表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/17

第五話 おもちゃ屋さん

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

先日、ちょっと残念な事がありました。

公園でお散歩していると、小さな女の子が迷子になっていたのです。

私はにっこり笑って声をかけてあげました。

「一緒に遊ぼう!」

すると、その子は目をぱちくりさせて、

「ママ……ママどこ? 助けて……!」

とっても嬉しそうな声をあげてくれました。

私は「あれ」に手伝ってもらって、

その子で縄跳びをして遊ぶことにしました。


「あれ」が上手に縄をぐるぐる回してくれて、

女の子は「ひゃあ……! 速い……ひいぃ……!」と、はしゃいだ声を出しながら、ぴょんぴょん跳ねていました。

でも、足や頭を何度か引っかけてしまって……

最初に、女の子の頭のてっぺんが、ぽんっと無くなりました。

次に、右肩のあたりがするっと消えて、

体が少しだけ小さくなりました。

「うあぁああっ……!」という声が、とても楽しそう。

跳ねるたびに、どんどん小さくなって……

最後には、胴体の真ん中が、くす玉みたいに割れてしまい、ぴたりと動かなくなりました。

でも、その時に縄跳びが歪んで、壊れてしまったんです。

可愛いおもちゃでしたのに……。


私は、家の床下に向かってしゃがみ込みました。

「おとうと〜、聞いてる?」

私は明るく呼びかけました。

「ねえ、かくれんぼ好きのおとうとなら、遊びに詳しいよね?

新しいおもちゃが欲しいのだけど、どうしたらいいかな?」

床の下から、ぶーん……ぶーん……という、

小さな羽音みたいな可愛い音が聞こえます。

「おもちゃ屋さんに行くといいよ!

すっごく可愛いのがいっぱいあるから。

マシュマロが気にいるやつもあると思う!」

私は言い終えてから、ポンと手を打って嬉しくなりました。

「わあ、ありがとう、おとうと!

かくれんぼに飽きたら、一緒に遊ぼうね!」

私は立ち上がって、ピンクのリボンを髪に結び直しました。

玄関から振り返ると、床の下から羽音だけが、ぶーん……ぶーん……と、ずっと続いていました。


私は、うきうきしながら、噴水広場のほうに向かいました。

目指すおもちゃ屋さん「ハッピーフレンズ玩具店」は、パン屋さんのお向かいにあります。

看板には笑顔のクマさんと赤い風船がいっぱい描いてあって、とっても楽しそうなのです。


お店のドアを開けると、鈴の音が優しく鳴りました。

カウンターの向こうで、店長のおばさんがゆっくりと立ち上がってくれました。

カウンターと同じくらいふっくらした体型で、赤い模様がたくさんついたエプロンをつけています。

おばさんはいつも、ゴムでできたクマさんのお面を被っているのです。

目のところに空いた穴から、茶色いものが突き出していて、のんびりもぞもぞと動きます。

おばさんが頭を動かすたびに、伸びたり縮んだり、時々ぬるっと光ったりするのです。

「おばさん、今日もとっても素敵……!」

おばさんはお面の下から、こもった声を出してくれました。

「ぐふ……ありがとう、マシュマロちゃん。

おもちゃを見にきてくれたのね?」

お店の中は、天井からぬいぐるみや人形がたくさん吊るされていて、微かに揺れていました。

棚にも色々なおもちゃが並んでいます。

どれも目線が同じ方向を向いていて、愛らしいのです。

おばさんは時間をかけて、カウンターにいくつかのおもちゃを並べてくれました。

「今は、こういうおもちゃが流行っているのよ」

私は、大きなハートが二つ、お耳みたいに並んだかわいらしいカチューシャに目を奪われました。

バンドの部分から、赤くて細いものがたくさん、ぐねぐねと伸びているのです。

おばさんは「お目が高いわね。この子は『ハッピースマイル』よ」と言いました。

もこもこした大きなウサギのぬいぐるみも、とても魅力的。

お腹の部分に、ぱっくりと大きな割れ目があって、中には太くてねっとりしたものがぎゅうぎゅうに詰まっているのです。

おばさんは「これは『ハッピーハグ』ね。うちの看板商品なの」と言って、ぬいぐるみを優しく撫でました。

「昔のおもちゃはすぐに壊しちゃうものが多かったけど、最近の子はよく出来てるのよ。

マシュマロちゃんも、気に入ってくれた?」

私は目を輝かせて頷きました。

「わあ……すごいです!

お友達と時間をかけて遊べそうです」


ふと、お店の奥に、目を引く大きな木の箱が置かれているのに気づきました。

ピンクと水色でペイントされていて、ハートや星、笑顔のクマさんがたくさん描かれています。

蓋には、「開けたら大はしゃぎ!」と丸っこい文字が書かれていて、とても可愛いのです。

鉄の鎖で封印されていて、隙間から時々、陽気な声が漏れてきます。

「あは……あはは……まだ……増える……

……ぎひぃっ!? げぼっ……!」

私は首をかしげて、じーっと箱を見つめました。

「おばさん、これもオモチャですか?」

おばさんが、愛おしそうに頷きます。

「試作品の『びっくり箱』よ。

色々なおもちゃで遊んでもらった後の、元気な女の子を入れてあるの。

蓋を開ければ、中からぜんぶ飛び出して

周りのみんなを驚かせてくれるわ」

中のお姉さんは、今も一生懸命、びっくりの準備をしているのでしょう。

箱の隙間から、また声が漏れました。

「あはは……あははは……もっと……ママに……!

また産まれ……ひひ……ぐええっ……!?」

私はにっこり微笑みました。

本当に、幸せそうな声です。


私は「びっくり箱」を見ながら少し悩んだあと、けっきょく新品の縄跳びを一つ買うことにしました。

最新のおもちゃはなかなか壊れなくてつまらないな、と思ったのです。

お店を出るとき、私は振り返って、大きな木の箱をもう一度見ました。

小さく手を振ります。

「またね、お姉さん。

今度一緒に遊ぼうね」

お返事の代わりなのでしょうか。

鎖が、ガチャガチャと大きく鳴りました。


家に帰る道中、私は新品の縄跳びを大事に抱えて、幸せな気持ちになりながら公園へと足を向けました。

この街には、迷子になった子がたくさんいるのです。

私は色々なことを知っています。

でも、知っていることは、可愛いことばかりなのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ