第六十二話 ガチャガチャ
私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。
今日はお散歩の途中で、お友達のダニちゃんとデミちゃんに会いました。
彼女たちは双子で、赤いハートとにっこりとしたお口が描かれた麻袋を、いつもすっぽりと被っています。四本の腕でお互いをぎゅっと抱きしめあって、とても仲良しなのです。
商店街の角に、『にこにこガチャ』というお店ができていました。
ガラス戸の向こうには、色とりどりの機械がいっぱい並んでいて、まるでおもちゃ箱みたいです。
「わあ、なんだかとっても楽しそう!」
私が目をきらきらさせると、ダニちゃんとデミちゃんが首を前後に揺らしました。
二人が首から下げた小さなポシェットをちゃり、と鳴らすと、銅色のメダルが一枚ずつ出てきました。
「……ガチャガチャ……」
「……銅色メダル一枚で……まわせる……」
「……可愛いもの……出てくる……」
「……みんなで……まわす……?」
二人が四本のお手てで嬉しそうに私を誘ってくれたので、私もポケットの中の銅色メダルを確かめて、「うん、まわそう!」と元気にお返事しました。
お店の入り口のいちばん目立つところには、一台だけ、とても大きくて黒い機械が置いてありました。
きらきら光る看板には、景品の写真がずらりと並んでいて、一番上に大きく、虹色のバッジの写真が貼られています。大当たりの景品がいっぱいの、とっても豪華なガチャガチャみたいです。
『おそでをまくって、奥までお入れください』と説明が書かれています。
機械の前には、ぼろぼろの服を着た人たちが、ずらりと長い列を作っています。
時折、通りの向こうで街の人たちに遊んでもらっているおにいさんたちにチラリと視線を移しながら、お祈りするみたいに機械のほうを見つめています。
「お願い、当たって……私に出て……」
「虹色を当てた人は帰れたらしい……」
列に並ぶ人たちから、そんな呟きが聞こえました。
すごく欲しい景品があるのだと思います。
街の人たちは、列の周りを遠巻きに囲んで、にこにこ笑いながらその様子を見守っていました。
順番になったおにいさんは、説明通りにお袖をまくって、ぽっかりあいた穴の奥へ、すうっと手が消えるくらいに体をぴったりと寄せました。
すると、機械の周りについた色とりどりのランプが、ピカピカと派手に点滅し始めました。
『運だめしだよ! 当たりがでますように!』
機械から、とっても明るくて大きな声と、賑やかな音楽が流れます。
おにいさんもなにか言っていますが、音楽のボリュームが大きいので、声はよく聞こえません。
ランプの点滅に合わせて、穴の奥のほうからもピカッ、と強い光が漏れました。その瞬間、おにいさんの肩がビクッと大きく跳ねて、歯を食いしばるようなお顔になりました。
ジュッ、という小さな音と一緒に、甘く焦げたような匂いがふわりと香って、機械のずっと奥のほうで、ズドッ、と重たいものが落ちる音がしました。
「わあ、すっごい音がしたよ! きっと、大当たりが出たんだね!」
私がわくわくして見ていると、おにいさんは景品を取り出しました。
まくり上げていたお袖がパラリと落ちて、揺れています。
景品は、小さくて可愛いお星さまのキーホルダーでした。
おにいさんは一瞬とても残念そうなお顔になり、ふらふらと後ろへ下がりましたが、「これ……?これが当たりなのか?」と呟き、気を取り直したように、大切そうに眺めていました。きっと宝物にしたのだと思います。
列に並んでいる人たちが真剣な表情で注目する中、おにいさんが列から離れると、街の人が何人か、にこにこしながら歩きはじめました。
大人たちが夢中でまわしているのを見ると、私もわくわくしてきます。
「私も、あれまわしたいな!」
私が機械に近づこうとすると、お店の人がやんわりと止めてくれました。
「あれは、よいこ用ではないんだよ。お嬢ちゃん達は、中にあるガチャで遊んでおいで」
銅色メダルではまわせない、すごい機械なのでしょう。
お店の中に並んだ機械は、お花やお星さまの絵が描いてあって、とても可愛らしいのです。
ダニちゃんとデミちゃんは、『きらきらアクセサリー』と書かれた機械にそれぞれメダルを入れました。
ガチャ、ころん。ガチャ、ころん。
ふたつのカプセルを開けてみると、片方からは固い金属の番号札が、もう片方からは赤い水玉模様のついた可愛いリボンが出てきました。
「……二回まわしても……」
「……お揃い、出ない……」
二人は少しだけ残念そうに、麻袋を寄せ合いました。
私も、どきどきしながらハンドルをまわします。
ころりと出てきたのは、銀色の指輪でした。真ん中に、でこぼこした白いお石がついています。
「わあ、指輪だ!」
私が言うと、ダニちゃんとデミちゃんがピクッと反応しました。
「……それ……」
「……前に、ダニちゃんが当てたのとおなじ……」
「……私たちのと……交換しない……?」
「うん、いいよ! 綺麗なおリボンだね!」
私が景品を交換してあげると、デミちゃんは嬉しそうに、指輪をはめました。
二人は、お互いに絡ませ合った腕をそっと持ち上げて、私に見せてくれます。
ダニちゃんの指と、デミちゃんの指で、同じ白いお石の指輪が光っています。
「……お揃い……嬉しい……」
「……マシュマロ……ありがとう……」
二人は麻袋の奥からコリコリと硬い音をさせながら、嬉しそうに頭を揺らしました。
ふと隣を見ると、お店の人が『ぷにぷに肉球マスコット』と書かれた機械に、大きな箱からカプセルを補充しているところでした。
カプセルの中には、ふっくらとしたピンク色をした、小さなボールのようなものが入っています。
どれもしっとりと濡れたようにツヤツヤしていて、入り口の大きな機械から香ってきたのと同じ、ほんのり甘い匂いが漂っていました。
「できたての新商品なんだよ。柔らかくて可愛いだろう?」
お店の人が、大きな笑顔を向けてくれました。
きっと、工場から届いたばかりのおもちゃなのでしょう。
私たちがお店を出ると、入り口の大きな機械には、まだぼろぼろの服の人たちがずらりと並んでいました。
みんな、お祈りするように両手を組んだり、肩を震わせたりしながら、自分の順番を待っています。
『運だめしだよ! 当たりがでますように!』という明るい音声が流れるたびに、みんな真剣な顔で、景品の取り出し口をじっと見つめるのです。
私はポケットから、交換してもらったリボンを取り出しました。
指で丁寧に結んで髪飾りにしてみると、風が吹くたびに、ふわりと揺れてくれます。
あのおにいさんたちにも、早くすてきな大当たりが出るといいな。
お袖を揺らしながら景品を取り出している人を見て、私は小さく微笑みました。
何が出てくるか分からないガチャガチャは、この街のみんなを夢中にさせてくれる、とっても素敵な魔法の箱なのです。




