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【8−11】しぶとい汚れのように生き残る<廻炎の魔女>が教えるポジティブの理由〜推し活編〜

 魔法が使えなくなったナディアを庇おうと、アデリーナは魔力のガス欠のまま、謎の変人竜使いと戦っていた。

「あらやだ。案外しぶといのねぇ」

 迫り来る竜の猛攻とカペーの刃物による攻撃を避けながらナディアを守るのは、だいぶ厳しいものだった。

 だけど彼の竜捌きには癖がある。

 複数の竜を操るとカペーの動きが止まり、竜は動きが鈍くなる。

 その弱点をアデリーナは見落とさなかった。

「フレイルベーレ!(高温の火球を出す魔法)」

 極小の火球に高い密度の魔力を乗せた魔法は、動きが鈍くなった竜の眉間を貫通し一匹が塵となった。

(ナディア様に防御結界を張りながら戦うと魔力の消費が激しい……一発で仕留めないとっ……)

 冷や汗を拭い、手を床につけてカペーの足元から炎の間欠泉を作り出す。

 それは防御結界を張ったカペーを包み込み、焼き切るように吹き上がる。

 止まった瞬間を狙うとはいえ、相手の防御結界は非常に硬く、まるで戦車のようだった。

 竜を砲弾とした戦車のように。

「あなたがどんなに攻撃しても、ワタシの結界は破れないわ」

 炎の中からねっとりとした声だけが聞こえる。

 その瞬間、アデリーナの背中でザクッという何かが切れる音がした。

「かわいいお顔が歪む瞬間を見させて♡」

 耳元で気持ちの悪い声が聞こえ、すぐに振り向いた。

 アデリーナがその切れた何かを見ると、ギョッとして悲鳴を上げた。

「キャァァーーーー!!!!」

「早く見せなさぁい」


「あたしの髪が! ナディア様と一緒になったわー!」


 歓喜の悲鳴である。

 予想外の様子にカペーはナイフ片手に目を丸くして固まった。

 アデリーナが後ろを振り返ると、自身の長い赤毛の巻き髪が首元からバッサリ落とされていたのだ。

 ガラスの窓に映る髪型はまるでナディアそっくり。

 薄茶の瞳を輝かせて嬉しそうにナディアに抱きつきいた。

「見てください、ナディア様! あたし、ナディア様にそっくりになっちゃった!」

「そうですね。私のようになったこと、誇ってもいいです」

「全っ力で誇りますわ!」

 一応、戦闘中である。

「なんかあたし、魔力が全回復したみたいだわ!」

 してません。

「ナディア様! あたし、あれやりたい!」

 子供のようにはしゃぎ、キャアキャア騒いでナディアに「あれ」をねだった。腕で何かを引っ張るような動作をしながら。

「あれですか。そしたら魔女名が必要ですね」

「魔女名? ナディア様が付けてください!」

 ナディアは顔を人形じみた顔から変化させず、悩み出した。

 それをアデリーナは子犬のような上目遣いで見る。

「ちょっとあなたたち。ワタシを置いて何楽しそうな話をしているのよ」

 カペーが怒って言っても、彼女らの耳には何も入っていないようだった。

 ナディアは手をポンと打ち、アデリーナの魔女名を思いついて口を開いた。

「では<廻炎かいえん魔女まじょ>とか、<火巡ひめぐりの魔女まじょ>はどうでしょう」

「素敵だわー! ねえ、意味はなんですの?」


「かっこいいからです」


 安直な理由である。

「ちなみに私のおすすめは<廻炎の魔女>です。死んでも生き返ってくるくらい、しぶとく粘るアデリーナ様にピッタリです」

「なら<廻炎の魔女>にしますわ!」

 ひどい理由で魔女名が決まったところで、アデリーナは息を大きく吸った。


 そして弓を引くような動作をした後、左手から右手に向かって炎の矢が浮かび上がる。

 狙いはカペーだ。

「そんなチンケな矢。簡単に防げちゃうし、止まっても避けられるわよ」

 狙いがつきにくいよう、高く浮かび上がり防御結界を張る。

 それを狙い、アデリーナは先ほどの馬鹿みたいに浮かれた顔から打って変わり、真剣な表情で見つめながら口を開いた。

「ナディア様。あたしに少し魔力を分けてくださいまし。あたしの残りじゃ結界を破壊できない」

「魔力を分ける? ですが、私はもう魔法を……」

「魔法じゃない。これは取引よ」

 魔法が使えなくとも、それより前の戦闘であまり魔力を使わなかったナディアにはまだ魔力が残っている。

 だからアデリーナはナディアを魔力の予備タンクとして使おうとしていた。

 執政の顕現の代償は魔法が使えなくなること。しかしそれには使用者以外の誰かが使用者の魔力を借りることを前提とした規則ではない。

 そのよくわからない矛盾を突き、ナディアを魔力のタンク、アデリーナ自身を魔力の蛇口にして使おうとする魂胆であった。

 だけど、成功する確証は微塵もない。

「ナディア様。あたしの身体に触れてください」

 言われるがまま、ナディアがアデリーナの肩に触れる。

 まだ動けるような気力が湧いてきた。


「<廻炎の魔女>アデリーナ・ラフィットの名に従え。行け、矢よ!」


 前半部分は何も意味をなさない詠唱だが、<風追いの魔女>気分のアデリーナは言葉と共に矢を放つ。

 炎でできた矢はものすごい勢いでカペーに向かって飛んでいく。

 だがそれをカペーは場所を大きく移動して避けようとした。

「単純な矢はまっすぐにしか飛ばないのを知ってたのかしら?」

 しかし、アデリーナの矢は単純な矢ではなかった。

 ちょこまか動くカペーに引っ張られるように追いかけるのである。

 追尾術式ではあり得ない曲がり方をして追いかけるのだ。

「なんと。あれは……」

「糸をたぐってるだけよ」

 カペーを中心にアデリーナと繋ぐ糸を這いながら矢は飛ぶ。先ほど髪を切られた際に糸を繋いだのだ。

 どこにいても追従する矢にカペーは目をひん剥いて怯える。

「嘘よ、嘘よ嘘よ嘘だぁ!」

 結界を貫き、矢は男を貫いた。


* * *


 アデリーナは墜落したカペーに向かって、どうよと鼻を鳴らし彼を見据えた。

「あたしの勝ちね。これでアトレ様の助けに迎えるわ」

「早く帰りたいです」

 自信満々のアデリーナと全力帰宅モードのナディアだったが、この城は簡単には帰らせてくれないようだった。

 ズンズンと大きな足音を立て、先ほどとは比べ物にならないくらい大きな翼竜が暗闇から出てきたのだ。

 犯人はあの竜使いだろうとすぐに彼に叫んだ。

「まだ戦う気なの!」

 だがカペーは床に伏せながら残念そうに言い張った。

「ワタシじゃない。あれは制御外の本物の竜よ」

 アデリーナの顔が一気に青ざめる。

 もう魔力は残っていない。

 戦うことも逃げることもできない。

 そうやって固まっていると、カペーが倒れながら叫んだ。

「あなたたちは逃げなさい!」

 声と同時に竜が暴れ出した。


完璧無欠のスーパーメイドが選ぶしぶとさランキング


一位 アデリーナ

二位 メイド長

三位 ボス

……

最下位 リリアン

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