第四十一話 路地裏
私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。
今日は、お家の近くの通りを歩いていました。
このあたりはとても賑やかな区画なのですが、建物の隙間にある細い路地は、いつも静かで少し薄暗いのです。
壁沿いをのんびり歩いていると、路地の奥のガラクタの陰で、ごそごそと何かが動く音がしました。
立ち止まってしゃがみ込むと、泥と埃にまみれた小さな生き物が、壁にへばりつくようにして縮こまっていました。
「わあ、小さな動物さん」
私は声を潜めて、そっと覗き込みました。
生き物には手や足が見当たらず、丸太のような形のまま、地面を這うようにしてモゾモゾと動いています。
表面には、泥だらけになったボロボロの布の切れ端のようなものが、いくつかへばりついていました。
布の隙間から、首のあたりにプラスチックの小さな札のようなものが見えます。泥で汚れていますが、数字のようなものが書かれていました。
街には色々な生き物がいますが、こんなに泥んこで、隅っこに隠れている子は初めて見ます。もしかすると、迷子のペットなのかもしれません。
「遊んでほしいのかな」
私はポケットを探って、昨日食べた飴の、キラキラした赤い包み紙を取り出しました。
綺麗にシワを伸ばして、生き物の目の前にそっと差し出します。
「はい、これあげる。キラキラしてて、いい匂いがするよ」
生き物は、ビクッと動きを止めました。
泥にまみれた小さな顔がゆっくりと持ち上がり、私と目が合います。
その瞬間、生き物の体が弓のように大きく反り返りました。
声にならない空気が「ひゅっ」と漏れる音がして、生き物はものすごい勢いで体をくねらせ、路地のさらに奥の、真っ暗な隙間へと這って逃げていきました。
ズリズリ、と地面を擦る音が遠ざかっていきます。
私は、「びっくりしちゃったんだね」と小さく笑いました。
手の中の包み紙を、生き物がさっきまで縮こまっていた泥のそばに、そっと置いてみます。
「ここに置いておくから、後で遊んでね」
私はそのまましゃがんで、少しだけ待ってみました。
でも、生き物は戻ってきません。
代わりに、路地のずっと奥にある、鉄格子のついた排水溝の暗がりから。
ズリズリ……と、同じように地面を擦る重たい音が、もう一つだけ、小さく響いてきました。
「お友達もいたのね。邪魔しちゃ悪いかな」
私は見に行くのをやめて立ち上がり、スカートの裾を軽く払いました。
路地の入り口の方へ振り返ると、通りの向こうを、立派な体つきをした人影が通り過ぎていくのが見えました。
腰のあたりから伸びたピンク色のふにゃふにゃした紐が、ゆらゆらと揺れながら路地の入り口をそっと撫でて、そのままゆっくりと過ぎ去っていきます。
私は、路地の奥の暗闇をもう一度だけ振り返りました。
もう暗くて何も見えません。赤い包み紙だけが、少しだけ光を反射していました。
「またね、小さな動物さんたち」
私は路地に小さく手を振って、お家へ向かって歩き出しました。




