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マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


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第三十九話 チャペル

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

今日は、鐘の音に誘われて『ハッピーチャペル』にやってきました。

真っ白な壁と、色鮮やかなステンドグラスがとっても素敵な建物です。


入り口の横には、『新郎さん』と書かれた金色のプレートが掲げられた、大きなガラス張りのショーケースがありました。

中には、黒いタキシードを着た男の人たちが、いくつも並んだ小さなケージの中に座っています。

首には綺麗なリボンが巻かれていて、番号札が下がっていました。みんなお顔が青いですが、その中の一人が、震える手で何度もネクタイを直し、小さく呟いているのが聞こえました。

「……選んで……お願い……」

一生に一度の晴れ舞台ですから、自分を奮い立たせているのでしょう。


ちょうど、ふくよかで大きなドレスを着たおばさんが、ショーケースの前で足を止めました。

「この子にしましょう」

店員さんがケージを開けて、首のリボンを引きます。選ばれた新郎さんは、安堵したように息を吐き、おばさんの手に自分からすがりつきました。

「素敵な結婚式になるといいね」

私は嬉しくなって、チャペルの扉をくぐりました。


中には、街の人たちがたくさん座っていました。私は一番前の特等席に座らせてもらいます。

重厚なパイプオルガンの音が響き、奥の扉が開きました。

バージンロードを、新婦のおばさんと、選ばれた新郎さんが歩いてきます。

新郎さんはおばさんの太い腕にしっかりしがみついていました。足が少し震えていますが、顔を上げて、きちんと前を向いています。

祭壇の前で、にこにこした牧師さんが分厚い本を開きました。

「永遠の愛を誓いますか」

新郎さんの唇が震えています。

素敵な新婦さんを前にして、緊張しているのかもしれません。

「あの、結婚すれば俺は……」

おばさんが大きな手で、新郎さんの頭を上から優しく撫でました。

「ええ、誓いますわ」

おばさんの弾んだ声が、チャペルに響きます。

牧師さんは、にこにこと会場を見渡しました。

「この二人の結びつきに、異論のある方はおりますか?」

チャペルに、祝福の拍手が響き渡りました。誰も反対しません。

みんなに祝福された結婚式です。


「では、認めましょう」

牧師さんはそう言うと、新郎さんの頭に、『新郎』と書かれた麻袋をすっぽりと被せました。

「誓いのキスを」

おばさんは、麻袋の上から、新郎さんに深くキスをしました。

麻袋が少しだけへこんで、中から「う……っ」という嬉し泣きの声が聞こえます。

次は、指輪の交換です。

おばさんが、小さな銀色の輪っかを、新郎さんの薬指にあてがいました。

少しサイズが小さかったみたいで、おばさんが両手でぎゅっと力を込めます。

新郎さんの体が、ビクリと震えました。

永遠の愛の証を身につけた喜びが伝わってきて、見ている私も幸せな気持ちになります。


「これより、お色直しに入ります」

牧師さんが言うと、新郎さんが「あれ」に両脇を抱えられて、おばさんと一緒に祭壇の奥の控え室へ入っていきました。

扉が閉まる間際、新郎さんの肩の力が少しだけ抜けました。大きな役目をひとつ終えて、ほっとしたのかもしれません。


控え室の奥から、ガシャン、ドスン、という重い機械の音が聞こえ始めました。

少しして、ウィーン、という音が続きます。

お着替えをするのも、大がかりで大変なんだな、と思います。

しばらくすると、甘くて香ばしい匂いと、ほんのり鉄のような香りが、隙間からふわりと漂ってきました。


「新婦の入場です」

扉が再び開き、おばさんが一人で出てきました。真っ白だったドレスは、鮮やかな真っ赤なドレスにお色直しされています。

おばさんの後ろから、大きなワゴンが運ばれてきました。

何段にも重なった、とっても巨大なウェディングケーキです。

表面には真っ白なクリームがたっぷりと塗られていて、ところどころに、さっき新郎さんが着ていたタキシードの黒いボタンが、飾りとして綺麗に並べられていました。

ケーキは出来立てのようで、ほかほかと湯気を立てています。


「初めての共同作業、ケーキ入刀です」

牧師さんの声に合わせて、おばさんが大きな銀色のナイフを両手で構えました。

「あれ? 新郎さんは来ないのかな?」

私はキョロキョロと祭壇の周りを探しましたが、タキシードの姿はどこにもありません。お色直しに時間がかかっているのでしょう。

おばさんが、ケーキの真ん中にナイフを突き立てました。

ズブッ、という重く湿った音がして、ナイフが深く沈み込みます。

切り口から、湯気を立てる赤いジャムが、とろりと溢れ出しました。

真っ白なクリームと、おばさんの赤いドレスによく似合う、とっても綺麗な色です。

チャペル中から、割れんばかりの拍手が起こりました。私も立ち上がって、一生懸命に手を叩きます。

新郎さんがいないのは少し残念ですが、一人でも立派にケーキをカットした新婦さんは、とても幸せそうでした。


チャペルの外へ出ると、入り口の横に可愛らしい立て看板が出ていました。

丸い字で、『当チャペルのおすすめ・ハッピーケーキ』と書かれています。

看板に描かれた絵は、さっきのケーキとそっくりでした。

「とっても美味しそう。今度はお茶をしに来ようかな」

私は胸をときめかせながら、幸せいっぱいのチャペルを後にしました。

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