第二十話 ファッションショー
私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。
街のあちこちにある掲示板には、いつも素敵なポスターが貼られています。
色とりどりのお花のポスター。
街角の大きなプランターには、とても綺麗なたくさんのお花が植えられ、通りかかる人たちの目を楽しませてくれるのです。
最近、内容に嬉しい変化がありました。
綺麗なドレスを着て、お姫様みたいに笑っているモデルさんたちに、次々と変わっていったのです。
街の人たちにも好評なようで、ポスターの前でうっとりと立ち止まる人が増えました。
私も見るたびに、「本当に綺麗だなあ」と思います。
街の景色が新しくなると、なんだかわくわくして幸せな気持ちになれるのです。
今日は、そのモデルさんたちが集まるファッションショーが開かれる日です。
会場に着くと、入口はステージよりも高いところにありました。
中に入ると、そこから長い階段が下の観客席へと続いています。
「わあ……とっても見晴らしがいいな」
入ってすぐの場所からは、会場のすみずみまでが、まるで手のひらの上にあるみたいによく見渡せました。
下の方では、すでにたくさんの人が集まっていて、楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてきます。
端の方には小さな屋台も出してあって、「ふわふわパン屋さん」のおじさんが「ホットドッグはいかが?」と笑顔で声をかけていました。
きっと、すごく美味しいお肉が挟んであるのでしょう。
ショーが始まると、華やかな音楽とともに、眩しいスポットライトが点灯しました。
大きなステージの上に、ポスターで見たモデルさんたちが次々と登場してきます。
キラキラしたドレスが、光を受けるたびに違う色に輝いています。
背筋をぴんと伸ばして、すっと歩く姿は、お人形さんみたいに綺麗でした。
ランウェイの先端で立ち止まり、客席に向かってふわりと微笑むたびに、周囲から大きな拍手が起きていました。
手を小さく振ったり、くるりと回って裾をひらひらさせたりするたびに、また新しい声が上がるのです。
私は手をぎゅっと握りしめて、ただその様子に見とれていました。
音も光も、全部がまぶしくて、なんだか夢の中にいるみたいです。
ショーが終わると、広いフロアで豪華な立食パーティーが始まりました。
長いテーブルには、大きなローストビーフや、見たこともないほど色鮮やかなフルーツ、キラキラしたシャンパングラスやスイーツがずらりと並べられています。
モデルさんたちは、来客の人たちと楽しそうにお喋りをしながら、上品にお食事をしていました。
「この生地、本当に素敵ですね。さすがはモデルさん」
「ありがとうございます。今日は良いドレスをお見せしているんですよ」
「お味はいかがですか? モデルさん」
「とても繊細で。ソースの香りが上品で、つい笑顔になってしまいます」
背筋を伸ばして、一口サイズにお肉を切り分けてお口へ運ぶ仕草は、とても綺麗でした。
笑い声も、グラスの傾け方も、全部がそろっていて、見ていてうっとりします。
「食べるものも、食べ方も、なんて素敵なんだろう」
私はその様子を眺めながら、またひとつ感心してしまいました。
パーティーが盛り上がっている最中、私は会場の端っこにある、大きなついたてやお花のかげが気になりました。
そこだけ少し薄暗くなっていて、ひそやかな雰囲気が漂っています。
「内緒のお部屋かな?」
気になった私は、静かに近づいて、ついたての隙間からそっと中を覗き込んでみました。
そこには、モデルさんたちが、たくさん集まっていました。
彼女たちは綺麗なドレスを着たまま、四つんばいになっています。
床に置かれたお皿の上には、カリカリとした小さなお肉の塊が盛られていました。
ところどころに、薄いピンク色の筋のようなものが混じっています。
「ん……美味しい……」
「パーティー組、まだお仕事……かわいそう……」
うっとりした声が、くちゃくちゃという音に混じって聞こえてきます。
モデルさんたちは、お顔をお皿につけて、ガツガツと夢中で頬張っていました。
ドレスにお肉のくずがついたり、お口のまわりが汚れたりするのも、まったく気にしていません。
嬉しそうに腰を小さく揺らしている子もいました。
食べ終えたモデルさんは、お口のまわりを満足そうになめ、四つんばいのまま、薄暗がりの奥にある小さなおうちへと入っていきます。
入り口には、「モデル」と書かれた金色のネームプレートがついていました。
「そっか……! 内緒の特別なおやつタイムだったんだ」
表では上品なお料理を食べて、裏ではとびきり美味しいおやつをもらって、自分専用のかわいいお部屋で休むことができる。
流行りのモデルさんたちは、こんな風に大切に扱われているんだな、と思いました。
そろそろおうちに帰る時間です。
出口の前に立ち、私はもう一度だけ会場全体を見下ろします。
そこにあったのは、まぶしいスポットライトに照らされたランウェイ。
そのすぐ隣にある、豪華なパーティー会場。
そして、ほんの数歩奥の薄暗がりに並ぶ、小さなおうちと銀色のお皿。
遮るものの何もない広い視界のなかで、それらはひとつの大きな灯りのもとに収まっていました。
「ふふ、ステージも、お食事の場所も、おやすみするお部屋も……全部がひとつに詰まってて、なんだか大きなお人形のお家みたい!」
私はとても微笑ましい気持ちになり、満面の笑顔で会場をあとにしました。
帰り道、街角の大きなプランターの脇を通ったとき、ふと中を覗き込んでみました。
少し前までは色とりどりのお花が植えられていましたが、流行が変わってからは、綺麗なドレスを着たモデルさんが、大きな笑顔のまま静かに植えられているのです。
「前のお花も綺麗だったけど、今も素敵だな」
私は心が温かくなり、お空に浮かぶ雲を見上げながら、おうちへと歩いていきました。
この街はお花にもモデルさんにも、とっても優しいのです。




