【8−10】魔法が使えない魔女
「ヒカリエ」
アトレが呟いた瞬間、辺りを真っ白な閃光が覆い、アルベリックに向かって放たれた。
その一瞬の出来事にアルベリックは思わず目を開いて固まり、防御結界の展開が間に合わずに身体の一部を被弾した。
「なんだ今のは……魔法か? まさか、魔族戦争時の魔法なのか?!」
驚き理解が追いつかない彼にアトレは続けて言った。
「さあね。だけど魔法なら私は勝てる。まるで昔の決闘のように」
アトレの身体の軽さはいったい何なんだろう。
自分のやりたいこと、動きたいことが自由にできて、まるで魔法のような状態。
そうだ。
アトレは今、魔法を行使している。
(何だか不思議な感覚……世界が輝いて見えるわ!)
思わず笑みがこぼれた。
アトレの夢が叶ったみたいだ。
「あはは!」
「何がおかしい!」
「魔法って楽しい!」
何でも自由にできる。
思った通りに世界が変わる。
アトレが右腕を横に動かすと、宙に浮かぶ光の粒がたちまち光り輝く氷のつぶてのような形になる。
「いけっ!」
アトレが指示すると、呼応するようにアルベリックに飛んでいく。
すぐさまアルベリックは対魔法用の結界を張って防ぐ。
(まるで世界が小娘中心に動いているみたいだ。あの光の弾丸はどこから出した!)
考えに夢中のアルベリックの背後からアトレの攻撃が飛んでくる。
先ほどと同じような閃光の光だ。
間一髪で飛んで避けた。
しかしその先でアトレは剣を持って待ち構えていた。
「ここっ!」
対物、対魔法用の結界を目まぐるしく変え、アトレの猛勢を防ぐ。
「矮小な小娘め! こんなことで私に勝ったつもりか!」
対人用の結界でアトレは遠くに押し出された。
アトレは床を転がり、壁に身体を打ちつける。それでもアトレは立ち上がってスカートの埃を払いながら、アルベリックを見つめた。
「あなた、そんなに結界を張って大丈夫なの?」
「……っ!」
「魔力を節約しているように見えるわ」
アトレはすでに気付いていた。
魔法が使えないアトレと戦うなら自身の魔力量を気にせずに戦える。だって相手は防御結界を張ったり、魔法で攻撃しないから。
だから先ほどまでのアルベリックは魔力の消費が多い結界術を多用し、それをふんだんに使って圧倒していた。
しかし、今のアトレは魔法が使える。
普通に考えて魔法無しで戦っていたのだから、魔力は一切減っていない。
魔力が残り少ないアルベリックに圧倒的に不利な状況であった。
そのことに気付かれたアルベリックは魔力の節約を止め、結界の刃をアトレに向けて放った。
「壊して!」
アトレが叫ぶと周囲の光の粒子が集まって結界を飲み込み、粉々に打ち砕いた。
アトレが頭の中で矢を想像すると、アルベリックの頭上に光の矢が浮かび上がる。
右腕を上から振り下ろすとアルベリックに矢の雨が降り注いだ。
それを必死に防御結界で防ぐが、徐々にヒビが入って脆くなる。
「くそっ。数で押されるっ!」
苦し紛れにアルベリックは頭上で別の結界を作り出し、矢から守る防御結界とぶつけて爆発を起こして矢を消し去った。
「さすがね。でも、これで終わりよ」
アトレはふんわりと宙に飛び上がった。
天井の照明が自身を光り包み込むように高く。
「私と、私の大好きな仲間のために、あなたを倒す」
剣をアルベリックの方へ向ける。
切先に光の粒子が徐々に集まってきた。
「貴様が最強の攻撃なら、私は最強の防御だ!」
アルベリックは前面に残りの魔力全てを込めた対魔法用の結界を張った。
そしてアトレは、翡翠の瞳で彼を見下ろしながら、冷たい口調で魔法を詠唱した。
「ヒカリエ」
剣が一瞬青く光り、切先から真っ白な閃光がアルベリックに放たれる。
全てをアルベリックの結界が受け止め、四方八方に流れた。
「ぬるい! 貴様の魔法なんざ、レイヤードの結界に比べりゃ弱すぎる!」
だが、それはアトレの予想通りだった。
「ルミナス」
青白い魔力の閃光がアトレの剣から放たれた。
姉が趣味で作った魔法は、対物効果に優れている。そして、古い術式のレイヤード家の防御結界は新しい魔法に対応していない。
だから、アトレは「ヒカリエ」の発動中に「ルミナス」を使って結界を破壊し……
アルベリック・レイヤードは、「ヒカリエ」に直撃した。




