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マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


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第五十七話 妖精さん

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

今日は「スマイルグリーンセンター」で、今だけとっても珍しい生き物が見れると聞いて、遊びにやってきました。


広場には、甘いお花の匂いと、少しだけツンとするお薬や、古い鉄棒のような匂いが混ざって漂っています。きっと、お花を元気に育てるための、特別な肥料の匂いだと思います。


石畳に沿って置かれた大きなプランターには、綺麗なお洋服を着たモデルさんたちがたくさん飾られています。

プランターの前には、『見頃・ずっとまえ』と書かれた、可愛らしい木の立て札が立っていました。

街の大人たちが立ち止まって、記念の写真を撮っています。

「みすぼらしいね」「流行りもあっという間だわ」と、つまらなそうにため息をついて、すぐに別の場所へ歩いていってしまいます。

たしかに、今日のモデルさんたちはなんだか元気がありません。首をだらんと垂らして、くったりとしていました。


「あ、モデルさんのお着替えだ」

緑色の制服を着たおねえさんたちが、大きなカートを押してやってきました。耳の後ろから細い蔓が伸びている、グリーンセンターのおねえさんたちです。

おねえさんたちは、くったりとしたモデルさんの襟元をそっと開くと、茶色くて、たまにもぞもぞと動く小さな塊を、お洋服の奥へ優しく隠していきます。

きっと、元気が出るおまじないなのだと思います。モデルさんの頭が、前にコクリ、後ろにコクリ、と嬉しそうに動き始めました。


私はおねえさんたちの邪魔にならないように、園内の他の場所に移ります。

たまに真っ赤にライトアップされる大きな噴水の近くでちょうちょを追いかけたり、園内を走る小さな電車に乗ったりして楽しい時間を過ごしました。


たっぷり遊んでから、帰り道にもう一度プランターの前を通った時、私はびっくりして立ち止まりました。

さっきまで植わっていたはずのモデルさんたちが、どこにもいなくなっていたのです。

代わりにプランターの上にあったのは、しわしわになった茶色い殻と、いろんな形の白い枝を編み込んで作ったような、不思議な『巣』でした。


その巣の上に、とっても可愛いものが止まっています。

虹色にキラキラ光る、大きな羽を持ったちょうちょさんたちです。

よく見ると、羽の間には、お人形さんみたいにすべすべした、丸いお顔がついていました。

おめめをきゅっと閉じていて、あどけなく笑ったお口の真ん中から、細くて透き通った管みたいなものが、スルスルと伸びていました。巣の奥のほうに入れて、ちゅうちゅうと何かを吸っているのです。


「わあ……! 妖精さんだ。私、絵本で見たことある!」

手を伸ばして触れてみようとすると、横からおねえさんがすっと間に入りました。

「よいこは、触れずに観察しましょう」

おねえさんがにっこり笑って言ったので、私は「はい!」とお返事をして、後ろで両手をしっかり組みました。

モデルさんは、胸に特別なおまじないをもらって、イモムシがちょうちょになるみたいに、綺麗な妖精さんになったのでしょう。


お腹がいっぱいになったのか、妖精さんたちは、伸ばしていた長い管をくるくると丸めて、パチリと目を覚ましました。

開いたおめめには白いところがなくて、ツヤツヤの真っ黒なガラス玉みたいです。

羽の下から細いおててを出して、シャカシャカと忙しそうにお顔をこすりはじめました。首を傾げながらあやとりをしてるみたいで、すごく愛らしい仕草です。


妖精さん達は羽をピクピク震わせてから、一斉に空へ飛び立ちました。

パリパリパリ……と、古いセロハンテープを剥がすような、少し乾いた音がしました。


薄い桜色のお空に、七色の鱗粉がキラキラと雪のように舞い散ります。

妖精さんたちは、大きなガラス貼りの温室の方角へ向かって、輝く虹の帯のように飛んでいきました。

温室の曇ったガラスの向こう側で、何かとても大きなものが、しゅるりと細長く動いたのが見えました。すぐに奥へ引っ込んでしまったので、何かは分かりません。


プランターのほうを振り返ると、おねえさんたちが、空っぽになった巣に積もった虹色の粉を、小さなほうきでサッサッと集めて、ガラスの小瓶に大切そうにしまっていました。


見頃が終わったモデルさんたちは、こうして綺麗な妖精さんに変身して、またみんなを楽しませてくれるのでしょう。

この街は、いつでも可愛さで溢れているのです。

風に吹かれて残りの粉が空へ溶けていくのを、私と、蔓のおねえさんたちだけが、にこにこしながら見送っていました。

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