【8−7】本物の竜
アデリーナとナディアが竜と戦っているその頃、アトレ達はさらに上の階に登っていた。
階段にもレッドカーペットが敷かれている姿は昔の栄華を語っているようだった。
コツコツと階段を登り、渡り廊下のある階についた。この廊下を渡ってもう一つ階段を登れば最上階だ。
そしてその渡り廊下から何やら物音が聞こえる。
アトレは壁を伝って覗くように中の物音を聞いた。
何かが重い足音を立てズンズン歩いて行く音。人ではない大きな生物のようだ。
それから、その生物を判別できる大きな声が聞こえてきた。
「ギャオォォォォ!!!!」
耳をつんざくような金切り声。それをアトレは嫌というほど聞いてきた。
「まずいわ。ここにも竜がいるわ」
「マジかよ。本当どこにでもいるな」
「ここは倒さないと前には進めないようですね」
剣に手をかけて前に進む。
すると目の前から青白い炎がアトレに向かって飛んできた。
すぐさま背後のバルが防御結界を張り、難を逃れたが、影から出てきた廊下いっぱいの赤い鱗の竜は今までより凶暴だった。
竜にとっては低い天井を大きな翼で飛び、壁には鋭い爪で引っ掻かれた跡が残っている。
「ルミナス!」
鋭い閃光の魔法は一瞬にして竜に着弾した。
しかし、竜の分厚い鱗によって弾かれて壁に大穴が開き、肝心の竜はなんとも無いような様子だった。
今まではそんなことはなかった。
鱗に魔法が弾かれるなど見たこともなかった。
ロコモアの竜も似たような感じであったが、まだ魔法が弾かれるほどでもなかった。
だけど目の前の竜はより原始的で野生的な個体だ。
金色の瞳の眼光が、獲物を狙う目をしている。
「これが、本物の竜……」
ふとアトレは呟いた。
「お嬢様、それはどう言ったことで?」
「私たちは今、狩られる側にいるのよ。まるで、ケレースの竜戦争のようだわ」
アトレの予想が正しければ、今目の前にいるのは完全体の個体。
ユーちゃんを封印からの解放、アミュの時の竜を復元とすれば、この竜は復活したと言える。
そうすれば三人のやり方は通用しないと分かる。完全な別物だ。
そのことをバルとラスカも理解していた。
ならできることは一つだけ。
「お嬢様。ここはわたくし達にお任せを」
「で、でも!」
この竜には三人ですら勝てないことをアトレは知っている。
現にルミナスが弾かれているのだ。
「わたくしはお嬢様の執事です。お嬢様を守ることが任務とすれば、先に行かせることもわたくしの役目です」
「だからアトレ。俺たちが足止めするから、その合間に行け」
二人の覚悟は決まっている。
大切な仲間、アミュを救うためにはアトレだけでも行かせることを最優先に考えている。
だからこそ二人の作戦を無碍にしないため、アトレは勇気を振り絞った。
爪で抉られてしまう恐怖を振り切って。
「わかった。無茶はしないでよ」
「それはお前もだ」
一瞬笑顔を見せ、真剣な顔で前を見た。
一発、バルの銃声が響く。
行動開始の合図だ。
「アトレ! いっけぇぇ!」
ラスカの叫びに鼓舞され、アトレは全力で走った。
少し顔を上げると竜と目が合った。
「今目が合ったぁぁ! ひぃぃ、無理無理無理無理ぃぃぃぃ!!!!」
竜の目に向かってたくさんの魔法が飛ぶ。
弱音を吐きながらも、アトレは竜の足元を滑って通り抜けた。
目と鼻の先に竜の鋭い爪が掠めそうになる。
冷や汗ダラダラだ。
「よしっ! アトレ、任せたぞ!」
ラスカの声で気持ちが引き締まり、廊下を駆け抜ける。
* * *
息を切らしながら階段を登った。
一歩一歩が重い感じがする。アトレの一歩に、たくさんの仲間の想いが重なっている。
みんな違った方法でアトレをここまで連れてきたのだ。
アデリーナとナディアに関しては善意で戦っている。だからこそ、アトレは諦めてはいけないのだ。
ついに最上階。アミュがいると思われる場所だ。
もしここにアミュがいなければ、今までの努力が無駄になってしまう。
そんな恐怖を抱えながらも、目の前の真っ黒で高そうな木の大きな扉に、手をかけた。
扉はゆっくりと開く。
鍵がかかっていれば剣で壊してしまおうと考えていたのだが、その問題はなさそうだ。
中には誰もいない。
とても大きな部屋だ。
壁の暗いところに金属の檻がある。中にはそのまま放置された布団とくしゃくしゃのシーツが置かれている。
きっとここにアミュがいたのだろう。
そして反対側を見ると、大きな玉座に木のテーブル。床は少し高くなっているようだ。
耳を澄ますと微かに魔力の流れる音が。厳密に言うと結界を張った時に聞こえてくる環境音なのだが、その音のする方へアトレは向かった。
縦に長い立方体の結界。
金色に輝き、足元には魔法陣が浮かび上がっている。
顔を近づけて中を見ると、目を閉じて浮かんでいる子供が微かに見えた。
「アミュちゃん!」
やっと見つけた。
剣を取り出し、力いっぱい振り抜いた。
だがアトレの努力は虚しく、傷一つつかずに結界から弾かれた。
もう一度振りかぶったその時、アトレの背後から鼻につく低い男性の声が聞こえてきた。
「やっと来たか。小娘」
「誰!」
急いで振り向いたその時、アトレの顔の前には杖が構えられていた。
余裕に満ちた構え。
杖に顔が反射してしまうほど近く、彼に命の主導権を握られてしまった。
目を見開いて前を見つめてしまうほどの恐怖だ。
そして男はアトレを脅しながら口を開く。
「私のことを忘れてしまったか?ここにいる人間なんぞ、一人しかいないだろう」
華美な玉座。この城の当主。そして、旧ベルン公国の領主。
そこから思い当たる人物はやはり一人しかいない。
「……アルべリック・レイヤード」
怒りで声が震えながら、アトレは言葉を発した。




