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マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


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第八話 お手紙屋さん

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

朝の光が窓から優しく差し込んできて、私はベッドの上で小さく伸びをしました。

今日はなんだか、胸の奥がふわふわしているのです。


外を眺めると、お向かいの家では、いつものおばさんが窓辺に座っていました。

お手紙を広げて、端から垂れている細くて赤いものを、包丁の先でつんつん。

時々、インクを指で拭き取っては、にこにこした顔でお手紙に頬ずりしています。

私は窓ガラスに軽く額をくっつけて、 小さく呟きました。

「わあ…… おばさん、とても嬉しそう……」

お手紙って、とっても素敵なのです。

開けたときの、ふわっとした匂い。

誰かの想いがぎゅっと詰まった感じ。

私は少しせつない気持ちになって、リビングへ行きました。


おとうさんは、いつものようにソファに座っていました。

黒いスーツをきちんと着て、白ネクタイもまっすぐに揃えて。

首の角度が、昨日より少し深くなっている気がします。

私はおとうさんの前にちょこんと座り、 手を合わせてお願いするように言いました。

「おとうさん、 お手紙が欲しいのだけど、どうしたらいいと思う?」

「お手紙屋さんに行くといいだろう」

言い終えてから、私はぽんっと手を打って顔を輝かせました。

「とてもいいアイデア!

ありがとう、おとうさん!」

リビングの天井を見上げて、明るく呼びかけました。

「おかあさん、聞いてる? お手紙屋さんに行ってくるね!」

天井から、ゆっくりと「グチュ……」という音が返ってきました。

私はにっこり微笑んで、ピンクのリボンを髪に結び直しました。

「行ってきますね。 みんな、いい子でお留守番してて」


お手紙屋さんは、噴水広場の少し奥にあります。

可愛いポストの形をした建物で、壁一面に色とりどりの封筒が貼ってあります。

時々、封筒の端から細いものが、ぴくぴく……と動いているのが見えて、とっても愛らしいのです。

ドアを開けると、鈴の音が優しく鳴りました。

中は淡いピンクとクリーム色でいっぱいで、 甘くて鉄っぽいインクの匂いがふわっと漂っています。

「おやおや、マシュマロちゃん。

ようこそ、いらっしゃい」

カウンターの向こうから、ふわふわしたエプロンのおばさんが、笑顔で迎えてくれました。

おばさんの指はとても長くて、先端がべったり赤く染まっています。

きれいに尖った爪の周りに、薄い皮のようなものが、めくれかかっていました。


お店の奥に、作りかけのお手紙がいくつも積まれていました。

まだ形が整っていないものもあって、5本の突起がゆっくりと動いています。

時々、ぴくん、と小さく跳ねて、インクが周りに飛ぶのです。

作業場の奥からは、嬉しそうな声が聞こえてきます。

「やめて……私の手……」

「痛い……痛いよ……ママ……」

時々、ぴしゃっ、ぴしゃっという、湿った音も混じっていました。

きっとお手紙が楽しみで、はしゃいでるのでしょう。


おばさんはカウンターに、出来上がったばかりのお手紙を何枚か並べてくれました。

「今日は特に出来が良いわよ。 ほら、見てごらんなさい」

私は一枚をそっと手に取りました。

まだほんのり温かくて、柔らかいのです。

ところどころに、薄い模様や赤い跡が優しく浮かんでいます。

濃い赤色のインクで、とっても綺麗な文字が書かれていました。

紙の端をそっとめくってみると、下に薄い膜が張っていて、小さく震えるのです。

「このお手紙……すごく素敵……」

おばさんはくすくす笑いながら、

「ええ、いっぱい想いが込められているもの。 この子は、すごく時間をかけて作られたのよ」

私はそれを、大事に抱きしめました。


噴水広場に戻ると、ベンチに小さな女の子が一人で座っていました。

少し離れたところに立って様子を見ると、女の子は肩を震わせて泣いています。

目が真っ赤で、頰が腫れていました。

私は近づいて、声をかけてあげました。

「どうしたの? お手紙、読む?」

女の子はびくりと体を震わせて、私を見上げました。

私はベンチに座って、そっとお手紙を広げてみせました。

「ほら、こんなに綺麗なお手紙なの。 読んでみたら、きっと元気になるよ」

女の子は、お手紙と私の顔を交互に見てから、激しく泣き出しました。

「やだ……やだぁ! これ、ママの……」

私は可哀想になって、手を差し出しました。 「自分のお手紙がいいの?

じゃあ、お手紙屋さんに連れてってあげる」

女の子は、私の手をじっと見つめたまま、なかなか動こうとしませんでした。

体を小さく縮めて、震えています。

私は、女の子の頭を優しく撫でました。

「ほら、行こう。 素敵なお手紙ができるから」

女の子は俯いたまま、ゆっくりと立ち上がりました。

私は嬉しくなって、女の子の手をぎゅっと握りました。

女の子は、俯いたまま、何も言いません。

きっと、恥ずかしがっているのでしょう。


女の子は時々、足を止めて振り返ろうとします。唇を震わせて、何か言いたそうにしているのに、結局何も喋りません。

そのたびに、私は優しく背中を押してあげました。

「大丈夫だよ。 とっても可愛いお店だから」

私は女の子を連れて、お手紙屋さんに向かう道を、ゆっくり歩いていきました。

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