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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第六章 出会い編
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【6−9】魔族の言葉

「なんで竜がいるのよー!」


 閑静な森の中。突如現れた絶滅したはずの竜にアトレたちは追われていた。

「ラスカ! もっと早く飛べないの?!」

「流石に……人二人を担いでちゃ、早くは、飛べないぜ……」

 そう。今ラスカは左肩にアトレ、右肩にリュカを抱えて地面スレスレを墜落しそうになりながら飛行していた。

 おかげで声が途切れ途切れだ。

 ちなみにバルはアミュを左脇に抱え、アトレの重たくなったトランクケースを持って飛んでいる。

 その二人を狙うように、竜は真っ赤な火球を口から出して吐いていた。

 アミュは怖くて今にも泣きそうになりながらも、必死に防御結界を後ろに張っていた。

「ここ、ここっ……うぐっ…………あっ、外れた……ぐすん……」

 そして現在戦力外の女性陣は、ラスカの方で文句を垂れていた。

「ちょっとラスカ右、右! ひぃぃっ! 火球が飛んできたわ!」

「なんで私たちの顔を竜に向けて担いでんだよ! やばいやばいやばいこっち飛んできた!」

「マジで黙ってくれ……それにアトレはまだしも、リュカも攻撃するなり手伝ってくれ」

「手伝えって? 私は歌以外何もできないぞ! そうか、歌えばいいのか? ららら〜がんばれラスカ!」

 歌うと自然にエキュートになるリュカに、ラスカは心底イラついていた。

 エキュートボイスはライブに限る。今はウザい。とにかくウザい。

 これが、自分より年上だなんて思いたくない。

「おまっ……いい歳して恥ずかしくないのかよ」

「ラスカ……おまえ、後で徹底的にしばく」

(アイドルが言っていい言葉じゃねぇー……)

 ラスカとリュカが言い合いしている間にも、少しづつ竜が木を薙ぎ倒して近づいてくる。まさに万事休すだ。

「ていうか、リュカは少しはアトレを見習えよ。静かで助かるぜ」

 リュカは不貞腐れつつ、右で担がれているアトレを見た。

 彼女は腕をぶら下げながらも、真剣な顔をして何か考えているようだった。

 その時、ラスカがつまづくように転び、二人は転げ落ちた。

「おい! ラスカ大丈夫か?」

「魔力切れた……」

 パーティーの主戦力が失われた以上、戦力外のリュカができることは歌うことか、最初に食べられることだけ。

 転んでも考え込んでいるアトレと、完全に疲れ果ててうつ伏せになっているラスカ。そこに、バルと泣きかけのアミュが助けに駆けつけた。

「ラスカ様大丈夫ですか!」

「すまない、流石に二人はきついぜ……」

「アトレ! ラスカを連れて逃げるぞ!」

 リュカの声が届いたのか、アトレは立ち上がった。

 だがしかし、アトレは腰の剣に手をかけた。

「じいや、竜の目に向かって発砲しなさい」

「承知しました」

 バルはすぐさまショットガンを取り出し、狙いを定め発砲した。硝煙の匂いと空になった赤いシェルが地面に落ちた。

 そして竜の眉間から血が流れ、空に向かって咆哮した。

 その瞬間、アトレは竜の背中に飛び乗り、剣を突き刺した。

 ラスカ抜きでの二人の連携は、長年の付き合いがないとできないものだと、リュカはすぐに理解できた。

 呆気に取られていると、いつの間にかアミュがリュカの手を握っていた。

「怖い?」

「うん。あっでも……」

 アミュはそれだけ言うと、急に理解できない言葉をブツブツ呟き出した。

「アトレお姉ちゃん待って!」

 突然アミュが叫び、各々が動きを止めた。


「竜さんと、お話ししたい」


* * *


 じいやと離れて怖くなったアミュは、リュカの元へビクビク怯えながら向かった。

 リュカはアトレのような力強さはなくても、一緒にいてくれるとどこか安らぎのような安心を覚える。だから手を握って心を落ち着かせていた。

 竜が叫ぶたび、アミュは不安に駆られていた。

 鳴き声が怖いわけじゃない。何を言っているかわからなかった。

 でもそれも、今ようやく聞こえた。

(辛い。我は何故ここにいるのだ)

 アミュにはどうして竜が辛いのかわからない。

 それが余計に怖くなって、リュカの手を強く握った。するとリュカが気づいてくれて、慰めてくれた。

「怖い?」

「うん。あっでも……」

 また竜が鳴く。

(あの人間は我に何をした。こやつらも同じか?)

「Al ni dellxa’har nokxim. (竜さんとお話ししないと……)」

 アミュは勇気を出して、声を出した。

「アトレお姉ちゃん待って!」

 アトレはすぐに気付いて、攻撃をやめた。

「竜さんと、お話しがしたい」

「お話しって……アミュちゃん竜は魔物よ」

 アミュを落ち着かせるアトレを振り切り、そのまま口を開いた。


「Cumi ni el delur?(あなたはどこから来たの?)」


(主は我の言葉がわかるのか?!)

「Amu mitavaki.(アミュはわかるよ)」

(まさか、魔族の生き残りか!)

「Fmitavaki. Ju, al veni dellexa.(わからない。でも、話せるよ)」

 アミュはリュカの手を振り切って竜に近づいた。

 竜はアミュのことを、ただ見つめるだけで何もしなかった。

「Cumle ni el wule?(どうして辛いの?)」

(それは、我はここにいてはいけないのだ。生きていてはいけない存在なのだ。なのに、あの人間は我を復活させた。もしや、主もそいつらの仲間か?!)

 竜は再び暴れ出し、背中に乗っているアトレを振り落とした。

「woseniva!(落ち着いて!)」


「アミュちゃん離れて!」

 突然アトレが走ってアミュの腕を掴み、後ろまで引っ張った。

 そして剣を構えながら、アミュを見ずに力強く話した。

「アミュちゃんが言ってることは分からないけど、あの竜と話せることは分かった。私が守るから、アミュちゃんは落ち着いて対話を試してみて」

「アトレお姉ちゃんは、アミュのこと怖くないの?」

「怖くないわ。だって、アミュちゃんは私たちのことを守るって言ってくれたじゃない」

 その言葉に安心して、ドクドク音を立てて鼓動する心臓を抑えながら、竜に話しかけた。


「Alw ni xdezila u hullpoxsila. Amu'w gulugu ry mixima!(アミュたちはその人間とは違う。アミュたちは間違って巻き込まれたの!)」

(ではなぜ人間と共にいるのだ。我々竜族と魔族と人間共は対立していたではないか)

「Mikwsita, amu aimer atrè’fimlw.(だって、アミュはアトレお姉ちゃんたちのことが好きだから)」

(人間を信用できるのか? 特にそこの雌はどうなんだ)

「Al veni.(信用できるよ)」

(なら、主らに助けを求めてよいか?)

「うん。I krit un, el foren u amu. Cuma di el kuniva?(その代わりアミュに教えて。何が起きたの?)」

(我にもあまりよく分からぬ。蔓が我を覆い、気付いたら人間の雄に復活させられていた。幸い、我は上位種の竜だ。魔族の言葉を理解できることで、こうして主に教えてあげられる)

「……kikuuiki.(教えてくれてありがとう)」

(我が言えるのはこれまでだ。我を楽にしてくれ)

「Mitavaki. Amu xiseva u atrè lellim.(……わかった。アミュが、ちゃんと伝えるよ)」


「アトレお姉ちゃん」

「どうしたの?」

「竜さんを、楽にしてあげて」

 アミュの心細く、かつ力強い一言に押され、アトレはすぐに剣を構えた。

 それからアトレは竜の目を見ると、すぐさま心臓を突いた。

 竜は何も言わず、塵となり消えた。


* * *


 竜の血が突いた切先を回して血を落とし、鞘にしまった。

 アトレはアミュの言っていたことが全く分からなかった。竜と話すと言っているのに、アミュだけが訳の分からない言語を喋り続けていたからだ。

 それに、今彼女は地面に崩れてシクシク鳴いている。

 多分、声をあげて泣く気力がないのだろう。

 アトレが慰めようと近づくと、今度は声を出して泣き出した。

 アトレは何が何だか分からないので、バルに目配せして宥めてもらうことにした。そこにラスカとリュカが来てくれた。

 頑張って慰めているようだが一向に進展がなさそうなので、アトレも近づき、しゃがんで話しかけた。

「アミュちゃん、どうして泣いてるの?」

「アミュが、魔族の言葉、話せるの、バレちゃった。アミュ、悪い子だから、アトレお姉ちゃんに嫌われることをしたの」

 ぐずりながら話すアミュの頭を、アトレは優しく撫でた。

 するとアミュは不思議そうに見て、涙を止めた。

「アミュちゃんはいい子だよ。それに、ここではもっと自由にはしゃいでいいのよ」

「でもっ……」

「アミュ様は本当にすごいことを成し遂げました。これはいい子ではないとできませんぞ」

「いい子?」

「アミュはいい子だと俺も思うぞ。いいことをしたから、ご褒美が必要だな」

 みんなが慰めたおかげか、アミュは笑顔を取り戻した。

 それから赤い瞳を輝かせ、嬉しそうに言った。

「アミュがみんなを助けた!」

「そうね。アミュちゃんはすごいわ」

 アミュはその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。

 そして、何かをねだるような目でリュカを見つめた。きっと、ラスカの言うご褒美が欲しいのだろう。

 でもよりによって、なぜリュカなのか。

 アミュは歳相応の子供らしい仕草で、リュカにねだるように言った。

「リュカお姉ちゃん。アミュにご褒美ちょうだいっ!」

「別にいいけど、私があげられるものなんてエキュートグッズしかないぞ?」

 困ったように言うと、アミュは口をむっと閉じて、リュカの猫耳を指差した。

「触りたいのか?」

「……触りたい」

「しょうがない。今回だけだからな」

 リュカが頭を下げて、アミュが耳を優しく握って楽しむ。

 とても心が落ち着いているような表情を浮かべ、ずっと遊び続けた。

 この様子から、なんだかんだリュカは子供の扱いが上手いと思った三人であった。

(アミュちゃんが言ってた蔓の男って、もしかして……)


* * *


 城に戻ったガレルは、真っ先に主の元に向かった。

 大きな扉を開けると、玉座に肘をついて座る主の彼は面倒くさそうにガレルを見た。

「公爵様。実験の件についてご報告があります」

「簡潔に話したまえ。私はこれから、『子供達』の世話があるんだ」

 しっとりと圧のかかった声でガレルは気押されそうになるが、言われた通り簡潔に説明した。

 彼の前では不敬は許されない。跪き、命令に従った。

「実験は成功でございます。ロコモアでの例とは異なり、完全な死骸からの復活は完璧な状態での形で成功しました」

「それは真か!」

「はい。ですが、少々邪魔が入りまして……」

 ガレルがそう言うと、公爵は目を背け、面倒くさそうにし始めた。

 彼の見立てではその邪魔も消えるはずだったのだ。

「邪魔というのはなんだ。早く言ってみなさい」

 声だけでもわかる強い怒りで、ガレルは自分の首が吹き飛ぶ寸前だと理解する。

 だって、その邪魔に自分はあっさり負けてしまったのだから。それは公爵に恥をかかせたのと同じだ。

 だから怯えながらも、命令に従うしかなかった。

「それが、憎きエマニュエリ公爵嬢の二人でございます」

「二人だと? 特に下には害はないだろう」

「しかし……竜をあっさりと倒してしまったのです」

「実に滑稽だ。上はどうなんだ」

 ガレルに屈辱の記憶が蘇った。

 それは自分なんか相手にならない、目の毒と言わんばかりに圧倒されたあの魔女による蹂躙。

「実験体と、僕の部下を全てかっさられました」

 屈辱の怒りが混じった声で言うと、公爵は全てを見透かしていたようで淡々と言い放った。

「お前如きが相手になるような奴じゃない。今回は不問にしてやろう。だが、次は無い」

「……ありがたきお言葉、感謝いたします」

 恐怖による圧政。

 逆らえない主にビクビク震え怯えながらガレルは部屋を後にし、いつもの仕事へ戻った。

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