【6−8】天然の年齢サバ読みガール
小さな魔族の優しい女の子に連れられ、森の奥にある小さなウッドハウスに辿り着いた。
辺りは開けていて、育てているであろう沢山の花が春の息吹を浴びて開花している。その周りには魔族の家とは思えない、むしろ精霊の家と言うべきか、森に住む兎や山羊、猪が仲良く小鳥の囀りを聞きながら日向ぼっこをしていた。
「ここがアミュのおうちだよ!」
客人をもてなすことが嬉しいアミュは、庭をかけづり回ってはしゃぐ。
それは踊るように、太陽が彼女のスポットライトになるくらい満面の笑みで喜びを表現しているみたい。
アトレの想像とは違いすぎる魔族の子だ。
「えへへ〜見て! あそこでいつも動物さんたちとお昼寝してるの!」
「楽しそうだね。ところで、アミュちゃんの親ってどこにいるの?」
アトレが両親を探しながらアミュに聞くと、彼女は好奇心に満ちた目でアトレに訊いた。
「親ってなぁに?」
「親ってええっと……そう! パパとかママのことだよ」
アミュはそれを聞いた途端、顔色を悪くして俯いた。
それはさっきまでの楽しそうな彼女とは違って、寂しげな声で言った。
「アミュに、パパとママはいないの……生まれた時から、ずっとひとりぼっち」
これは何か訳ありな様子だ。
もしかしたら魔族そのものに親、または子育ての概念がないのかわからないが、これ以上深掘りしないほうがよさそうだ。
「えっと、アミュちゃんて今何歳?」
アトレが若干困惑しながら問うと、アミュはアトレを見てにっこり笑いながら両手を広げて見せた。
これはおそらく十歳だな。
「五十五歳!」
おっと。五と五で五十五のようだ。
「それって数え間違えじゃないの?」
「違うよ! アミュが生まれたのは寒くなり始めた時期だから、いつも暑い時期が過ぎて寒くなったら、一歳数えてるの!」
これは間違いない。
正確ではないが、実に理に適った数え方だ。となると、アミュは本当に五十五歳のようだ。
これはネタになる! と思ったラスカは、二十九歳独身女性の耳元で小声で呟いた。
「これは天然物のサバ読みだな」
「いや今はサバ読んでないから! ……てゆうか、年齢サバ読みのベクトルが違いすぎるだろ」
「リュカお姉ちゃんも五十五歳?」
「私はまだ二十代だ!」
子供の何気ない一言が、リュカの心に深く刺さった。
そんなことはお構いなしのアミュは、持っていた木の実入りのカゴを地面に置くと、アトレ達を地面に座らせた。
「ここでピクニックしよ! アミュがケーキ持ってくる!」
そう言うと、てってってっと愉快な音を立てて元気よくウッドハウスの中に入って行った。
魔族だけど愛らしい様子に、四人は表情を緩めほっこりした。
しばらくすると、アミュが拙い足つきで自分の顔くらいの大きな木の実ケーキを持ってきた。
真っ白いお皿に乗ったケーキは、子供の手にしては整った見た目で、上に乗る赤 や紫のベリーはなかなか美味しそうであった。アミュはもう一度家に戻ると、今度は小さな皿を何枚にも重ねた上に銀のフォークを乗せて、見るからに危なっかしい雰囲気でやってきた。
それを四人ずつとアトレとリュカの間に置くと、器用にケーキを取り分けた。そして一番大きなイチゴを乗せたケーキをアトレの間に置くと、自分もそこに座って食べ始めた。
ラスカ曰く、このケーキにやましい物はないらしい。
素朴な味のケーキだが、ベリーの甘酸っぱさが効いて味はそこまで悪くなかった。
* * *
「ごちそうさまでした。結構美味しかったわね」
「茶色い見た目から味はあまり濃くないと思っていたのですが、意外とベリーと合っていてなかなか美味でしたね」
「本当?! アミュのケーキ、じいやにも喜んでもらえた!」
喜び方や感情の起伏まで、まるで人間の子供のようだ。
アトレは魔族に対する認識を変えようと思った。
「アトレ、そろそろ出発しないか。このままだと日が暮れてしまうよ」
リュカはそう言って服に付いたケーキのカスを振り落とすと、荷物をまとめ出した。
それに倣って、アトレもバックを持って立ち上がった。
「またねアミュちゃん。ケーキありがとう」
優しく言って手を振ったその時、アミュは何も言わずに家に走り込んだ。
謎の行動に唖然としていると、アミュは風呂敷を膨らませ肩に担ぎながら走ってアトレに駆け寄った。
そして、アトレを見上げて頼み込んだ。
「アミュも一緒に行きたい!」
「えっ、でも……」
「アミュはね、アトレお姉ちゃんたちと一緒にケーキ食べれて楽しかった! ……でも、お別れするのは好きじゃない。もっと、みんなと一緒にいたい」
突拍子もない行動に、その場の誰もが困惑した。
アトレの旅は決して安全ではない。現に、竜とも出くわしている。
それを人間の子供ならまだしも、アミュは魔族だ。
彼女の力量も分からないし、彼女の心意も理解できない。
それはアトレだけではなく、リュカですら同じことを考えていたくらいだ。
だけど、アミュの赤い透き通った瞳は、本気でアトレに訴えていた。これがアミュの嘘偽りのない気持ちなんだと。
「アミュは知ってる。アミュは魔族で、人に嫌われている悪い子なんだってことを。でも、アミュはもうひとりぼっちはイヤなの!」
アミュは子供らしく全力で泣きじゃくった。
自然と涙が出たのだ。
最後に悲しくて泣いたのは二十年も前だったから、悲しい気持ちを、アミュは心の底から忘れていた。
その時に失った友達を、同じように今も失いたくなかった。
「……アミュ、いい子にするから。魔族だから迷惑かけちゃうかもだけど、その代わりにアミュがみんなを守る!」
「私だけじゃ判断しきれないわ……みんなは?」
迷いながらアトレはバルから順に三人の顔を見た。
バルはアトレに任せると言うように頷き、リュカは耳を伏せてアトレとアミュを交互に見つめた。
ラスカは若干迷惑そうな顔をしていたが、アトレが見つめると迷った挙句小さく頷いた。
「私のトランクケースに入るかしら……」
「えっ?」
赤くなった目を擦り、涙ぐみながらアミュはアトレを見つけた。
それから、アトレはにっこり微笑むとしゃがんでアミュに言った。
「行こっか。ほら、荷物出して」
感極まったアミュは、アトレに飛びついた。
「ありがとう、アトレお姉ちゃん! アミュ、いい子にするから! みんなを、守るから!」
「あんまり頭をぐりぐりしないで。角が当たって痛いのよ」
慰めるように、笑いながら言った。
それからアミュは風呂敷を広げてアトレのトランクケースに詰め始めた。
そこには彼女の着替えや大量の木の実、あと何故か銅貨が一枚だけ入っていた。
それをアトレの服とエキュートの衣装二着が入ったトランクケースに詰め込み、鍵を閉めた。
「残る問題はアミュちゃんの角ね……」
「それなら私に任せなさい!」
ここでリュカが威勢よく一声上げる。
そこに全員の目が集まった。
「私は戦力外と言っても、別に魔法が扱えないわけではない。これくらいお茶の子さいさいなのだ」
リュカはアミュの額に手を当てた瞬間、淡い光が出てアミュの角が綺麗さっぱりなくなった。
アミュも同じように額に手を当てたが、引っかかるような感覚はなくすぐに角が消えたのだと気づいた。
「ありがとうリュカお姉ちゃん! これでアミュもみんなと一緒!」
元気に嬉しがる彼女と対照に、リュカは素直に喜べないというか残念そうな面持ちになっていた。
「アミュよ、嬉しがっているところ悪いんだが……」
「なぁに?」
無垢な彼女を見て一瞬躊躇ったが、深呼吸してから教えた。
「……その魔法、私が寝ると元通りになるんだ」
「欠陥品じゃねえか!」
これでリュカは、昼寝ができなくなった。




