【8−16】みんなを信じてる
ラスカ達がこんなクソ暑い真夏の中で遊びに行っている時、アトレの部屋にはルミネが来ていた。
どうやら大切な話があるらしく、バルも話に参加していた。
アトレはベッドの縁に座り、バルは近くの椅子を取ってアトレの横らへんに座る。
ルミネが椅子に座ると、落ち着いた様子で真剣な顔をして話し始めた。
「今日はね、とっても重要なお話をしに来たの。特にアトはよく聞いて」
どんな話なんだろうと、アトレは固唾を飲み込む。
「単刀直入に言うとね、アミュちゃんをわたしが預かろうと思ってるの」
「えっ?」
アトレにとってあまりにも急で衝撃的なルミネの提案に、思わず声が出て空いた口が塞がらない。
どうしてルミネがこんなことを言い出したのか、とても気になってしまった。
「お姉ちゃん、アミュちゃんを預かるってどう言うこと?」
恐る恐る尋ねると、ルミネはアトレが怒らないように慰めるように話し始めた。
「ごめんね、アトレ。でも一回、お姉ちゃんの話を聞いて欲しいの」
「うん」
「二人とも知っている通り、アミュちゃんは臆病で誰よりも思いやりのある優しい性格の魔族。どれだけ彼女が人らしく優しくても本質は魔族であることに変わりはないの。それでこの間の事件ではアミュちゃんの体質を利用して、竜族を操り復活させることに成功した。魔族の体質は、人よりも不思議で且つ危険なのよ。だからわたしがアミュちゃんを保護しようと思ってるの。これは、宮廷魔法使いとしての役目だと思ってるわ」
つまりルミネは、魔族のアミュを自身の監視下に置き、彼女が利用されないように、人に悪さをしないように見ておきたいのだ。
それはルミネ個人の要望ではなく、この国の未来と平和を守るためにしたいのだろう。
「それに、アミュちゃんの安全はわたしが保証するわ。うちにはスライムのヴィレーヌが居るし、何せわたしはアトレのお姉ちゃんであり、宮廷魔法使い<金星の魔女>でもあるから」
そう、ルミネはキッパリと言い放った。
アトレを納得させるには絶対的な信頼条件と根拠が必要なことをわかっている。
だから、宮廷魔法使いという言葉を二回も口にしたのだろう。
だけどアトレはその話に納得できない。
いや、したくないのかもしれない。
魔族だけど大切な仲間のアミュを、たとえ大好きなお姉ちゃんであってもここから奪われてしまうのは嫌だ。
また喧嘩になってしまっても、アミュを渡したくはない。
「……でもお姉ちゃん。私はアミュちゃんと離れたくない。せっかく取り戻したのよ。また一緒に旅がしたい……」
目頭が熱くなって涙を溢しながらも、アトレは声を震わせて伝えた。
俯き、座ってスカートを握る手は震えている。
「アミュちゃんはね、最初自分で旅に連れて行ってって言ったの。今更、『あなたは魔族だからここでお別れ』とか言いたくないのよ……」
アミュが旅の仲間に加わって、初めて到着した街で見せた彼女の笑顔は忘れない。きっと今まで自分は魔族だからといろんなことを我慢して、山奥でこっそりと暮らしていたのだろう。
だからアミュは、我慢していた人と仲良くすることができて、人の子供のような無邪気な笑顔を見せてくれたに違いない。
そんな彼女の夢をアトレの判断だけで壊したくない。
「だからごめんなさい。お姉ちゃんがなんと言おうとも、私はアミュちゃんを手放さない」
ルミネの目を見てはっきりと言い放った。
するとすかさず、バルも口を開いた。
「ルミネお嬢様。わたくしもこの意見には反対です。アトレお嬢様のおっしゃる通り、アミュ様は魔族であろうとも、わたくしたちの大切な仲間です。アミュ様は決して、人を傷つけたりしません」
「じいや……!」
バルの言葉にはアトレと同じように強い意志を感じた。
彼もアミュを魔族としてではなく、一人の仲間として見てくれているのだと。それがアトレには心強かった。
だが相手は、この国のたった一人の魔法のトップである宮廷魔法使い。
こんな安い言葉で心に揺さぶりがかかるほど弱くない。
反対にルミネはアトレ達を揺さぶりにかけた。
「じいや、一つ聞くわ。もしアミュちゃんが人を襲ったらあなたはどうする?」
「まずアトレお嬢様の身を第一に守ります。そしてやむを得ない場合、アミュ様に手をかける心の準備はできております」
「次にアトレ。アトも同じことが起きたら、アミュちゃんを倒せる心の準備はある?」
「……正直に言うと私にはないわ。でも、もしそうなったら……やっぱり、私には大切な仲間を倒せない」
二人の意見を聞いたルミネはしばらく黙り込んだ。
そして、やんわりと穏やかで優しいいつもの表情に戻り、ゆっくりと口を開いた。
「ごめんなさい。わたしもこんなことは話したくなかったけど、もしもの時のために二人に聞いたの。だからこの話はおしまい。ナシにしましょ」
「それってつまり……」
アトレは恐る恐る口を開いた。
「アミュちゃんは、うちで預からないわ。そのほうがあの子にとっても嬉しいし、何よりアトと一緒にいた方が安心すると思うの〜」
「……! ありがとう、お姉ちゃん」
「でもね、アト。あなたはまだ未熟よ。もしもの時、あなたは仲間を守る責務があるのよ。だからその時は、辛いかもしれないけどアミュちゃんを楽にさせてあげてね」
ルミネの言っていることは何も間違っていない。いくら臆病で優しい性格のアミュでも本質は魔族だ。
ないとはわかっていても人は魔族と敵対していたし、消滅した今でも魔族には良い印象がない。
これはスライムを使い魔にしているルミネの実体験か、忠告なのかもしれないとアトレは思った。
人間と魔物、魔族との付き合いを教えられているようだ。
だけどやっぱり、アトレにはアミュを魔族と思うことができないし、倒せる勇気なんてどこにもなかった。
「さて、わたしのせいで暗い空気になっちゃったし、今から三人でお出かけしましょ〜」
手のひらを叩き、ルミネは明るい声色で話した。
アトレとバルが複雑な気持ちになっていることに気付いたのだろうか。
「ほらアトレ、早く立って〜」
パッとアトレの手を取って立たせた。
「ごめんね、アト。複雑な気持ちかもしれないけど気にしないで。あの子は絶対に人を傷つけたりしないいい子だから。お姉ちゃんが保証してあげる!」
ねっ、とにっこり笑うルミネからは自信が溢れていた。
昔からルミネの勘は当たるが、今のは経験と実力、ほんの少しの勘から言っていたのだと思う。
自信に溢れたルミネの顔は、昔からアトレにとって安心するものだ。
自然と身体が軽くなった気がした。
「そうだ! アトに渡したいものがあるのよ」
「私に?」
人差し指を自分の顔に向けてアトレはキョトンと返事をした。
するとルミネは服のポケットを何箇所もゴソゴソ探し出し、「あれ、ここにも無いわ〜」とか言いながら手を突っ込んでは引き抜いた。
そしてようやく、「あった!」と言い出すと、大きな何かを握りながらポケットから手を出した。
「これこれ〜。このペンダント、多分アトのでしょ〜? 宝石をはめるところにウチの紋章が書いてあったから」
取り出したのは金の装飾が施された赤い宝石のペンダント。
形からして紛れもない、アトレのペンダントだ。
アルベリックとの戦闘の際、ペンダントは宝石が砕けて首からちぎれてしまって無くしてしまっていたと思われていた。
きっとルミネがたまたま見つけたのだろう。
ルミネから受け取りよく見ると、宝石の色が若干前よりも暗くなっている。
きっと大至急で宝石を埋め込んだのだろうか。
「このペンダント、形からしてきっと宝石がはめられていて、魔道具だったと思うのよ。でも、見つけた時に何も無かったから別のをはめちゃった。多分以前は防御結界とかだと思ったから、同じような魔法を込めといたわよ」
ルミネにアトレのペンダントを見せたことがないのに、色から込められた魔法まで当ててしまうとは、正直アトレは引いた。
宮廷魔法使いが少し恐ろしくなった気がする。
「お姉ちゃん……全部当たりよ…………」
「ん〜?」
ルミネは不思議そうに指を咥えると何かに気付いたのか、ぱあっと笑顔になった。
「ふふん。お姉ちゃんはすごいのよ!」
二人の荷物持ちをしたバルは、久しぶりに執事らしいことをしたと誇りに思いました。
ちなみにその後、ラスカ達にバッタリ会いましたとさ。




