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【8−14】どさくさに紛れて触りたい

「おら! 僕のアトレちゃんに何をする!」

「痛い痛い……」


 アトレがアルベリックをルミネに引き渡した後、ラスカたちを拾って外に出たら、アルベリックは従者に羽交い締めにされた第一王子——ルイ・オルレアンに何故か足蹴りされていた。

 彼の言動から、関わると厄介そうだ。

 その横には何人か縄で捕まった人たちがいる。

 そしてたくさんの子供達が一人の男性の騎士の元に集まって固まっていた。

 おそらく誘拐された子供なのだろう。これから身元確認がされて親の元に帰れるはずだ。

 色々とツッコミどころが多いが、中でも一番に目を引いたのがアデリーナ。

 バッサリと髪が切られている上、タバコに読書のナディアに目を輝かせてくっついている。


「ねえ、アデリーナ。どうして髪が短くなってるの?」


 疑問に思ったアトレがそっと聞くと、アデリーナは申し訳なさそうに言い始めた。


「実は竜使いとの戦闘で髪を切られてしまって、もうアトレ様と同じにはなれないの。でもねでもね、この髪型、ナディア様にそっっくりで気に入っちゃったのよ!」

「私と同じ髪型にした竜使い殿は称賛に値すると思います」


 なんだかよく分からないが、嬉しそうなので何よりだ。

 そして肝心のアミュは、久しぶりの外で楽しそうにはしゃいでいる。

 アミュはこの事件の鍵となる人物らしいのだが、ルミネが魔族であることを隠して事を進めてくれるらしい。


「アミュが無事だったのは安心したが、それよりもお前が魔法が使えるようになったことが驚きだな」

「そうなのよ。周りに光の粒子がばあっと飛んで、気づいたら魔法が使えるようになったのよ。みんな、こんな景色を見てるんだなって思っちゃったわ」

「光の粒子……わたくしの目にはそんなものは浮かんだことはありません。わたくしだけでなく、他の方も見たことがないと思います」

「嘘じゃないわ。本当に見えたのよ!」


 確かにアトレはこの目で光の粒子が無数に飛び交うのを見た。

 それがアトレの意思によって姿を変え、魔法のように何にでも姿を変えることも。


「お前は疲れすぎなんだよ。魔法祝いとして今度アイス奢ってやるから」

「嬉しいけど、ラスカも信じてよ!」


 こうやって他愛のない会話を楽しめるのが一番嬉しいことかもしれない。アミュがいて、冗談を言える友達がいて旅ができる。

 たまに変な事件にも巻き込まれるが、アトレがのんびり過ごせるのは共に旅をする仲間のおかげでもあると改めて気付いた。

 その感謝を伝えるべく、アトレは全員に向かって声を上げる。


「みんな。今日は私のわがままとアミュを助けるために付き合ってくれてありがとう。おかげでアミュちゃんを取り戻すことができたわ」

「いいってことよ、相棒。お前のわがままなんて散々聞いていたからな」

「アトレ様のためなら身体を売ってでも助けますわ!」

「フランソワーズ様に言いつけておきます」

「それはやめて!」


 なんだか不穏な未来が見えそうな人もいるが、アトレを助けてくれたことに変わりはない。


「じゃあ、リュカのところに帰りましょう」

「リュカお姉ちゃんのお耳、触らせてもらお〜」


 もふもふな耳を触るのを楽しみにしてそうなアミュの手を握り、アトレ達は忘れかけていたリュカのいる宿へ戻った。


* * *


 エキュートは任務のライブが終わった後、衣装を隠すための薄い上着を羽織って宿に戻った。

 当然だが部屋には誰もいない。

 全員アミュを助けるために戦っているのだ。

 そんな中、自分は歌っているだけでいいのか。こんな楽な仕事だけでよかったのか。

 床にへたり込んで己の無力さに嘆いた。

 普段は心強いエキュートの衣装だが、今日に限っては自分の情けなさを表現しているみたいだ。

 明かりをつけないと薄暗いこの部屋は、まるで今のリュカの気持ちを表しているみたい。

 もし失敗してアミュが帰ってこなかったら?

 もし誰も帰ってくることなく、リュカだけが残ってしまったら?

 そうなってしまえば、リュカはきっと自分を呪ってしまう。

 エキュートにしか頼れないリュカと、誰も助けることのできない弱い自分自身を。

 暗い顔のまま無気力になって、いつの間にか時が過ぎるのを待っていた。

 何もせず、床にへたり込んでじっと待った。


「…………」


 暑くなってエキュートのウィッグを脱ぐ。

 気付けばお昼の時間をとっくに過ぎていた。帰ってきた時はまだ太陽が昇りきっていなかったというのに、今はだいぶ傾いている。

 ウィッグを自身のバッグの上に置くと、ベッドに寄りかかって天を仰いだ。

 何も考えることなく時間が過ぎる。

 すると突然、部屋のドアが開いた。


「リュカいるー?」


 猫耳がピクッと動き、彼女の脳は声の主がアトレだと瞬時に理解する。

 声色からいい知らせかも。

 嬉しさのあまり腰を抜かしながら扉に駆け寄った。

 そしてアトレの横からひょっこり出てきたアミュに飛んで抱きついた。

 心の中に溜まっていた不安と自責の念を、安堵が全て吹き飛ばして抱きついてしまったのだろう。

 声が細くなりながらも、アミュに深く謝った。


「ごめんなさい、アミュ。私がちゃんと戸締りをしなかったせいでっ!」


 目に涙を滲ませ、思いっきり抱きしめた。

 するとアミュは己の小さな手を動かして、リュカの頭を優しく撫でた。


「リュカお姉ちゃんは悪くないっ。リュカお姉ちゃんも、アミュを助けるために歌ってくれたんだよね」

「そうだけど私は褒められる立場じゃない!」

「ううん、リュカお姉ちゃんも褒めてもらえるんだよ。頑張った人はね、アミュが頭をなでなでしてあげるの」


 リュカが腕から離すと、アミュは嬉しそうに両手を伸ばしてリュカの頭を撫でる。

 これがきっと彼女なりの感謝の伝え方なのだろうか。

 アミュに身を任せて撫でてもらっていると、アミュはどさくさに紛れてリュカの猫耳を触り出した。

 耳は敏感だから触られていることにすぐ気がつく。


「アミュ……これが目的だな?」

「うぐっ……」


 やれやれと言った笑顔を見せて、耳の上で撫でるのをやめたアミュの手首を持ち、己の猫耳に触れさせた。


「ほら。今日はいっぱい触っていいぞ」

「やったー! いっぱいもふもふする!」

「ふふっ。いっぱいモフれ」


 実際、猫耳は触られるとあまり気持ちよくはないが。

 でもアミュが楽しそうなのならよかった。


「にしても、エキュートのままじゃナディアさんに笑われるんじゃないか?」


 ラスカの一言に、リュカは未だにエキュートの衣装を着ていることを思い出した。

 確かにこのままじゃ三十代が十代に若造りしているようにしか見えないし、よく考えたら結構恥ずかしい。

 この間までは二十代だったからよかったものの、三十の女性がキャピキャピのアイドル衣装なんて!

 顔がぽおっと熱く赤くなり、思わず顔を手で隠した。


「やめてくれ……今日はそれを忘れて歌ったんだ……」

「……リュカ、この後お姉ちゃんがみんなをご飯に連れて行ってくれるらしいから、早く着替えていきましょ」

「アトレのお姉さんが? その話は後で聞けばいいから今は扉を閉めてくれ……さっさと着替えて忘れたい」

「ふふっ。そうね。じゃ、じいや、ラスカ、また後でね」


 アトレが二人に声をかけると扉をそっと閉めた。


「さてと、私も着替えなきゃ。この服も随分ボロボロになっちゃったわ」


 そう言うアトレの体を改めて見ると顔は汚れ、服はところどころ破れているし、露出した肌は擦り傷が多く残っていた。

 きっとそれほど激しい戦いだったのだろう。

 戦闘をしないリュカには想像ができない。


「でもリュカのおかげでもっと怪我をせずに帰ってこれたわ。ありがとう」


 微笑みかけるアトレがリュカの心の蟠りを完全に解き放つように、リュカはふと感じた。

 こんな自分でも役に立てたことがなんとなく嬉しかったのだ。


「どういたしまして。役に立ったなら嬉しいよ」


 アトレに感謝してもらえたのは嬉しい。

 エキュートの歌が誰かを助けたのはリュカの本望だ。

 それでも彼女にしてあげられることは無いわけではない。


「アトレ、その服帰ってきたら私が直してあげるよ。裁縫には自信があってな」

「本当?! ならお願いしちゃおっかな」

「任せとけ!」


 アトレも元気そうで安心したリュカは、アミュに耳を触られながらも真っ白な手袋を外した。

その後の食事会でヴィレーヌを除く全員が来ましたが、アトレの食べ物とナディアの高級酒でルミネの財布には空気だけが残りました。


「食べ過ぎよ〜……」

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