↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/70

第五十三話 おうちのなか

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

今日はお外のお天気が悪いので、一日おうちで過ごそうと思います。


棚に飾ってあるにこにこノートや、金色のボタンを、そっとなでます。今日もとってもかわいいです。

お部屋の壁紙は淡いピンク色で、赤くて細い模様がたくさん入っています。指でなでると、少しあたたかくて、なぞったへこみがゆっくりと戻ってきます。まるでおうちが、やさしく撫で返してくれているみたいです。


リビングでは、おとうさんが大きな椅子に座ったまま、静かにしています。

「今日は、お靴を履かないんだね」

おかあさんは天井の近くで、今日も白いお洋服の裾を、ゆらゆらと気持ちよさそうに揺らしています。

「たまには、おうちでのんびりするのも素敵だものね」

床下のおとうとは、まだかくれんぼを続けているみたいです。

「おねえちゃん、ぼく、ぜったいに見つからないよ」

ぜんぶ言い終えてから、私はうれしくなってにっこり笑いました。

「うん、みんな、きょうはずっと一緒だよ」


テーブルには、いつのまにか白い器が並んでいました。いちばん端のひとつだけ、私の手にちょうどすっぽり入る大きさです。中には、白くてぷくぷくした、甘い匂いのするお料理が入っていました。

誰が置いてくれたのかは、見ていません。手を合わせて「いただきます」と言ってから、お口に入れます。

ふと、テーブルの脚のほうで、なにかが動いた気配がしました。端っこのほうで、細くて白いものがしゅるりと引っ込みます。私が足をぶつけないように、そっと避けてくれたのでしょう。


じりりん、と壁の電話が鳴りました。受話器を握ると、私のおててよりあたたかいのです。

「今日もにこにこ過ごしましょう」

いつもの、甘くてやさしい声です。私はお行儀よく、こくり、とうなずいて、受話器を置きました。

カチャリと切ったあと、壁の奥のほうから、同じやさしい声がもう一度だけ、小さくくぐもって聞こえました。かけ直したりはしません。お知らせは、一回で十分だからです。


壁のカレンダーを見ます。書いてあるのは、『きょう』という字だけです。もう一枚めくってみようとすると、次のページもまた『きょう』でした。

紙の下に、薄い膜が張っています。指に少しだけ、ちゅっ、と吸いつきました。壁紙の赤い模様に、よく似た色をしています。

「めくりにくいね。まだ、新しいページなんだ」

無理にはがしたりしません。今のままで、かわいいと思うからです。


クローゼットを開けます。中にかかっているお洋服は、みんなピンク色です。

扉の内側に、縦に引いたような細い傷がたくさんついています。ここは前、おとうとが一番お気に入りだったかくれんぼの場所なのです。見つかるのが嫌で押さえてたのかな、と思いながら、静かに扉を閉じました。


お昼前、床を何かがゆっくり通っていきました。

ずるり、ずるり。椅子の脚のところに、跡が残りました。あたたかくて、壁紙と同じきれいな色です。

しばらくしてテーブルを見ると、また新しい器が並んでいました。中に入っているお料理は、ふるふると少し動いているので、きっととっても新鮮なのだと思います。


窓から、お外の様子を見ます。お向かいのおうちの玄関が、開いていました。

おばさんが、大きな包丁を持ったままこちらに気づいて、歯をぜんぶ見せた笑顔を浮かべてくれました。

おばさんは片手で、お客さんの足を引いています。お客さんはうつ伏せになったまま、おばさんにお招きしてもらっていました。

「おばさん、お客さんが来てるんだね」

おばさんは、こちらに小さく手を振ってくれました。にこにこのまま、お客さんを連れて中へ入ります。玄関が閉じて、窓のカーテンが一度だけふわりと膨らみました。

私は窓の枠をなでます。枠も、あたたかいです。お向かいは、今日はいっぱいおもてなしをする日なのでしょう。


窓の外が暗くなる頃、私はパジャマに着替えて、ベッドに入りました。

「おやすみなさい。おとうさん、おかあさん、おとうと」

お返事の代わりに、壁の奥のほうから、トクン、トクン、と静かな音がしました。おうちが、やさしく子守唄を歌ってくれているみたいです。

お布団はほんのりあたたかくて、まわりから、ぎゅっと抱きしめられているような、とっても安心する感じがします。

明日のお約束は、ありません。カレンダーはずっと『きょう』のままです。

でも、おうちの中はいつだってあたたかくて、やさしいのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。