初めての夏休み4
馬車から降りた俺が真っ先に向かったのは、前からずっと食べてみたかった肉の串焼きだ。
何の肉なのかは分からないが、みんな美味そうに齧りついている。不味いはずがない。
炭の上でジュウジュウと肉から落ちた油が跳ねている様は、壮観としか言いようがない。くうっ!たまらん!
よく見ると、どうやらタレをつけて焼いたものと、塩と胡椒で焼いたものと2種類あるようだ。
「塩とタレりょうほ…
「ウィル、他にもいろいろ食べるんだろう? 入るのか?」
両方欲しいと言いかけたところを、メルに止められた。
「メルが半分食えばいいだろ」
だって見てみろ、このうまそうな肉! 油が炭に落ちるたびに、ジュっという音とともに食欲をそそる香りが立ち上ってくる。
塩は塩で美味そうだし、せっかくだからタレの味も試したい。
だって上品な食事には飽き飽きなのだ。平民の味は濃くて腹に来ると聞いた。どんな味なのか興味あるだろう?
こっそりとメルの耳に囁けば「近い!」とアイスに襟を掴まれ引き剥がされてしまった。
「なら私が塩を頼んで少し分けてあげるよ。それでどう?」
「アイク……様! いいのか? じゃない、いいんですか? それでお願いします!」
屋台のオッサンがゲラゲラ笑いながら「はいよ! アンタいい主人をもったなあ」と塩とタレの串を渡してくれた。
「ああ。すごくいいご主人様なんだ」
笑って串を受け取ろうと腕を伸ばした瞬間、ゴオと突風が吹いた。
「わあっ!」
なんとか串を死守して「危なかった」と隣を振り返ったとたん、慌てたアイスにバサリとフードを被せられた。
突風でフードが外れてしまっていたようだ。
「ありが……
言いかけた俺の目の前に、グイっと大量の串が差し出される。
「? いや、こんなに頼んでな……「好きなだけ喰ってくれ!」
言いかけたところでオッサンが食い気味に言葉を被せ、身を乗り出してきた。
「アンタみたいな美人さん、初めて見たぜ! なあ、もう一度顔を見せてくれないか? できればその眼鏡をはずして……
「気持ちだけ受け取っておこう! では、邪魔をしたな店主!」
「え? 串……
「いいから、行くぞ!」
俺とオッサンの間にアイクとメルが身を割り込ませてきた。
大量の串を差し出す店主をそのままに、俺はアイスとメルに襟首を掴まれるようにして店の前から連行されたのだった。
噴水の前のベンチに座った俺は、前に立つ二人に見下ろされながら、こんこんと説教されている。
「何が悪いか分かっているか?」
「……いや、だって、あれは風のせいじゃん」
「ウィル、しっかりとフードを押さえておけと言っておいただろう?」
「だって、串を落とすわけには……」
「だってじゃない! そんなものくらい私が何本でも買ってやるから! ……頼むから自分をもっと大事にしてくれ……!」
「言い訳するな」とくわっと眦を吊り上げる二人。
いや、だってちょっと風でフードが飛んだだけじゃん。眼鏡もしてたし、鼻から下のスカーフは無事だったんだからそこまで言うほどのことではないのでは?
それにせっかくの串が冷めちまう。どうせ説教するなら食べてからにしてくれないだろうか。
ちら、と上目遣いで様子を窺う。
そんな俺の気持ちを読んだかのように、二人は大きなため息をついた。
「……理解していないようだが、フードと眼鏡とスカーフ、その三つが揃って初めてギリギリでウィルのスキルを押さえているんだよ? あの店主だってすぐに反応していただろう? 渡された大量の串を何だと思ったの?」
「……初めての客へのサービス?」
これは自分で言ってもちょっと苦しいかなって思った。
案の定、メルが道端の毛虫でも見るような目で俺を見る。
「ウィル……すぐにバレるような嘘をつくな。買い食い禁止にしてもいいんだぞ?」
アイスがいるというのに、「いい侍従」という猫を被るのを忘れている。つまりはそれくらい怒っている。
これはヤバい!
「すまん! 俺が悪かった! めっちゃくちゃ気を付ける! 絶対にフードは取らないし眼鏡も取らないし、スカーフもがっちり巻くから! ……串食っていい? 冷めちまう」
へにょりと眉を下げてお願いすると、左右から塩、タレの串を奪われ「どうぞ」「ほら」と差し出された。
いや、自分で食えるが?
「半分俺に食えと言ったのはお前だろう?」
確かに。これ以上ごねるのもなんだから、そっとスカーフを下げ、さっさと口をあけてメルの串に食いついた。
「! んむ! ほ、ほれ、ふはい! ふまいぞ、メル!」
もぐもぐと高速で口を動かし、もっとくれ、と口を開けて催促。
「……そういうところだと思うよ?」
「? 何が?」
「君は不用意なんだよ。もう少し周りに気を付けようね?」
「?」
「スカーフ」
言われてハッとした。そうだ! さっき「しっかりと巻く」と口にしたばかりだった!
「……でも、これはしょうがなくないか?」
スカーフを巻いたままで食えるはずがない。
「しょうがなくはないだろう。もっと周りを確認してからにしろ。アイス様が人の目に触れぬよう隠してくれたからいいが、そうでなければすぐに囲まれていたぞ」
すかさずメルがまた説教モードに入りそうになったので、慌てて誤魔化した。
「ありがとうな、ご主人様! あ、ご主人様のタレもくれ!」
あーん、と口を開けて見せれば、苦笑したアイクが俺の口にタレの串をそっと差し込んでくれる。
「私の理性に感謝して欲しいな?」
「ふわ! タレふはい! ん……っ! こっちの方が俺、好きだな。おま……、ごほん、ご主人様たちも食ってみろよ」
しっかりとスカーフを巻き直してから薦めると、呆れたように首を振り振りアイスとメルが俺の左右に座る。
「ん! これは確かに! サッパリした塩にコショウがいいアクセントになっているな!」
「タレもなかなかですよ。濃厚な甘さと塩辛さがクセになる味です。 ……パンが欲しいですね」
二人とも大絶賛だ。うんうん。分かる分かる、美味いよな。
「だろー! こういう味付けをウチでもして欲しいんだが、味を濃くって頼んでも、下品だからって嫌がるんだよなあ。これが庶民の味かあ……羨ましいな」
しみじみと語る俺を、アイスが真面目な口調で諭した。
「塩はともかく、タレは肉体労働の者にはちょうど良さそうだな。だが、普段食べるには身体によくないのではないか?」
うるせえ! お前ってそういうとこあるよな。こういうときは黙って「美味いよな」でいいんだよ!
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