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【8−12】頑張った人はね、頭を撫でてもらえるんだよ

 ゆっくりと宙から舞い降りたアトレは、アルベリックが気絶していることを確認した。

 それから近くにあった縄で彼をぐるぐる縛り上げると、口にタオルを詰めた。

 もし意識が戻っても詠唱させないようにするためだ。

 そして今後はアミュが閉じ込められている結界に向かった。小さな結界は魔法陣によって繋がれている。

 だけどアトレはこういったものは壊す方が早いと知っている。

 剣を抜き、足元から切り裂いた。

 結界はガラスのように金色のかけらと共に砕け散った。

 世界が明るくなったかのように、結界と何かの繋がりが砕けるような感じがする。

 そしてアトレは剣を投げ捨て、ゆっくり目を閉じながら落ちてくるアミュを抱きしめて受け止めた。

「アミュちゃん起きて。助けにきたよ」

 優しく囁きかけると、アミュはゆっくり瞼を開け、明るい赤色の目でふんわりアトレを見つめた。

 そして赤ん坊のように微笑むと、小さな声で呟いた。

「……おはよう、アトレお姉ちゃん。……どうして泣いてるの?」

 知らずの間にアトレの目から涙が溢れていた。

 頬を滴る涙がアミュの顔に落ちる。

「冷たいよ、アトレお姉ちゃん」

 アミュが生きていて安心したアトレは思いっきり抱きしめる。

「ふぎゅっ」

「よかった……本当によかったわ……」

 膝から崩れ、アミュの元で静かに泣いた。

 もう離したくない。怖い思いをさせたくない。我が子を守るような気持ちでアミュを抱きしめた。

「アトレお姉ちゃん、苦しい……離して」

「やだっ! もう、どこにも行かないでっ」

 アトレが声なく泣いていると、アミュは小さな手をアトレの腕の隙間から動かして優しく頭をポンポン撫でた。

「えっ……」

「アミュね、昔お友達に教えてもらったの。頑張った人には頭を撫でてあげると喜んでくれるって。アトレお姉ちゃんは、アミュよりも大人だけど、頑張ったからアミュが頭を撫でてあげる!」

 アトレも何かいいことをすると、よくルミネに頭を撫でてもらっていた。

 その時は何よりも嬉しかった。心がポカポカするような暖かさを感じていた。

 アトレはアミュを腕から話すと、幼い魔族の可愛らしい顔を見つめて頬を赤く染めながら微笑んだ。

「ありがとう、アミュちゃん」

「うん!」

 そしてゆっくり立ち上がり、投げ捨てた剣を拾って鞘にしまうとアミュの手を持った。

「じゃあ、帰ろっか!」

「うん! でも、首が……」

 残ったもう一つの小さな手で金属の首枷をアミュはポンポン叩く。

 完全に外すのを忘れていたが、こういったものは大体犯人が外す鍵を持っているのでアルベリックのポケットを漁ると、案の定鍵が入っていた。

 それをアミュの首枷にある小さな鍵穴に挿して回すと、首枷は半分に割れてポロリと落ちた。

 そしてもう一度アミュの手を持つと、語りかけるような満面の笑みでアミュに言った。

「改めて、帰ろう! アミュちゃん」

「うん!」


* * *


 窮地に立たされていたラスカは階段に隠れていた。

 バルも同じところにいる。

 アトレを向かわせた後、時間を稼ぐために戦ってはいたものの、竜の圧が大きくて隠れてやり過ごしていた。

「バルさん、残りの弾数は?」

「四発です。お嬢様を守るためにもこれ以上は……」

 バルは眉に皺を寄せて苦しい顔をしている。

 竜はラスカたちを見失って今は大人しいがいつ動き出すか分からない。

「俺、行ってきます」

「ラスカ様! それは危険です!」

「でも、ここで誰かやらなきゃ終わりだから」

 昔、アトレも同じことを言っていた。当時はただの無茶苦茶だと思っていたが、今はアトレの気持ちが痛いほどよくわかる。

 誰もやらないなら実行する意思がある自分が遂行する。偽善でもいいから助けたい。

 そんなお人好しな部分がラスカにも移ってしまったみたい。

 階段の角から渡り廊下に出た。

 恐ろしく凶暴な竜。

 目を合わせるだけでちびりそうだ。

 でも、もうラスカは覚悟を決めたのだ。

「ルミナ——」

 その時、竜が突然霧散した。

 何もしていないのに消えたのだ。

「えっ?」

「ラスカ様! わたくしも——えっ?」

 ラスカと助けに出てきたバルは、摩訶不思議な現象に目を丸くして固まった。


* * *


 一方その頃、巨大な翼竜の登場で絶体絶命なアデリーナたちは、なんとか窓を破ることに成功した。

「アデリーナ様、私は骨が折れても守りますので安心してください」

「安心できないわ!」

 担がれたアデリーナの目線の先には恐ろしい翼竜。

 夢に出てきたら一晩は眠れなさそうだ。

 ナディアが窓に足をかけたその時、竜が声をあげて霧散した。

「ナディア様! お待ちください! 竜が、竜が消えましたわ」

「なんと」

 振り返ったナディアも竜が消えたことを確認したようだ。

 足を窓から下ろすと、ゆっくりアデリーナを抱いて下ろした。

 そして煤だらけのメイド服を払い、安心した様子でどこからか本を出して読み出した。

「アトレ様がアミュ様を助け出したようです。ゆっくり読書できます」

「さすがナディア様! どんな状況でも冷静で凛々しい!」

「お静かに」

 こんな馬鹿らしい二人を、カペーは小さく笑って見守ることしかできなかった。


* * *


 アルベリックを縄に繋いで引き摺りながら、アトレはアミュと手を繋いで部屋から出た。

 さっきは下の階の竜で騒がしかったが、今は足音が廊下中に響くくらい静かだ。

 もしかしたらアミュの力で復活した竜がアミュの魔力を失ったことで、自身の身体を維持することができずに崩壊したのかもしれない。

 そうなってくれれば、みんな生きているだろう。

「ふふっ、よかった」

「アトレお姉ちゃん嬉しそう」

「アミュちゃんが戻ってきたからね」

「えへへ」

 はにかんで笑う彼女は魔族とは思えないくらい可愛らしい。

 もしこの子が魔族ではなく、人間として生まれていれば、今頃優しい両親と共に仲良く暮らしていたのだろう。

 でもそしたらアミュとは出会えなくなってしまうので、ちょっとだけアミュが魔族でよかったと思ってしまうのだ。

 そんなことを考えていると、どこからか足音が聞こえてきた。

 おそらく二人組だろうか。

 近くの壁にアミュと隠れて様子を伺った。

「ね〜え、ヴィレーヌ? なんか静かじゃない?」

「そうですね。騒がしい連中が消えましたからでしょうか」

「お仕事が減って助かるわ〜。早くお家に帰りたいもの」

 ふんわり穏やかな女性の声と真面目そうな男性の声。

 特に女性の声はアトレが安心できる聞き馴染みのある声だ。

 ちらりと柱から顔を出すとそこにはまさかの。


「お姉ちゃん?!」


 声に気付いた金色の目の女性は、目を輝かせて走り寄った。

 アトレを壁から引き摺り出し、飛びついた。

「アトちゃーん!」

 ほっぺすりすりからの猛烈な愛情表現である。

「ちょっと離してってば……」

「ん〜? しょうがないなぁ」

 ルミネはアトレから離れると、自身の髪の毛を整えた。

 なんかもう、この世の疲れとかストレスとかどうでもよさそうな顔だ。

 そんなのんびり屋なルミネに、アトレはいち早く伝えたいことがあった。

「聞いてお姉ちゃん! 私ね、魔法が使えたの!」

「そうなの〜? えっ?! ま、魔法?!」

 ルミネが珍しく狼狽えている。

 それもそうだ。魔法が使えなかった妹が急に使えるようになったと言うのだから、シスコンのルミネは泣きそうなくらい驚いて喜んでしまうだろう。

 アトレも同じくらいシスコンだから子供のようにはしゃいでルミネに伝えた。

「それでね、目の前がぱあっと明るくなって『ヒカリエ』って言ったら使えたの!」

「本当?! 今は使えるの〜?」

 アトレは何もないところに向かって手を突き出した。


「ヒカリエ!」


 しかし何も起きない。

 試しにルミネの杖を使っても何も起きなかった。

「そ、そんなぁ……」

 涙目になりながらアトレはがっくしと肩を落とした。

 そんなアトレにルミネはちょこっと悲しい顔をしたが、アトレの頭を優しく撫でると慰めるように語りかけた。

「今魔法が使えないのはアトの身体がびっくりしちゃって強張ってるからかもしれないわね。でも、アトはお姉ちゃんに嘘をつかないって知ってるから、本当に使えるようになったのかしらね。おめでとう、アトレ」

 やっぱりルミネはいつだってアトレの味方だ。

 アトレからしたら別に嘘はついていないのだが、それでもアトレが魔法を使う瞬間を見ていないルミネは信じてくれる。

 優しくて、抜け目のない姉に、アトレは泣きそうになるのをグッとおさえ、信じてくれたお礼に笑顔を返す。

 これがルミネにできるアトレの最大限の感謝だからだ。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 ルミネは恥ずかしくなったのか頬を紅潮させて、嬉しそうにニヤニヤ微笑んだ 

 しかし、そんなルミネも今の状況を思い出したのか、髪を整えてアトレに尋ねた。

「アトはどうしてここにいるの〜?」

「えっとぉ……いろいろあったのよ。アミュちゃんがレイヤードに拐われて……」

 そう聞いたルミネはアトレの後ろに隠れている薄いブロンドヘアーの女の子と、縄でぐるぐる巻きに縛られているレイヤードを見た。

 それからルミネはアミュと目線を合わせるようにしゃがんで微笑んだ。

「初めまして、魔族ちゃん。わたしはルミネ。アトのお姉ちゃんなのよ」

 一瞬で魔族だと見抜かれたアミュはアトレのスカートを引っ張って、アトレの顔を困ったように見つめた。

「アミュ、魔族だってバレちゃった」

「怖がらなくていいのよ。お姉ちゃんはアミュちゃんの味方」

「そうなの?」

 アミュが不思議そうにルミネを見つめる。

 一方ルミネは妹がもう一人できたみたいに嬉しそうな顔で見ていた。

「そうよ〜。あなたは穏やかで優しい顔をしているのね。今まで人を襲ったことなんてないでしょ?」

 アミュはこっくりと頷く。

 ルミネはにっこりと笑い、アミュの額の角に手をかざした。

 するとアミュのツノは綺麗になくなった。

「いい子にはご褒美。きっと今まで角のせいで苦労したでしょ。これはずっと消せるものじゃないけど、一、二年くらいなら消せるわ〜」

 アミュの顔が明るくなる。

 綺麗な赤い瞳を輝かせて、ルミネにはにかんで笑った。

「ありがとう! ルミネお姉ちゃん!」

「ふふっ、妹が増えたみたい」

 ルミネはアミュの頭を撫でてから立ち上がった。

「それじゃあ、お姉ちゃんは今からお仕事するからまたね〜」

 そう言ってルミネ手を振りながらヴィレーヌを連れて、先ほどまでアトレたちがいた部屋に向かっていく。

 でもそこには誰もいない。

 アトレはもしかしてと思い、ルミネに声をかけた。

「お姉ちゃん。お仕事って、なんの仕事?」

「えっとねぇ、アルベリック・レイヤードを捕まえるの〜」

 まさかと思っていたが、彼はすでにアトレの手の中。

 苦笑いしながらアトレは言った。

「お姉ちゃん……実はもう……」

 足で縄でぐるぐる巻きのアルベリックを蹴って見せる。

 それを見たルミネは口を手で押さえて驚き、ヴィレーヌはアトレの行動が信じられないようで、アルベリックとアトレを交互に見た。

「……お仕事、終わりね」

 なんとなく気まずい空気が辺りに流れた。

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