? 赤子のあなたを見初め、息子ではなくあなたの肖像画を部屋に飾って眺めるようなお方ですよ?」
ヤバい。説得力がありまくる。
母の目も俺の目も一気にうつろなものになってしまった。
「あ゛ーー! くっそ、叔父上ならやるわ! 俺、王族の本気を舐めてた! 代々の特殊スキル持ちが王族と婚姻を結んだっていうのは知っていたが、今代の王族には男しかいないだろ? だから大丈夫だって思って安心しきってたんだよ! だって、いくらなんでも法改正までしてくるとは思わないじゃん? 俺は悪くない! ……よな?」
涙目で正当性を訴えると、メルはともすれば優しいとも思える声、しかし容赦なく俺を刺した。
「ウィル様は悪くありません。悪いのはあなたのスキルです」
「くっそお! またそれか!」
頭がぐるぐるする。俺の知らないうちに俺の未来が決められていく。そのことにゾッとした。
確かに俺は特殊スキル持ちだ。だからといって、俺の意志を無視していいというわけじゃないだろう!
特殊スキルもちがいるだけで国は平穏なんだよな? だったらもっと俺の意志を尊重しろよ!
「う、ウィル、落ち着きなさい! とにかく、お父様に相談しましょう! 騎士団に伝令を出すわ! お帰りを待ちましょう」
震える声で叫んだ母が大急ぎで父に伝令を飛ばし、家令たちを呼んでなにやら密談を始めた。
俺はメルと部屋に戻り作戦会議、という名の愚痴り大会。
こうしてプロローグのシーンに至るというわけだ。
メルとああでもないこうでもないと話をした結果、分かったのは、俺に残された時間が少ないということだけ。
父が断ってくれればいいが、万が一ということもある。打てる手は打っておかねば!
とにもかくにも、ここでごちゃごちゃ言っていても、埒が明かない。
俺の知る限り、アイスが俺にそういう目を向けてきた記憶はない。だからこれは、叔父上の暴走だという可能性が高い。
ならば、アイスをこっちの味方に引き入れればいい。
婚約を結ぶ本人同士の話し合い、というやつだ。
よし! そうと決まれば善は急げだ!
俺は上着と書状をひっつかんだ。
「メル、王城へ行くぞ! とりあえずアイスに話を聞いてみよう」
「……うーん。無駄だと思いますけれどもねえ……」
煮え切らない態度のメル。
おい、主人の危機なんだぞ? もっと俺に協力しろよ!
ドタバタと支度をし、難しい顔で家令と額を突き合わせている母に向かって叫んだ。
「母上、ちょっと王城に行ってきます!」
「ウィル! 待ちなさい! お父様のお帰りを待ってからにしたほうが……」
「いや、王命ですよ? そんなの待ってられません! アイスに話を聞いてきます!」
母がごちゃごちゃ言いだす前に、俺は大急ぎで屋敷を飛び出したのだった。
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