初めての夏休み2
結局、苦肉の策として、俺の顔には炭が塗られることになった。全体的に汚してしまおう、作戦だ。
ハンカチに暖炉の炭を付けたメルが、その眉間に皺を寄せる。
「ウィル様の顔が美しいのは理解できますが、それに価値を見出してはいなかったはずなのに……。どうしてでしょうか。いざ汚すとなると、なにか悪いことをするような背徳感を感じます」
なんてこった! 俺の美しさのせいで、メルがいけないものに目覚めてしまった。
メルという犠牲を出したが、炭自体は大変効果を発揮した。
見えている箇所全体に薄く伸ばしてみたのだが、程よく薄汚い感じになって、一気に平民感が増す。
「なあなあ! 俺、カッコよくないか? 炭ってすごいな!」
興奮のあまりアイスの襟元を掴んで揺さぶれば、アイスが驚いたように目を見張った。
「確かにこの距離でも耐えられる! カッコいいかどうかはおいておくとして、炭に効果があるのは間違いないようだな」
耐えられる? いつもの俺はなんなんだ? ちょっとコイツの言い草も酷い。
が、メルの提案した炭のおかげで俺は大満足である!
「なあ、メル、これでいいだろう? ルドとフィスを連れて来いよ。俺だって気付かれなければ合格ってことでいいよな?」
「……はあ。まあ、そこが妥協点でしょうね」
果たして、ルドとフィスは俺に気付かなかった。
「アイス様、どうされました?……あれ? ウィル様はどうされたのですか?」
「そこの平民は何故ここに?」
首をかしげる二人に、俺はマントを外して見せた。
「はーっはっは! 俺だよ俺! どうだ、気付かなかっただろう! 平民に見えたよな?」
「「ウィル様?! 何をされているのですか?!」」
「平民に見えただろう? 見えたよな? 見えたって言えよ!」
グイグイと迫る俺に、側近コンビが困惑しながら後ずさる。
そして言いにくそうに口を開いて曰く。
「一応見えましたけれど……でもあなた、背を向けていらしたじゃないですか」とルド。
「顔に何を塗っていらっしゃるのですか? よくアイス様とメルが許しましたね。その顔を汚すなんて、神への冒涜です」とフィス。
「よし! ルドは合格だ! フィスはアウト! フィスも俺の顔には引っ掛からないと思っていたのにっ! お前も俺の信者だったのか! 俺の信頼を返せっ!」
慌ててフィスと距離をとる俺に、フィスが焦ったような声をあげた。
「ちょ、ちょ! 一般的な話ですって! 別に信者というわけではありません! アイス様の従者としての誇りがありますから!」
いや、それ従者じゃなかったらアウトってことじゃん。
ジト目の俺にアイスが苦笑。
「まあまあ。そんなにイジメないでやってよ。ウィルといて理性を保てているだけ凄いと思うよ?」
「お前だって理性を保ってるだろ」
「私と兄上は、生まれた時からウィルに接しているからね。耐性がある」
人を黴菌のように言うな。幼馴染の親友でもこれだ。
生来の美貌のせいかスキルのせいなのか、どっちだ? マジで俺の「スキル美」はクソだと思う。
とにもかくにも、ルド&フィスがギリギリ俺を平民だと認識したため、お忍びは決行されることとなった。
「アイスに庭を案内してくる。その後は王城に行くかも」
そう執事に告げ、アイスが「ルドとフィスが居るから公爵家の使用人は必要ない。いつも監視されているのだ。たまには人の目の無いところでゆっくりさせてくれ」と言えば下準備完了だ。
庭を見ているふりをして、こっそりと裏門から外に出る。
ちなみに門番は俺がたらし込んだ。
マントと眼鏡を外してそっとその手を握り「ちょっとだけ外に出て来る。みんなには内緒にしておいてくれ」とやるだけの簡単なお仕事だ。
こういうことくらいしかこの顔の使い道はないからな。
普段辛酸を舐めさせられているんだ、これくらいの利点はあってもいいだろう。
しっかりとマントを被り直し、眼鏡をかけたら準備完了。
「おい、ウィル。もっとスカーフをあげておけ」
アイスがグイっと俺のスカーフを持ち上げた。
「あ、ああ。ありがとう」
準備完了だ。
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