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特殊スキル「美」を持つ令息は、道端の石になりたい。  作者: をち。


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初めての夏休み5

 その後も俺たちはいくつかの露店で色々なものを買い食いした。行儀悪く齧りついたり、指でつまんだりして食べた。御者おススメのピタパンも俺の腹に収まったことは、言うまでもない。

 不思議なことに、家で食べるシェフ渾身のデザートよりも、道端でかじりつくパサパサのパンみたいなクッキーの方が美味く感じる。(いつも俺のためにと腕を奮っているシェフには申し訳ないが、そう感じるのだから仕方がない)

肉だって、霜降りでもなんでもない固い筋と筋肉の塊のような肉なのに、無性に美味かった。

 周りの喧騒、生活の匂い、通り抜けていく風、さあさあと流れる噴水の音。そして隣で笑う親友たち。

 最高の味というのは、きっとこういったすべてから形作られるのだろう。

 ああ、最高の気分だ。


 恐らく時間にしたら二時間足らず。だがそれが俺には人生最良の時間だった。

 露店を回って、近くの雑貨店をひやかして。観光客用に売られている、馬鹿みたいに安っぽい、王城を模した小さな模型を五つ買った。

 不思議そうな表情で「そんなにも要らないだろう」と首を傾げるアイスに、ちちちと指を振ってみせる。


「馬鹿だなあ! 俺のじゃない。ほら、アイスとメルにひとつずつな! ルドとフィスにもやる!」

「私の分?」

「大盤振る舞いですね」

「あー……初めてのお忍び記念、みたいな? ……すっごく楽しかったから。ありがとな、みんな!」


 ニカッと笑うと、メルがくすりと笑みをこぼし、慌ててスンと無表情を取り繕った。見てたからな、メル!

 王族であるアイスにとっては赤子の玩具みたいなもんだろうに、俺が渡した模型をアイスは大切そうにハンカチに包んで懐に入れた。


「……ありがとう。大切にする」


 かすれた声で礼を言ったあと、まるでダイヤモンドでも贈られたかのように、心底嬉しそうにほほ笑むアイス。


「大げさだなあ! てか、メルは何かないのか? 」

「ふは! ……ありがとう。私も大切にします。部屋に飾りましょうね」


 ルドとフィスは「ええ? 私たちもいいんですか?」と恐縮しつつ、「アイス様、受け取ってもよろしいでしょうか?」となぜかアイスを気にしていた。

 俺がいいって言ってんだから、いいんだよ! 



 少し予定より遅くなってしまったので、待たせてしまった御者にとピタパンとコーヒーを買って馬車に向かった。出来立てを買ったから、温かい。

 馬車の前に立って待っていてくれた御者は、俺たちの姿にほっとしたようにその顔をほころばせた。


「何事もなくお戻りになられてほっとしました。そのお顔では、良いお買い物ができたようですね」


 どうやら、スリやたかりにでもあったのではないかと心配してくれていたようだ。


「すまない。待たせたな。思いのほか良いものが多くてな。つい時間を忘れて楽しんでしまった。心配をかけたようで申し訳ない。待たせた詫びにこれを。おすすめいただいたパンがとても美味しかったのでな」


 アイスがパンとコーヒーを渡すと、御者が人の良さそうな顔でにこっと笑った。


「いいえ、たいしたことありません。かえって申し訳ない。ありがとうございます」

「ああ。おかげでとても楽しめたよ」


 くすりと笑うアイス。

 俺もメルも目を見合わせてこっそりと笑った。

 ああ。楽しかった。生涯忘れないと思う。本当に。



 なんて。

 今思えば15歳の俺のなんと初々しかったことか。

 

 そりゃそうなるよな。

 生まれてからずっと俺は美しすぎたせいでほぼ家から出して貰えなかった。

 その唯一の例外が、王城だ。

 レグ叔父上のおかげで俺は王城を第二の家のようにして育った。

 当たり前なのだが、王城の警備は公爵家よりもしっかりしていたし、プライベートゾーンへの立ち入りが許されていた使用人も厳選されたごく一部の者だけだったから、「特殊スキル美」を持つ俺でも安心して過ごすことができたのだ。

 それに王城にはレグ兄とアイスが居た。

 だが逆を言えば俺の世界はそれだけ。王城と公爵家、教会くらいしかなかったのだ。

 

 最後の砦とばかりに期待をかけた貴族学園さえ、なかなかのハードモードだった。貢物の嵐に遭い、熱い視線を一日中浴び続け、多くの信者から拝まれ続ける日々。

 夏休みの開放感で、ちょっとしたお忍びを計画するくらい、仕方がないと思う。それくらいは許されるだろう。

 

 そんなわけで「街に出て買い食いをする」ただそれだけのことが、俺には最高のことだったのだ。

 今の俺には分かる。きっと、アイスがいなければこんなことすらできなかった。

 アイスは「王族である自分」よりも「ただのウィル」を優先してくれた。「特殊スキル持ち」の俺よりも。「ただのウィル」の気持ちを優先させてくれたのだ。

 だからこそ、俺は親友アイスを信頼しているし、失いたくないと思っているのである。

 

読んでくださいましてありがとうございます♡

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作者のモチベーションが爆上がりして踊り狂います。



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