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マシュマロ 【私にとっては、ぜんぶ可愛いのです。絶望と狂気に満ちた、認識乖離ホラー】  作者: 鈴音めぐり


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第十四話 動物園

私は小さくて色が白いので、マシュマロと呼ばれています。

その日の朝、街のスピーカーから放送が流れました。

「スマイル警察署からお知らせです。

害獣さんの保護が無事に完了いたしました。

住民の皆様は、普段どおりにお出かけいただいて構いません。

保護した害獣さんは、スマイル動物園にて、本日のみご覧いただけます。

ご理解とご協力に感謝いたします」

放送は、いつもと同じ優しい女性の声でした。

私は少し首をかしげて、「害獣さん、動物園にいるんだ」と思いました。


ダニちゃんたちが、とても嬉しそうにやってきました。

4本の腕でお互いをぎゅっと抱きしめたまま、2本の足を寄り添わせて歩いています。

腰のあたりがいつもより少し膨らんで見えました。

「……マシュマロ……」

「……放送……聞いた……?」

右側のダニちゃん、左側のデミちゃんが、麻袋の下から同時に声を出しました。

「……害獣……動物園……」

「……今日だけ……らしい……」

「……見に……行こう……」

私は、すぐににっこり笑いました。

「せっかくお出かけできるようになったものね。 珍しい生き物さん、楽しみ!」

三人で玄関を出て、歩き始めました。

ダニちゃんたちは、腕を絡めたまま少し前を歩いています。

足並みがほとんど揃っていて、時々、服の下で何かがくねっと動くのが見えました。

街はいつもより賑やかで、行く先々で

「動物園に行くの?」

「すぐに保護されて良かった」

という声が聞こえてきます。

私たちは、その声に導かれるようにして、歩き続けました。


スマイル動物園の入り口は、たくさんの人で賑わっていました。

入ると、すぐに飼育員さんたちが見えました。

動物の帽子をかぶったお姉さんたちで、つぎはぎの皮でできたエプロンを着て、厚手の手袋をはめています。

背中には大きなタンクを背負っていて、時々中からくぐもった音が聞こえてきます。

お姉さんがスイッチを押すと、タンクの中から「ずちゅっ」「がりがり」という、何かを削っているような機械音がしました。

そのあとすぐに、「ぎひいぃっ……!」という、なんだか楽しそうな声がしばらく続いて、管の先から赤黒いペースト状のものがとろりと出てきました。

お姉さんたちは、それを園内の動物たちに分け与えていました。

「エサを作る機械、すごく可愛い……。

きっと動物さんが大好きなおやつなのね」


最初に入ったのは、ふれあい広場でした。

耳に大きなタグが通してあるウサギたちが、首輪をつけられた状態で放し飼いになっています。

体は大きめで、ところどころにある縫い目のような模様、小さくまとまった口元、パッチリとした赤い目、どれも、見ているだけで嬉しくなってきます。


近くには「エサ」と書かれた容器が置いてあり、中には白っぽい塊や、布のようなものが混ざったものが入っています。

ダニちゃんたちはすぐに近づいて、ウサギたちを撫でたり、エサをあげたりし始めました。

「……前足……短い……」

「……可愛い……」

私は少し離れたところから、その様子を見ていました。


ウサギたちはタグを揺らしながら、よちよちと四つん這いで動いています。

時々、目を潤ませてこっちを見てくる子もいて、とても愛らしいのです。

「ウサギさんって、こんなに大きくなるんだね。

エサ、吐いてる子もいるけど、お腹の具合が悪いのかな……」

ちょっと心配になって、私は近くにいた飼育員のお姉さんを呼びました。

お姉さんは何も言わずにやってくると、吐いているウサギの首輪を、指で軽くつまみ、優しく引きました。

ウサギは小さく体を震わせて、前足で地面を掻くような仕草をしましたが、お姉さんに抱かれると、おとなしくなりました。

きっと安心したのでしょう。


お姉さんはウサギを連れて、ふれあい広場の奥にある鉄の扉の前で立ち止まります。

扉の向こうから、甘い匂いがしていました。

お姉さんが扉を開けると、中は薄暗く、何かが規則正しく動く音が聞こえます。

ウサギは抱かれたまま、小さく前足を動かし続けていました。

「すぐによくなるといいな。

頑張って、ウサギさん」

私は手を軽く振って見送りました。

鉄の扉が閉まる音が、ずん、と短く響きます。

ダニちゃんたちが、麻袋の下からくちゅくちゅと音をさせながら、お互いの腕を絡めました。

「……連れて……行かれた……」

「扉……向こう……」

「大丈夫だよ。飼育員さんがいるんだから」

私はにっこり笑って答えました。


次に「動物の暮らしを見てみよう」エリアに立ち寄りました。

大きなガラス張りの部屋が並んでいて、それぞれ動物が暮らしている環境が再現されています。

「シロクマ」と書かれた麻袋を頭にかぶった動物たちは、冷たい部屋の中にいました。

ゆっくり体を動かすものもいれば、ほとんど動かず、ただそこにいるだけのものもいます。

「モグラ」と書かれた麻袋をかぶった動物たちは、土の中に深く埋もれた状態で、時々、くねくねと体をよじらせています。


少し離れた場所では、ダニちゃんたちが別のガラスに顔を近づけていました。

中は薄暗くて、「コウモリ」と書かれた麻袋をかぶった動物たちが、天井から逆さまにぶら下がっています。

ほとんど動かず、ただぶら下がったままの子が多いようです。

「……逆さま……」

「……ぶら下がってる……」

ダニちゃんたちが、揃って首を揺らしながら、声を漏らしていました。


どの生き物も、体の形は似ているのです。

なのに、ある子は冷たい部屋でゆっくりしていて、ある子は土の中でくねくねして、また別の子は天井からぶら下がっている。

「動物って、いろんな生活があるのね。

みんなそれぞれで、すごく面白い」

私はすっかり夢中になって、ガラスに額を寄せながら、しばらく観察を続けました。


害獣さんの展示は、園の奥にありました。

ものすごい行列ができていて、並んでいる人たちはみんな、にこにこしながら待っています。

楽しそうに話し声を交わしている人も多く、なんだかお祭りみたいな雰囲気でした。

「……すごい……人気……」

ダニちゃんが麻袋の下から声を漏らすと、デミちゃんも小さく頷きました。

「……害獣……見れない……」

私たちはしばらく並びましたが、近くまでは行けませんでした。

人の肩や頭の隙間から、遠巻きに檻の中がちらりと見える程度です。


他の展示よりずっと頑丈そうな檻でした。

太い鉄格子が何重にも組まれていて、中には大きな体をした動物がいます。

頭には黒い管がたくさん繋がった箱のようなものを被せられていて、表面にはよく分からない文字と絵が描いてあるのが、ぼんやりと見えました。

管がくねくねと動くたびに、檻の中から低くうなるような声が聞こえてきます。

そのたびに、周囲の人たちから「わあ」という歓声が上がりました。


檻から少し離れたところには背の高いケースが置いてあり、「害獣の爪と牙」と書かれた札が立っています。

中を覗くと、光を冷たく反射する大きな包丁のようなものや、指をかけるような部分がついた黒い金属、それにどんぐりみたいな金属の粒がいくつか並んでいました。


「すごい爪をした動物なんだね……。

でも、きちんと保護してもらえてる。

警察さんも動物園も、生き物にすごく優しい」

私は心が暖かくなるのを感じながら、行列に押し流されるようにして、ケースの前から離れました。

ダニちゃんたちが、後ろで小さく

「……強そう……」「……すごい……」

と呟いているのが聞こえました。


特別展示室の近くでは、バッヂをたくさんつけた立派な警察さんが立っていました。

大きな体をした警察さんや、何人かの夜警さんも集まって、檻の前で何か確認しているようです。

一人の警察さんがメモを取りながら、真剣な顔で話を聞いていました。

「なんだか偉そうな人も観にきてる。

害獣さん、すごく人気なんだな……」

私はそう思いながら、他のコーナーへと向かいました。


帰る途中、害獣さんの檻の近くから、大きな箱を積んだ車が出ていくのが見えました。

車はゆっくりと、でもまっすぐ、動物園の外へ向かって走っていきます。

回収屋さんのトラックとは違う形の車で、周囲を何人もの警察さんが囲むようにして歩いていました。

「今日は特別なお仕事があったのかな?」

私は小さく首を傾げてから、ダニちゃんたちと一緒に動物園を後にしました。


家に帰ると、私はベッドに上がって、ぬいぐるみたちをそっと撫でました。

「害獣さん、もっと近くで見たかったな。

でも、ちゃんと保護してもらえてよかった」

ねこさんやうさぎさんの頭を順番に撫でながら、私は小さく微笑みました。


窓の外では、いつもの街の音が、少しずつ戻ってきています。

誰かが走る音や、楽しそうな話し声、時々聞こえる歓声。

どれも、とっても幸せそうなのです。

「……かくれんぼ、もうおしまいなのかな」

私はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたまま、天井を見上げました。

この街は、今日も優しくて、可愛いもので溢れているのです。

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