第2話 熊とワルツを踊る
(困ったな・・・。)
帰宅してから熊のことを調べている。
熊についてなんて考えたこともなかった。
AIに熊の被害について聞く。
<熊の被害について教えて>
<現在、日本における熊(主にツキノワグマとヒグマ)の被害は、過去に類を見ない深刻なレベルに達しています。2025年度の人身被害者数は238人(うち死者13人)と過去最多を記録し、その6割以上が東北地方に集中しています。2026年度に入っても春から被害が相次いでおり、山間部だけでなく市街地での出没が常態化しているのが特徴です。>
<原因は何>
<熊が人間の生活圏に頻繁に現れるようになった理由は、短期的な要因と長期的な構造問題が絡み合っています。>
<食料の凶作(短期的要因): 熊の主食であるブナやミズナラなどの堅果類が山で大凶作になると、冬眠前の食料を求めて人里へ下りてきます。>
<里山の荒廃(長期的要因): かつて人間が手入れをしていた「里山」が、人口減少や高齢化によって放置されています。ヤブや下草が生い茂ることで、熊が身を隠しながら市街地近くまで移動できるルートが形成されてしまいました。>
<生息域の拡大と世代交代: 人間を恐れない「新世代クマ(アーバンベア)」が増加しています。彼らは人間の食べ物や生ゴミの味を覚え、サイレンや爆竹の音にも動じなくなっています。>
さて、今回はどのようにアプローチすべきだろうか。熊の真実とは・・・。
熊そのもの、熊の被害、対策、猟友会、自治体、住民、いろいろと思いつく単語を挙げてみる。
AIやネットにある情報では表面的な事しか分からない。
取材をするしかなさそうだ、だが誰にすべきか・・・。
熊に取材は無理だし、猟友会には知り合いは居ないが、突撃してみるか。
だが、何を聞くべきだろう。何を調べ、考察すれば渋沢さんは満足するだろうか。
そもそもなぜ熊なのか。
テーマについては理由を聞かない約束になっている。
なぜなら、それがバイアスとなって方向づけられてしまうからだ。
そんな予定調和やポジショントークをあの人は嫌う。
曰く、妄想の翼を広げ真実を探し求めるしか方法はないのだ。
熊のことに詳しいのは動物学者、飼育員、やはり猟友会のハンターか・・・。
取材できそうな対象を絞っていく。
ネットで連絡先を公開している人は、最近は少なくなってきた。
SNSでDMを送る方が早いこともある。
だが、多くの場合は断られてしまうため、取材先の選定は重要だし難しい。
どうしてもの時は渋沢さんにそうだんすれば何とかなるが、なるべくそれは避けたい。
クライアントに満足してもらうためにはネタバレになるような事は避けなければならない。
財界の大物や政治家レベルになると話は別だが・・・。
ネットを検索するてがピタっと止まる。
気になるブログが目に止まった・・・。
「歌手からマタギに転身、猟師として生きていく」か、聞いたことあるぞ。
元歌手:西川 文也
高い歌唱力とレベルの高いダンスで有名なダンス・ボーカルユニットのボーカルで、女性関係のトラブルでグループを脱退し、一時はメディアの露出がなくなっていたが、近年は猟師になっていたことが話題となりYoutubeを中心に人気が出ている。
ブログを遡って読んでいく・・・。
猟師になったのは父親の影響のようだ。華やかな芸能界から足を洗い、自給自足の生活に目覚めたらしい。子供の頃は獣医が夢で、勉強もかなり頑張っていたが、高校からバンドを組むなどして歌手を目指すようになったようだ。現在は32歳、独身。
(最近、大学に入学し、環境学部・人間環境学部でスマート鳥獣害対策・環境モニタリングの勉強中と・・・。へーこれは面白そうだな。)
彼は今、西川 文也のクロノトープに興味を抱いている。彼が歩んできた道はどんな道だったのか、今何を考えて猟師になったのだろうか。熊被害が頻発する状況の中で、偶然にしては不思議と必要な要素が集まっているように思える。何より物語を感じる。
(ダメ元でDM送ってみるかな)
クライアントの狙いと合っているかは今は関係ないが、妄想の翼を広げるにはこれ以上にない登場人物だと確信し始めていた。
彼の記事作成スタイルは、テーマをもとに基本情報をネットや最近はAIで調べられるだけ調べていく、そしてその情報からブレインストーミングを行いキーワードを挙げていく、そのキーワードでさらに調べて物語になりそうな素材を探していくのである。
彼はクロノトープ研究と称して、人が惹かれる物語の時空間の型を考察することをライフワークにしている。個人的にサイトを立ち上げ、いくつかの論文を掲載しているが、それを読んだクライアントから連絡があったのがこの仕事の始まりだった。
クライアントはテレビもSNSも見ないはずだが、よく私を見つけたものだと今更ながらに不思議に思う。
しかもオファーは手紙だった。住所は、サイトには載せていない・・・。
確か興信所に調べてもらったと笑いながら言っていた気もするが、もう良く覚えていない。
ただ、仕事のオファーが嬉しすぎて、その日のうちに連絡をし邸宅を訪れた事は覚えている。
心臓が口から飛び出すのではと思うほど緊張した日の事を思い出す、そしてなんだか苦しくなった。
渋沢さんの探している真実というものが何なのかは解らないが、評価は普通に嬉しい。
初対面の時も論文を褒めてくれた。
特に「時間価値交換モデル」の論文が非常に気に入ってもらえたようだった。
資本主義に足りない要素として、時間価値換算を導入することでより幸福な社会を作れるのではという内容だ。渋沢さんは、特許も複数持つような熟練のエンジニアであり経営者であるが、哲学者でもあると思う。その人生哲学の琴線に自分の拙い論文が評価されたことは本当に嬉しかった。
その日はオファーをもらったことも忘れ、論文についての詳しい解説と現在社会の行き詰まりについてお互いの考察を交わして、何の仕事をするのかも聞かずに帰りかけてしまった。
渋沢さんが、本題はまた今度にしよう。遅くなってしまったから、とおっしゃった時にハッとした。
時間を忘れ、気がつけば数時間があっという間に経ってしまっていたからだ。
次にお会いしたときに、渋沢さんから自分のために毎回テーマを変えてショートストーリーを書いて欲しいとオファーを頂いた。「スネイルメールクラブのようなものだよ。」と教えてくれた。
何でもスピーディーになった現代において、物理的な郵便物(手紙やハガキなど)を指すようになった言葉がスネイルメールである。これを送りあったり、サブスクで届けてもらうサービスが一部で流行っているそうだ。
ただ渋沢さんは手紙が欲しいわけではなかった。物語が欲しかった。真実のこもった物語が。
私は尋ねたことがある、真実とは何ですか?と。
渋沢さんは困ったように言った「それが解らないから困ってるんだ。強いていうなら私がこれこそ真実だと信じたら良いんじゃないかな。私にそう思わせてくれるような物語を期待しているよ」
私の頭の中ははてなだらけになっていたが、とにかくやってみようと決意したのだった。
思い出に浸っている暇はないのだった。
でも今回のテーマの糸口が見えたような気がして楽しくなってきた。
が、限界だ。もう眠い・・・。
気がつけば、帰宅してカップラーメンを食べた後、シャワーを浴びて調べ物を始めてすでに夜になっていた。軽く30時間ほど起きていることになる。
(もう寝よう。明日もたくさん考察しなければ)
晶は倒れ込むようにベッドに身体を投げ出した。
一瞬で眠りについたが、おかしな夢を見た。
詳細は覚えていない。
私は熊とワルツを踊っていた。
なぜだろう。
AIには書けなさそうな無軌道な展開に見えますが、
なんとなく続きは浮かんでます。
どこまで続くかわかりませんが、次回もお楽しみに。




