【10−4】対象年齢(上限)がダメなようです
「と、ゆーわけでごめんねーリュカちゃん」
「ほえ? えっと、そのぉ……」
アミュの面倒を見ていたら急に建物に連れ去られてしまい、その中でなぜか半分目が隠れた銀髪の少女に全てを任されたリュカは、人生で一番断りきれない状況に陥っていた。
リュカを攫ってきたこの老けた男はロシュチカの町長のコルディエと言うらしく、どうやらこの銀髪の少女——クレスタが急遽怪我で今年の巫女ができないと言うのだ。
足にギプスに松葉杖。おそらく彼女はスケートの練習中に骨折してしまったのだろう。
それで滑っていた人の中で一番上手かったリュカがスカウトされた訳なのだが、諸事情で断りきれずに困っていた。
その諸事情というのががアルネミアの祭日の巫女は二十四歳までと決まっていて、現在リュカの年齢は大きく外れていることだ。
いくら見た目が若く見えても、その伝統だけは破れない。
「だから私はもう三十で……」
「嘘つかないでください! 我々は今、あなたの力が必要なんです!」
コルディエに手を握られ、とてもNOとは言い切れない状況になってしまった。
そしてその時、役場の扉が力強く開いた。
これはと思い振り返ると、まさにアトレたちが剣や杖を持って乗り込んできた。
物騒な人たちである。
「リュカ! 助けにきたわよ!」
「うわーん。アトレー、私の年齢を証明してくれー!」
すぐさまリュカは逃げるように泣きながら、アトレに膝から抱きついた。
もちろん助けに来たと思ったら急に年齢を証明してと言われたアトレは混乱し、何をしていいか分からずあたふたしていた。
だってあの誰よりもトシを気にするリュカが自分から年齢を公開しようとしているのだもの。
「ね、年齢を証明って、何をすればいいのよ」
「なんでもいい! ただ私が三十歳ってことがわかればいいんだ」
「だったら、巫女の履歴を見ればいいんじゃないか? リュカの名前もきっとあるだろ」
「それだ!」
今のラスカの提案がどれだけリュカを救ったことか。
心のモヤモヤが一気に晴れて、目を輝かせながらリュカはアトレから離れる。
そしてコルディエを指差して堂々と宣言した。
「私は三十歳だ! 町長、今すぐ巫女の記録を持ってこい!」
「は、はいー……」
リュカの堂々たる気迫に押されてか、コルディエはそそくさと奥の事務所に戻っていく。
それを座って眺めていたクレスタは、パチパチと拍手をした。
「おーリュカちゃん、すごい気迫ー」
「君もリュカさんと呼びたまえ」
* * *
しばらくして町長が古そうな分厚いファイルを持って戻ってきた。
彼がそれを近くのテーブルに開くとリュカはページを捲り始めた。
ページを捲るたび、紙が日に焼けて変色してきていた。ずっと長い間保管されてきたのだろう。
そしてリュカが「あった!」と叫ぶと、アトレは気になって横から覗いた。
「『リュカ・エミュレット十一歳。アルネミアの祭日にて巫女を担当』。十九年前ね。本当に顔が変わってないわね」
「どうだ。これで私が本当に三十歳だと証明できただろ」
古びた写真に映る猫耳の少女は確かにリュカ本人だった。それも、今とほとんど変わっていない。
アトレがそのページをよく見ると、事細かく演目のことや天候について書かれていた。
やはりその日は雪だった。
これでリュカは巫女を回避できたと思ったのだが、それに納得できないものが一人いた。
ロシュチカのアルネミアの祭日の主催者の町長のコルディエだ。
「そうですか。失礼なことをしてしまって申し訳ないです。ですがまだ巫女は……」
そして彼の獲物を見るような目はアトレの後ろに隠れるアミュに向いた。
「そちらの女の子にお願いできますか?」
「アミュに? アミュ、踊れないよ」
そっけなく首を横に振りながらアミュは返事をする。
今は角がないとはいえアミュは魔族だから人の祭り、特に人が大好きな神様の巫女になるのは少しばかり祟られそうな気がしなくもない。
それ以前にアミュは巫女の対象年齢をリュカよりも大きく外しているが。
アミュが断ると残る巫女候補はアトレだ。
そして言わずもがな、コルディエの獲物を見るような目はアトレにも向いた。
「ではそちらの翡翠の瞳のあなた。先ほど少しだけ見てましたがスケートがお上手なようで」
「できるけど、一回転が限界よ」
「十分です! 一回転でも構いません!」
ついにと言わんばかりにどんどんコルディエの顔がアトレに近づいてくる。
その上彼は逃すまいとアトレに念を押してきた。
「巫女をやってくれれば相応の報酬をお出しします! もちろん、リヴィエール出身でなくとも構いません! もし断られてしまうと数百年続いたアルネミアの祭日の歴史に幕がっ……」
「えっと、そのぉ…………」
「あなた、お名前は? ご年齢は? 二十五歳未満なら大歓迎です!」
ここまで来られたら断りきれない。
もうすでにコルディエの顔がアトレの目の前まで迫っている。
アトレは諦めて首の力を抜き、ボソッと呟いた。
「ア、アトレ・エマニュエリ、十七歳。巫女、やります……」
「なんと! ありがたや、ありがたや……」
コルディエはアトレの手を握り、感謝の印とブンブン縦に振った。
その時、ラスカがアトレの肩を軽く叩いた。
頑張れよ、と言うことらしい。
シクシクなくアトレは、念に押されると弱い自分を懲らしめてやりたいと思うのであった。




