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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第十章 アルネミアの祭日編
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【10−6】個性的なスイーツ

 舌がヒリヒリして麻痺したアトレが次に手をつけたのは、デザートの水スライムの透明プルプルプリン。

 淡い水色の半透明のゼリーのようなこのプリンは、丸く団子のようにまとめられて皿に三つ乗せられていた。

 水スライムは美味しいと聞いたことがあるので期待に胸を弾ませ、フォークで一つ突いた。

 それは口の中でふんわりと弾け、中から出てきた爽やかな液体はアトレの舌を覚ました。

 ほのかに甘いのが特に良い。


「私、これ好きだわ。すごくさっぱりしていて食べやすいもの」


 そう言って残りは後で食べようとパスタに手を戻す。

 水スライムプリンのおかげかさっきよりも味がわかる。

 口から火を出すことにも慣れてきて、口腔が全然痛くない。これは進歩だ。


「慣れるとどんどん箸が進むわね。でもどうしてこんなにも辛いのかしら。メニューも炎スライムばっかりだったし」


 アトレはもう一度メニュー表を見る。

 メインディッシュは基本炎スライムばっかりだ。

 逆にデザート類は水や雷などが多い。

 不思議に思ってアトレは首を傾げる。


「逆にデザートに炎スライムは一切使われていないのね」

「まあ、甘いデザートに激辛食材なんか使わないもんな。ちなみに炎スライムは寒いこの地で身体を温めるために食べるんだ」


 アトレは感心して「へ〜」と声を漏らす。

 確かに、比較的温暖なエーベルではあまり炎スライムは食べないかもしれない。

 だってあのアトレが完全に敵と認識して負けかけたくらい、食材という判定には掠りもしなかったのだ。

 アトレはパスタを絡めて食べて、口からほんのり火を出す。


「もうだいぶ辛さには慣れたみたいだねー」

「そうね。あの標準という名の激辛を食べちゃうとやっぱりこっちは甘口ね」


 これに関してはアトレの舌が麻痺しているだけかもしれないが。

 話を交えながら食べているといつの間にかパスタがなくなってしまった。

 上品に皿の上のソースまで綺麗さっぱりなくなっている。

 となると、お次はデザートをじっくり食べれる時間だ。

 さっき少しだけ食べてしまっているがまだ二個も残っている。

 フォークで器用に刺し、まんまるの透明プリンを口に放り投げた。


「どうだ? 食後だと味が少し変わるでしょ」


 水スライムの透明プリンは口の中で弾け、甘くて爽やかな汁がジュワッと飛び出した。

 ここまではさっきと同じなのだが、後味が違った。

 あっさりとしてその上ほのかな酸味が口の中に広がり、冷たいプリンが身体を適度に冷やす。

 食後ではないと味わえなかった風味だ。


「やっぱり私、これ好き。これもリヴィエールのお菓子なの?」

「えっとねー、これは違うと思うよ」


 クレスタはまあまあ自信ありげに言い張った。


「多分店主の創作か、今話題の人気スイーツじゃないかな? もしかしたらモンカルムに行けば食べられると思うよー」


 「モンカルムか……」とアトレは思う。

 あそこは旧王都だったこともあり議会や皇帝邸があるこの国の中心だ。

 エーベル、エスト、ベルンを跨って大体真ん中辺りに位置するここは、小さいながらも人口が最も多い。 

 そのおかげでモンカルムには最新の流行品や変わった料理など、たくさんの情報が集まるため物流や若者の中心にもなっている。

 今回の旅でも行こうと思えば行けたのだが、そこにはあの()()()()がいるためアトレは寄ることを断固拒否していた。

 だけどこの手の最新料理の話になると絶対出てくるモンカルムに、アトレは寄って行けばよかったと思うことが多々ある。


 その時、アトレの横でなにやらパチパチと音が鳴った。

 音の出所はリュカの口の中だ。


「リュカ、あなた口からパチパチって音が出てない?」

「これか? 雷スライムだよ」


 リュカはバニラアイスの上に散りばめられた星型の紫のトッピングを指さす。

 もちもちのスライムは小さな星のお菓子になってしまったようだ。


「アトレも食べてみるか? 面白いぞ」

「いいの?」


 アトレが尋ねるとリュカは力強く頷く。

 アトレはカトラリーケースから先の丸いアイススプーンを取り出して、リュカのアイスを掬った。

 溶けるようなバニラアイスの甘い舌触りに、小さくて軽い雷スライムのお菓子が口の中でパチパチと弾けて混ざる。

 口の中で雷スライムが電気を放つような不思議な感覚だ。

 口角を上げて、思わず頰をおさえた。


「不思議〜、こんなの食べたことないわ!」

「アトレちゃ〜ん、うちのも食べてみなよ」

「いいの?!」


 クレスタに進められるがまま、アトレは彼女のジェラートを取る。

 気になる味は……ほんのり甘い杏仁豆腐だった。


「そこまで面白みはないわね」

「あはっ……」


 クレスタはアクアマリンのタレ目を更に垂れたせて困ったように笑う。

 これに関しては前に出てきたスライム料理のクセが強すぎただけだが。

 そしてアイスを食べ終わったリュカがパチンと手を鳴らした。


「さて、食べたらまた練習だぞ! アトレ!」

「完全に忘れてたわ……」


 アトレは水スライムの透明プルプルプリンを口に放り込んだ。


* * *


 それから日が経ちアルネミアの祭日の当日になる。

 この日までアトレは昼はスケートの練習、リュカが寝たらラスカ達と集まってプレゼントの話をするという休む暇もない日々を過ごしてきた。

 そして今日は、リュカへのプレゼントが決まってすでに用意済みなので本番以外の予定がない。

 だからアトレは非常にすっきりとした気持ちで目覚めることができた。


「よーし、遊ぶわよー!」


 嬉しさを胸に手を高く上げてアトレは叫んだ。

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