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マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


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第七話 マジックショー

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

ある日、玄関のベルが鳴って、ドアを開けると、お友達のダニちゃんとデミちゃんが立っていました。


彼女たちは双子で、とっても仲が良いのです。

ふわふわのフリルがついた可愛いお洋服を着ていて、頭にはお揃いの茶色い麻袋を被っています。

麻袋の目の部分には、赤いハートマークがぺたんと描かれていて、口の部分にはにっこりした赤い線が描かれています。

いつも、4本の腕でお互いをぎゅっと抱きしめ、2本の足を寄り添わせて歩くのです。

腰のあたりがちょっと盛り上がっていて、服の下で何か柔らかいものが詰まっているように見えます。

離れているのを見たことがありません。


「マシュマロ……遊びにきたよ……」

「金色メダル……貰ったって本当……?」

右側のダニちゃん、左側のデミちゃんが同時に、麻袋の下から声を出します。

なんだかいつもより嬉しそうです。

私は目をきらきらさせて、

「わあ、ダニちゃん、デミちゃん!

来てくれたの? 嬉しい!」

私は部屋から金ぴかのメダルを持ってきて、2人に見せました。

ダニちゃんとデミちゃんは、お互いの頭を寄せ合って、

「……初めて見た……」

「……すごい……」

と、揃って呟きました。

デミちゃんが、可愛らしいポーチの中から、

銀色のメダルを何枚か取り出します。

「知らないと思って……急いで来た……。

金色は、お買い物に使ったらダメ……。

とても……もったいない……」

ダニちゃんも頷いて、

「マジックショー、観るのに、銀色10枚。

遊園地、遊ぶのに、銀色50枚。

金色なら……見せるだけ……」

私は少し驚きました。

金ぴかのメダルは、とても珍しいものだったみたいです。

「じゃあ、今からマジックショーに行こうか?

3人で入れてもらえるかも!」

ダニちゃんとデミちゃんは、首を前後に揺らしながら嬉しそうに

「……行こう……」

「……金色で……」

と、揃って答えました。


私たちは、「ほほえみクリニック」の少し先にある、ショーの会場へと向かいました。

たどり着いたのは、黒いテント。

布は古びて少し艶やかで、どこか甘い、ほんのり鉄のような香りが漂っています。

入り口の看板には、優雅な金色の文字でこう書かれていました。

「至福のマジックショー」

受付のお姉さんに金ぴかメダルを見せると、

私はすぐに通してもらえました。

でもダニちゃんとデミちゃんは、銀色メダルを払わないとダメなようなのです。

私は首をかしげて、

「ダニちゃんとデミちゃんも一緒じゃないとイヤです……」

と言いました。

すると、お姉さんの顔が一瞬だけビクリと動いた後、すぐに柔らかい笑顔に戻り、

「失礼しました……特別なお客様の、お連れ様ですね……どうぞ、3人ともお入りください」

と言って、通してくれました。

布をくぐると、中は意外に華やかでした。

円形のステージを中心に、赤と金の装飾が施された観客席がぐるりと囲んでいます。

着飾った大勢のお客さんが、楽しそうにステージに注目しています。

淡い光が会場内の薄い煙を照らして、なんだか夢のような雰囲気です。

ステージ脇には古びた木製のスピーカー装置が置かれていて、

そこから軽やかなオルゴールのメロディーが流れています。

でも、音がわずかにずれていて、時々、笑い声のような雑音が混じるのです。

マジシャンのおじさんは、とっても優雅な人でした。

黒い燕尾服にシルクハット、手にした杖が光を冷たく反射しています。

顔は少し蒼白いけれど、唇には穏やかな微笑みが浮かんでいます。

「ようこそ、至福のマジックショーへ。

わざわざお運びいただき、誠に光栄でございます。

私の名はマリス。皆様を、魔法の世界へとご案内させていただきます」

おじさんが杖を振ると、煙の中に大きく赤い文字で演目名が浮かびました。

『Sawing Illusion』

私は目をきらきらさせて、

「わあ……とっても不思議……

ダニちゃん、デミちゃん、楽しみだね!」

ダニちゃんとデミちゃんは、麻袋の下からコリコリと音をさせながら、

「……楽しみ……」

「……魔法……」

と、声を揃えて言いました。


マジシャンのマリスさんは、ステージの中央で優雅な笑顔を浮かべて言いました。

「さあ、皆様。

最初の演目は『Sawing Illusion』……

至福の切断マジックでございます」

すると、「あれ」がきれいなお姉さんの腕を優しく引きながら出てきました。

お姉さんは手を元気にふりながら、

「いや……やめて……助けて……!」

と観客席に向かって挨拶しながら、箱の中に入ります。

箱に入るとすぐに、頭についた器具がカチッと音を立てて、お姉さんの表情がにっこり笑顔になりました。

マリスさんは箱の蓋を閉め、金色ののこぎりを高く掲げて、観客に微笑みかけました。

優雅な動作でのこぎりを箱に当て、ゆっくり、ゆっくりと引き始めます。

「ひゃあ……! あ……あぁ……! いやぁ……!

痛い……やめてやめてっ!」

お姉さんが箱の中から、嬉しそうな声をあげます。

私は目をきらきらさせて、手をぱちぱち叩きました。

「わあ……お姉さんが切られちゃってる!

すごい……! 見て見て!」

のこぎりが箱を真っ二つに分ける音が、

くちゅ……ごり……と響いて、すごい迫力なのです。

ダニちゃんとデミちゃんは、お互いの腕を絡めあいながら、

「……切られてる……」

「……とっても……可愛い……」

と、揃って嬉しそうに囁き合っていました。

箱の上半分と下半分がゆっくり離れます。

お姉さんの上半身は固定された笑顔のまま、

下半身は箱の中で微かに震えています。

マリスさんは優しく微笑みながら、

「ご覧の通り……愛は、たとえ分かれても、

永遠に繋がっているのです」

私は興奮して、

「本当だ……上と下が離れちゃってるのに、

まだお姉さん、笑ってる!

とっても不思議で、素敵なマジックだね!」

ダニちゃんとデミちゃんは、首を大きく揺らしながら、

「……分かれてる……」

「……笑ってる……」

と、嬉しそうに笑い声をあげました。


次に、ステージに大きな透明な水槽が運び込まれてきました。

マリスさんが優雅に杖を振ると、煙の中に大きく赤い文字で演目名が浮かび上がります。

『Vanishing Act』

水槽の中には、小さな男の子が入っていました。

上の方には太い排水管が繋がっています。

マリスさんは観客に向かって薄く微笑みました。

「次の演目は『Vanishing Act』……

摩訶不思議な、消失のマジックでございます」

すると、水槽に赤い幕がかかり、中が見えなくなりました。

何かが勢いよく流れ込むような音がして、

水槽のガラスを内側から、ばんっ、ばんっ、と叩く音が聞こえました。

「……来ないで! やだよ……出して……!

ママ……ママ! 助け……!」

はしゃいだ声が、すぐに消えます。

お菓子を食べるような音がした後、幕がゆっくりと開くと、水槽の中はすっかり空っぽになっていました。

排水管の先から、赤くて柔らかそうなものが、するすると吸い込まれていくのが、一瞬だけ見えました。

私は目を丸くして、手をぱちぱち叩きました。

「本当に消えちゃった……!

どこに行っちゃったの?

とっても不思議!」

マリスさんは、杖をゆったりと両手で持ち、

「これは魔法の箱。

消えた先は至福の楽園でございます」

と言いました。

私はダニちゃんとデミちゃんの手を握って、

「すごいね! マジックショー、とっても楽しい!」

2人は麻袋をもぞもぞ震わせながら、

「……消えた……」

「……楽しい……」

と、揃って笑いました。


その後も次々と不思議な演目が続き、終わる頃には、外はすっかり夜になっていました。

私はダニちゃんとデミちゃんの手を握ったまま、テントを出るときも胸がいっぱいでした。

「夢みたいに楽しい時間だったね……」

私は小さく呟いて、ポケットの中の金ぴかメダルを、そっと指で撫でました。

ふと裏手の方を見ると、回収屋さんの大きなトラックが静かに停まっていました。

荷台の扉が少し開いていて、中にたくさんの壊れたお人形が積まれているのが、ぼんやりと見えました。

私はにっこり微笑んで、

「今日も、街のみんなで頑張ってるんだね……」

ダニちゃんとデミちゃんは、お互いを抱き寄せながら、

「……みんな……幸せ……」

と、揃って呟きました。

私は2人の手をぎゅっと握り直して、

夜の道を、3人でゆっくり歩き始めました。

この街はいつも、とっても素敵な事で溢れているのです。

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