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【8−15】十一歳年上の妹

 今日の子守り当番はリュカとラスカの二人。

 アミュからの熱い要望でなにか冷たいものを食べたいと言われたため、彼女を連れて真夏のコルネイユの街を散策していた。

 本当は宿で部屋が涼しくなる魔法を使いながら一日を過ごしたかったが、最近は碌に外に連れ出してあげれなかったため汗だくになりながらも二人は歩いていた。

 と言うのもルミネの要望でアミュには事件で聞きたいことがたくさんあるらしく、ここ二週間は街から出られない。

 そのうえ最近は雨が続いていたため、遊び盛りのアミュには少しかわいそうな日々が続いていた。

 だから今日はルミネも来ないので、外に連れ出してあげた訳だ。


「あっちぃー。まじでなんで今日に限ってこんなにも暑いんだよ」

「この街、城壁に囲まれてるから風が通らないみたいだね。こういう日は猫耳が熱を出してくれるから助かるよ」


 そう言いながらリュカは自身の耳に魔法でそよ風を当てている。

 魔法が使えないと言っても、水を出したり火をつけたりする日用レベルの魔法は別に使えなくもない。

 逆に言えば、一般人のリュカからすると派手な攻撃魔法を繰り出す魔法使いの方がおかしいのだ。


「アミュー、早く冷たいものを探してくれよー。私たち暑くて干からびちゃいそうだ……」

「ここら辺全然ないの! アミュが食べたいのはね、アトレお姉ちゃんが食べてた白いふわふわしたやつ」

「白いふわふわ? それってソフトクリームのことか? てゆうかアトレのヤツ、いつそんなの食ってたんだよ……」


 ラスカが恨めしげに言うと、アミュが急にラスカの袖を引っ張った。

 そして彼女が指差す先には暑苦しそうな長袖のメイド服を着た、長身の黒髪の女性が歩いていた。


「あれってナディアさんか? 何してんだろ」

「ほえ? うーん、前がぼやけて見えない……」


 汗なのか熱くて熱中症気味なのか、リュカは視界が狭くてぼやけて黒い何かくらいしかわからない。

 ただこの元気いっぱいの子供と体力お化けの魔術師は今にも走ってナディアのところに行きそうなので、それだけは勘弁してほしい。

 身体の力を全て抜けて暑さに耐えていると、アミュに腕を掴まれた。

 嫌な予感がする。

 アミュは無邪気な笑顔全開で走る気満々だ!


「リュカお姉ちゃん、競争しよ! ラスカお兄ちゃん、魔法使っちゃダメだよ」

「使わないって。それでも負けないけどな」

「待って! 私に拒否権は?!」

「あるわけねーだろ、バーカ」


 ラスカが真面目なトーンで言い放つと、アミュは走り出す姿勢でリュカを捕まえる。

 そして。


「ドーン!」


 アミュの軽快な掛け声と共に、リュカは千鳥足で走らされた。


* * *


「こんにちはーナディアさーん」

「なんと。こんにちは、ラスカ様とアミュ様と猫様」


 暑苦しそうな服装のナディアは汗ひとつかかず、腰を曲げながら涼しそうな顔で花屋の花を見ていた。

 酒とタバコのイメージしかない彼女にはちょっと似つかわしくない光景だ。


「どうしてナディアさんは花なんか見てんだ?」


 ラスカはナディアと同じように腰を曲げて尋ねた。

 するとナディアはラスカの予想外のことを淡々とした澄まし顔で言い放った。


「私の主人の方が婚約するそうで、その花を選びに来たのです」

「へー、ナディアさんに旦那さんが。……てゆうか、ナディアさん既婚者なの?!」

「はて? 私は独身ですが」

「ラスカお兄ちゃん。ナディアお姉ちゃんは、メイドさんだよ。メイドさんはね、結婚しないんだよ」


 アミュの言うことは偏見がすぎるが、確かにナディアは結婚しているような素振りもない。

 多分彼女の言っている主人とは、夫のことではなく雇い主のことだろう。

 となると、今の雇い主はアデリーナ。


「アデリーナ婚約するの?!」


 自分の一個下なのに婚約者がいるなんて!

 思わぬ事実にラスカはたじろぐ。

 そんなラスカにナディアは立ち上がると、頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、首の力が抜けたかのように首を傾げた。


「はて? なんのことでしょう」

「いやだって、今のナディアさんの上司はアデリーナだろ? だからアデリーナが誰かと婚約するんじゃないのかって」


 それを聞いたナディアはなるほどと手をポンと叩き、アミュでも理解できるほどわかりやすく噛み砕いて伝えた。


「今の私の主人はアデリーナ様の父上です。婚約されるのはアデリーナ様のお兄様で、私はそのお手伝いに来ているだけです。結果的にアデリーナ様に連れ回されましたが」

「なるほどな。それで花を選んでるわけだ」

「その通りです。ところで、皆さんはどのような理由でこちらに?」


 ナディアの声を遮るかのように、アミュは元気よく答える。


「それはね! 今からそふとくりーむ? を食べに行くの! アミュね、白いふわふわ初めて食べるんだー」

「なんと。私、いいお店知ってますよ」


 ナディアの地元はコルネイユらしいので、地元民が教えるお店で不味いところはない。

 これは聞き逃す訳にはいかないと、ラスカは若干前のめりになって聞いた。


「まじかよ! それってどこにあるんだ?」

「この先を右に曲がると露天がたくさんあるはずです。そこの黄色いテントの店がおすすめです。パフェみたいなアイスですよ」

「黄色いテント! アミュ、覚えたよ! ねえねえ、早く行こうよ!」


 今にも行きたそうなアミュがラスカの袖を引っ張るので、ここら辺でラスカは話を切り上げた。


「ありがとな。んじゃ、行ってくるぜ」

「はい。後で感想を聞かせてください」

「バイバーイ、ナディアお姉ちゃん!」


 大きく手を振るアミュに、ナディアは無表情のまま小さく振り返した。

 第一印象は何もかもテキトーにこなしそうな人物で他人にあまり興味がないのかと思っていたが、関わると意外にもいろんなことを助けてくれるメイドなんだとラスカは思った。

 これならシャリエール伯爵がナディアになつく理由もよくわかる。

 そう思っていると何かを忘れている気がする。

 なんか猫耳の女性を。


「ラスカ……アミュ……助けてくれ…………」


 かすれた断末魔のような女性の声がして、思わず振り向いた。

 ちょっと離れたところで、リュカが倒れてゾンビのように這いつくばっていたのだ。

 その様子を近くのナディアが物珍しそうな目で見ている。


「暑いよー……あっ、ナディア……なんでおまえはそんなに涼しそうなんだ……」

「涼しくなる魔法を使っているので」

「私にも使ってくれ……」

「後でお酒飲みに行きましょう」

「……うん。わかった。行くから……」


 それでナディアに魔法をかけてもらったリュカは、浴びるように水を飲んでようやく立ち上がった。


* * *


 ナディアに言われた通り右に曲がると、露天のテントがたくさん立ち並ぶ賑やかな通りに出た。

 たくさんの人がそこで食べ歩きをしているようで、アトレが来たら帰ってこなそうな雰囲気の小道だ。


「うわー! すごいすごい! ねえ見て、黄色いテント!」


 アミュは嬉しそうに黄色いテントを指差すが、この時ラスカはナディアに聞いたのを後悔した。

 黄色いテントのソフトクリーム屋が何軒もあるのだ。

 これではどれがおすすめなのか分からない。

 やはりナディアは大雑把だ。

 幸い、彼女はパフェみたいなアイスと言っていたので、探せば見つかりそうだ。

 そうこうしていると、早速アミュがそのパフェみたいなアイスの店を見つけた。


「ラスカお兄ちゃん、リュカお姉ちゃん、アミュ見つけたよー!」

「おっ、さすがだぜ。今行くからなー!」


 遠くで待つアミュはすでにメニュー表に釘付けだった。まるでどこかのお嬢様みたいに。

 リュカと早足でアミュのところに向かい、ラスカも一番安くてシンプルなソフトクリームを選んだ。


「ラスカ、今日は私が奢ってやるよ。アミュの時に私は何もできなかったからな」

「そんなことないぜ。リュカのおかげで楽に潜入できたぜ。でも、奢ってくれるなら俺は乗っかるけどな」

「もちろん!」


 そう言いながら、リュカもメニューを覗いた。

 さっきまでの汗だくで瀕死の彼女とは違って、汗ひとつかいていなく涼しそうなのは羨ましい。

 結局、リュカもラスカと同じシンプルなソフトクリームを選んだ。

 

「すいませーん。このソフトクリーム二つと、アミュは何がいいんだ?」

「アミュね、このジャンボチョコミックスソフトクリームがいい!」


 子供が好きそうな贅沢ミックススイーツだ。

 しかも割と高い。

 でも今日のリュカは太っ腹なようで嫌な顔ひとつせずにいた。


「まあまあ、私に任せなさい!」

「ソフト二つと、ジャンボミックスですね。ふふっ、兄妹なんですか?」

「あ、いや、兄妹じゃなくて……」


 確かにこの三人は髪色がよく似ている。

 兄妹と言われても仕方がないが、少なくともリュカは違うだろう。だって猫耳の三十代だ。

 見た目だけならアミュと親子関係でも不思議じゃない。

 だがリュカは十五年間サバを読み続けた女だ。ラスカはリュカの年齢への執着を知らなかった。


「そうなんですよー。今日は、お(にぃ)がアイス買ってくれるって言ってくれたので、わたしたちはそれで来たんですよ」


 エキュートの声で話せば、いつでもリュカは十代になれる。しかも童顔だからラスカの妹と言われても遜色ない。

 しかもリュカはエキュートじみた上目遣いでラスカを見つめてくる。

 まるで、「おまえが払え」と。


「はい……。払います…………」

「やったー!」

(このクソ猫……)


 その後来たソフトクリームは美味しかった。

実は似たようなことが以前もあったので、リュカはこの手の話題に慣れていました。


「かわいいお子さんですね。よかったらお母さんもお餅をどうぞ」

「うへぇ!? いいんですか? ……アミュ、うちのにならないか?」

「えーやだー」


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