表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/17

第九話 模様替え

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

今日はなんだか、胸の奥が少しざわざわしています。

理由はよくわかりません。ただ、窓の外を見ていると、空の色が昨日より少し明るい桜色に感じます。

私はピンクの靴を履いて、玄関のドアをそっと開けました。

空の色が濃く見える方へ、お散歩してみようと思ったのです。


石畳には、ところどころに赤いものが落ちていて、とても綺麗です。

ぴちゃ、ぴちゃと音を立てながら歩いていくと、お坊さんが大きな袋を引きずっていました。

歯を全部見せて、目元が下がった素敵な笑顔です。

太いロープでしっかり縛られた大きな麻袋は、時々もぞもぞ動いています。

私が立ち止まって見つめると、お坊さんはこちらに気づいて、手を振ってくれました。

「こんにちは、マシュマロちゃん。

こっちに来るのは珍しいね」

私は嬉しくなって、小さく手を振り返しました。

「その袋、ずいぶん重たそうね。

お寺に持って帰るの?」

お坊さんは笑顔のまま、袋を蹴飛ばしてみせます。

袋がびくりと動き、「ぎゃうっ!」という音が鳴りましたが、すぐに静かになりました。

「面白いボールだろう?

ゆっくり楽しもうと思ってるんだよ」


少し先では、おばさんが小さな女の子と遊んでいました。

おばさんは女の子を小さな椅子に座らせて、にこにこ笑いながら優しい声で歌っていました。

「可愛い赤ちゃん泣かないで

ママが小鳥を買ってあげる……」

おばさんは泣いている女の子を優しく撫でながら、可愛い鳥のブローチをほっぺにつけてあげています。

「それでもあなたが泣くのなら

ママが子犬を買ってあげる……」

おばさんは歌いながら、白くてうねうねしているものを手に取り、女の子の口にそっと入れました。

女の子が「ひぃっ……!」と体をよじらせると、おばさんがあやすように続けます。

「泣かないでね……私の可愛い赤ちゃん。

もっと綺麗になりましょうね」

おばさんの歌に合わせて、女の子の耳や目の中から、白いものがくねくね出てきます。

女の子は泣きやんで、嬉しそうに踊りはじめました。

私はその様子を見て、暖かい気持ちになりました。

「おばさん、優しいね……

赤ちゃん、とっても幸せそう」


空の桜色が濃いほうに歩いているうちに、見慣れない場所に出ました。

「……こんな場所、あったっけ?」

目の前に、綺麗な新しい道が続いています。

白くてピンクがかった石畳がまっすぐに伸びていて、その両側に、ふわふわした白いおうちがずらりと並んでいました。

おうちはどれも同じような形をしていて、壁が少し柔らかそうに膨らんでいます。

屋根のところどころに赤い模様が浮かんでいて、中でなにかがぷくぷく動いているように見えました。

道の両側には、ピンク色の小さな花壇が等間隔に置かれていて、中には赤くてぬるぬるしたものが、きれいに並べて飾られています。

私は目を輝かせて、道を進みました。

「わあ……とっても可愛い……」

道の真ん中には白いベンチが置かれていて、

ベンチの背もたれには、細い赤いものがいくつも垂れ下がっていました。

リボンみたいに優しく揺れていて、とても綺麗なのです。

私はベンチにちょこんと座ってみました。

ベンチの下に、赤いリボンを付けたお姉さん人形が落ちています。

目が大きくて、口がにこにこ曲がっていて、とっても可愛いお顔です。

よく見ると首が少しずれていて、細い管のようなものが、一軒のおうちの壁に繋がっていました。

「この子も、おうちの一員なんだね……」

窓を覗くと、中には家族がテーブルを囲んで座っていました。

お父さんとお母さんとお子さんで、みんな同じ方向にきれいに並んでいます。

テーブルには、大きな骨つきの赤いものが三つ、同じ間隔で置かれていました。

お父さんは、テーブルをじっと見つめています。

お母さんは、少しだけ首を傾けて、天井に微笑んでいました。

お子さんは、手をテーブルに置いたまま、動かしていません。

私は窓ガラスに軽く額をくっつけて、しばらく中を眺めていました。

「わあ……みんな、とっても仲良し。

ごはんの時間、楽しみにしてるのかな」


新しい区画を少し奥まで行ってみると、石畳が欠けて、ざらざらした感じになりました。

ここから先は、古い建物が集まっていて、なんだか取り残されたみたいに、色が薄くなっているのです。

「ここ、なんだろう……」

ふいに地面が、ゆったりと揺れ始めました。

遠くの方から、めき……めき……と重い音が聞こえてきます。

私は足を止めて、じっと見つめていました。

遠くの地面が、ゆっくりと割れていきます。割れ目の中に、白くて硬そうなものが、ぎゅっと並んでいるのが見えました。

まるで、地面が大あくびしたみたいです。

やがて、赤くて大きなものが、割れ目の中から、ぬるっと這い出してきました。

それは、のんびりと周りのおうちや道を、そっと撫でるように動いていきます。

表面で、建物に混じってたくさんの何かが動いているのが見えましたが、赤いものにくっついたまま、割れ目の奥に入っていきました。

しばらくの間、ごり……ぼり……という音が響いてきます。

私はそれを聞きながら、じっと立っていました。

やがて地面の割れ目が閉じると、そこには建物も、道も、みんなきれいになくなっていました。

私は小さく息を吐いて、呟きました。

「……すごい、地震だったな……」


揺れがおさまると、お空の桜色が次第に薄れていきました。

何もない平地になった区画から、回収屋さんのトラックが、こちらに走ってきます。

おじさんは、私の前でトラックを停めて、にこにこ笑顔で挨拶してくれました。

荷台には、黒い箱がたくさん積まれています。

「おはようございます、マシュマロちゃん。

あさっての夜は少し冷えましたね」

私は少し興奮しながら駆け寄りました。

「おじさん! さっき、すごく大きな地震がありましたね!」

おじさんは、荷台の黒い箱を優しく撫でながら、大きな笑顔を浮かべました。

「古いものが増えたので、街が、模様替えしたくなったのでしょうね。

しっかり回収しましたから、近いうちに新しい区画ができると思いますよ」

私は黒い箱をじっと見ました。

箱の間から、中身が少しはみ出していて、

ぴくぴくと動いているのが見えます。

「……これ、中身は?」

「ええ。きちんと役に立ちますよ。

街が、きれいに使ってくれますから」

おじさんはそう言って、またトラックを発進させようとしました。

私は急いで、もう一つ質問しました。

「古いところに住んでた人たちは?」

おじさんは、トラックを少し止めて、振り返りました。

「マシュマロちゃんも、何回かお引越ししていますよ。

特別な子は貴重なので、大丈夫です」

私は少し首をかしげました。

「私、お引越ししたこと、あったっけ……?」

おじさんは、満面の笑顔のまま、答えませんでした。

ただ、静かにトラックを走らせて、黒い箱を積んだまま新しい区画の方へ向かっていきました。

くるりと回って古い区画があった方を見ると、いつのまにか、白くてピンクがかった道がうっすらと出来ています。

「そのうち、お家も生えてくるのかな?」

私は小さく呟きました。


帰り道の途中、ふと足を止めました。

私のおうちに向かって、白い道が少しだけ伸びているのに気づいたのです。

私は、しばらくじっと見つめてから、微笑みました。

「この街、どんどん大きくなってる。

かわいいものが増えるのかな」

私は新しい道の端を、そっと足で触れてみました。

まだ柔らかくて、踏むとピクピク動きます。

「きっと、もっとたくさんの人が来てくれるんだね」

私は幸せな気分に包まれながら、のんびりとおうちへと歩きはじめました。

背後で、新しい道が、ほんの少しだけ、伸びる音が聞こえました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ