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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第六章 出会い編
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【6−6】優雅なスキー合宿

「いやっほーい!」


 真っ白な雪の斜面に、晴天の空。

 リュカが板を使って斜面を下り、雪を舞い散らしながら飛び上がる様子をアトレは眺めていた。

 冬も終わりそうな時期だが、山の中はまだ寒い。厚手の上着を羽織り、足に二枚の板をつけていた。

 微かに雪が降る様子は、魔法で降らせているのだという。

 そう、ここはスキー場であった。

「リュカってあんなにテンション高かったかしら」

「さあな。初めて雪を見た猫みたいだぜ」

 その時、ラスカの後ろから雪の壁が迫ってきて彼を覆い被せた。

 流石のラスカでも雪の壁にスキー板では踏ん張ることができず、よろめいた。

そして、雪の中から声の低い女性の声が。

「誰が雪を初めてみた猫だって? ……猫耳ついてるけども!」

 粉雪がはれ、ニット帽に厚手の上着を着たリュカがゴーグルを外して現れた。

「やっときたわね。これで何回目よ」

「もう五回は滑ってるね。やっぱり雪山と言ったらスキーだよな」

「でもあなたの板は一枚じゃない。それってスキー板なの?」

 リュカが両足を乗せている大きな木の板を、アトレは物珍しそうに指差した。

 するとリュカは足から板を外し、地面に向かって縦に立たせて抱え込んだまま説明口調で話し始めた。

「これはな、うちの地域で使われるスキー板なんだ。北部は昔から雪が多い地域だったから変わったスキー板が多くてね。私もこういったウィンタースポーツは遊び慣れてる。しかもたまたまここの宿の店主が北部出身で久しぶりに見つけたもんだから、ちとお借りさせてもらったんだよ」

 そう言うとリュカはまた山を登り出した。

 アトレも滑り足りないので彼女について行ったが、ラスカは下で固まっていた。

「どうしたの?」

「疲れた。リュカはまだしも、なんでアトレもスキーができるんだよ」

「私も昔、家族でスキーに行ったことがあるのよ」

 それは昔のこと、アトレが九歳の時に家族総出でスキーに行ったことがある。

 アルノールから馬車で二日。現地では三日の滞在であった。

 そこでアトレは、初めてのスキーで才能を開花。その後どっぷりハマってバルと一週間以上延滞したのはいい思い出である。


 思い出に耽っていると、いつの間にか山の上の方まで着いた。

 そこでリュカが板を履くとアトレを煽るように一言。

「アトレは私についてこれるかな?」

 そこからものすごい速さで駆け下りた。

「望むところよ!」

 アトレも負けじと追いかける。

 しかし相手は雪国育ちのリュカ。目の回るような速さで滑り、コブで高く飛び跳ね、まるで水面を跳ねるトビウオのような身のこなしだ。

 アトレも決して遅くはないが、速さに身体が慣れておらずビビって速度を出せなかった。

 結局、下まで追いつくことはなく雪を削りながらラスカとリュカの前で止まった。

「全っ然追いつかなかったわ……」

「私の実力を見たか! ハッハッハ!」

「大人気ないぜ……」

 これが、十三歳年下のお嬢様にマウントをとる二十九歳独身女性の姿である。

 未成年を煽る姿はまさに大人気ないに尽きた。

 彼女の笑顔が日差しで眩しいが、突然辺りが暗くなった。

 どうやら夕暮れの時間のようだ。

「流石に遊びすぎたな。さっさと片付けてお風呂に入ろう、アトレ」

「そうね。温泉が楽しみだわ」

 テキパキと道具を片付ける経験者二人は、ラスカを忘れて宿に戻ってしまった。

「あのー俺はどうすれば……アトレさーん、リュカさーん……」

 当然片付け方がわからないラスカは、見様見真似でなんとか片付けた。


* * *


 夜食を食べ終わったアトレとリュカは、窓際の椅子に腰掛けて雑談していた。

 山奥の宿のため、星が綺麗だ。

 雪に月が反射し、紫色の海に散りばめられた星々はなかなか見応えがある。

「月が綺麗ね。お姉ちゃんと見た夜を思い出したわ」

「ん、アトレはお姉ちゃんがいるのか?」

 ビール片手にリュカは尋ねた。

 色々とアイドルの夢が壊れそうな状況だが、アトレは慣れたので問題ない。

「五つ離れた姉がいるのよ。いつもの服はお姉ちゃんに買ってもらったのよ」

「へー。アトレねえはセンスがいいんだな。なんていう名前なんだ?」

「ルミネよ。ルミネ・エマニュエリ」

 リュカは耳をピンと立て、何かを考え込んだ。

 こうして考えている姿を見ると、エキュートを思い出すような仕草だ。

 そして何か思い出したのか、手をポンと叩き詰まりものが取れたような顔をした。

「思い出したぞ。昔バイトで入ってた服のセンスのいい、ふわふわしてる衣装さんだ」

「それって本当?」

「本当だよ! 私もモデルの人かなって思うくらい綺麗で、しかもメイクとか髪のセットとかがバカ上手いんだ。その上ことあるごとに魔法のことを考えてたから、印象に残ってるよ」

「うちのお姉ちゃんすぎる……」

 ルミネが衣装さんをして、出演者より目立つ様子をアトレは簡単に想像できる。

 そんなことを考えていたら、なんだか面白おかしくなってきた。

 それを酒の肴に、リュカはビールを飲み込む。

 その様子を見ながら、アトレは柑橘の甘い果実を食べた。

「そういえば、リュカって耳が二つついてるわよね」

「猫耳と人の耳のことか?」

 リュカは自分の猫耳を撫でて、ちょんちょんアピールした。

「そうそう。ずっと気になってたのだけど、それって両方から音が聞こえるの?」

 リュカは人の耳を押さえて、「聞こえるぞー」と言った。

 人の耳もあって猫耳もあるとか、贅沢な耳である。

 おかげでメガネをするとき何も考えなくていいのが、リュカのお気に入りポイントだ。

 でもリュカにとって猫耳はあまりいい思い出がない。

 珍しい特徴のせいで、身体を狙われたりで散々だった。


 もしかしたらと思うと怖くなって、リュカはアトレと目を合わせないよう、月を眺めながら訊いた。

「……アトレは、私のことを怖いとか思わないのか?」

「思わないわよ」

 即答だった。

「だって私はおまえより何歳も年上で、しかも人より違う特徴を持ってる。普通年上の女性に対して、同年代みたいな接し方しないじゃん」

 目を合わせて言った。リュカの目つきは真剣だった。

 だけどアトレは、それが普通のことのように言い放った。

「だって友達でしょ。リュカは私たちの世代と価値観が似てるっていうか、あなたも私のこと年下と思ってないでしょ」

「……確かに。でもアトレはしっかりしてるってゆうか、大人びてるってゆうか」

「ラスカはどう? あれは性格ガキでしょ」

「おお……。お嬢様も時には口が悪くなるんだな」

 思わぬアトレの言葉に、リュカはビビって耳を立てた。

 それからビールを飲み干すと、外を眺めて口を開いた。

「アトレの言うとおりだな。私はエキュートの時から変わってないみたいだ。……でもたまには私のことを、『リュカお姉さん』とか言ってくれよ!」

「やだ」

 この生意気なお嬢様にはお仕置きが必要だな。

 リュカはアイドルとは思えない動きで机を乗り越し、アトレの脇をくすぐり始めた。

「リュカお姉さんって言うまでやめないからなぁ〜」

「やめてよリュカ! ぜ、絶対言わないから!」

 それから、リュカはアトレのことをずっとくすぐり続けた。

 あんなにしぶとかったアトレも、流石に懲りたのか「リュカお姉さん」と言ってやっとやめた。

「アトレを動かすにはエキュートじゃないと無理みたいだ」

 推しのエキュートの前では何もできないが、少々酒臭い、猫耳、ブロンドのショートの見た目でエキュートの声にされると、アトレもちょっと堪えるようになった。

 それでもやっぱり、エキュートになるとアトレも負けてしまう。

「ほーらアトレちゃーん。もっと『リュカお姉さん』って言ってよ。わたしの名前じゃなくて、『リュカお姉さん』だよ。それとももっと名前を呼んでほしい? ア、ト、レ、ちゃ、ん」

「ダメダメダメ! エキュートちゃんに言われると私も持たないから! ていうかその前にラビナに殺されちゃう!」

 アトレは顔を真っ赤にして毛布にくるまってうずくまった。

 その後リュカが疲れ果て腹を出しながら寝てしまったが、アトレは本物のエキュートが隣で寝ていると思ってしまい興奮で寝れなかった。

リュカは国内ルーキースキー大会で優勝するくらい、スキーの実力を持っています。

他にも村のスケート大会で優勝したり、ウィンタースポーツが大得意です。

ちなみにリュカが使ったスキー板はスノーボードのことでした。

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