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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第五章 金星と月の青い君編
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【5−9】誘拐事件

 アトレとルミネは急いで声のした方に向かった。

 そこには一人の女性がうずくまって泣いている。

「大丈夫ですか?」

 アトレは彼女に駆け寄って声をかける。周りにはたくさんの人が群がっていたなか、唯一声をかけた。

「うちの娘が、誘拐されてしまって……。目の前で、さ、攫われてしまったの……」

 女性の目の前でルミネはしゃがむと、優しい声でゆっくり尋ねる。

「……犯人の特徴はわかる?」

「いいえ。一瞬だったからあまり覚えていません。ただ……娘に迷子にならないようにと、追跡用の魔道具を持たせていまして……」

「わかったわ。わたしが探してみせる」

「お姉ちゃん……」

 ルミネはすくっと立ち上がると、目を瞑った。

(魔力の残り方からして西の方向。あれ、そこには大量の魔力反応が。もしかして……)

 不安そうな目を向けるアトレを見て、ルミネは一呼吸おくと決意したかのように話し始めた。

「アトレ、お姉ちゃんは西の港に行くから、あなたはそのお母さんを連れて裏港に行ってちょうだい。そこに、彼女の娘ちゃんがいるはずよ」

 真剣な顔をするルミネに、アトレは力強く頷いた。

 そして、ルミネが空高く飛び上がると同時に、アトレは母親を連れて走り出した。

 ルミネが何を考えているかは分からないが、今はそれを信じて行動するしかない。だって、お姉ちゃんはすごいから。


* * *


 ルミネに言われた通りに裏港に行くと、かすかに子供の泣きじゃくる声が聞こえる。

 物陰に隠れて様子を確認すると、鉄の檻の中に、個別で子供たちが収監されていた。ざっと数えるだけで、誘拐事件の被害者の数と同じくらいいる。

 その周りには、見たことのない黒い服を着たどこかの傭兵が数人ほどうろついている。

 その光景を見ただけで、胸を締め付けられるような気持ちと、人とは思えないような行動に苛立ちが隠せなかった。

 その怒りを剣にぶつけるべく、柄を強く握った。

「お母さん、ここは私が行きます。全員を解放するまでここで待っててください」

「あなた一人で本当に大丈夫? 私が手伝わなくてもいいの?」

 たとえアトレ一人でも、魔法戦となれば勝ち目は薄くなるだろう。

 でも、今のアトレには絶大な自信があった。


「大丈夫です。だって私は、<影月の魔導師>の弟子ですから」


 心配そうな目で見る母親を振り切って、アトレは物陰を動き始めた。

(問題ないわ。今まで通りにやれば。……でも、今まで通りにできる、かな)

 だんだんアトレの足が震え出して動きにくくなった。

 もし捕まったら? 失敗して子供達に危害が加わったら?

 勝負には勝てるかもしれないが、それ以外のリスクを考えると、怖くなってきた。

(でも、今はそんなこと言っている場合じゃないわ。私がやらなくちゃ、誰がやるのよ。アトレ、あなたならできる!)

 頬を強く叩いて、剣を構えた。

 傭兵までは目と鼻の先。

 まだ気付かれていない。

(今だ!)

 アトレは剣を裏から振り下ろした。

「アガッ!」

 傭兵は声も出ぬまま、地面に倒れる。

(これで一人、あと三人ね……)

 二人目の傭兵も、同じように倒した。

「奇襲だぁ! ウグッ!」

「おいおいマジかよ。あんたのそのぶっとい斧と、オレ様の魔法で奴を倒すぞ」

「了解した」

 アトレの存在に気付いた体格の大きな傭兵と魔術師が、背を向け合ってアトレを探し始める。

 幸い、アトレの居場所はバレていない。

 だけどこのまま隠れていたら埒が明かない。

 いずれ魔法で場所が割れてしまうだろう。

(こんな時、<影月の魔導師>様なら何をする! ……そうだわ、光に紛れるのよ)

 アトレは深呼吸した。


 次の瞬間、空高くのぼる太陽の影になるよう、高く飛び上がった。

 そして強い金属音と共に、斧を持つ大男を斬った。

 アトレに気付いた魔術師は、杖でアトレを強く遠ざけると、もう一度杖を構えた。

「剣士か。大したものだな。なんのようだ、小娘」

「あなた達に囚われた子供を助けるために来たのよ」

「それはいいご身分なことだ。だが、魔法に勝てるとでも思ったか!」

 魔術師は魔法を詠唱し、紅蓮の炎の刃を飛ばした。

 その刃を、アトレの剣が軽く切り裂いた。

「いい剣筋だ。オレ様は忙しいんだ。これで終わらせる」

 魔術師は炎でできた鎖鎌を作り出すと、アトレの足元狙って振り回す。

 ものすごい速さで振り抜く鎌を、アトレは足元ギリギリで避ける。

 剣と鎌ではリーチの差が大きすぎる。これでは近づけない。

(どうしよう。これじゃあ近づけないわ。どこか鎌を刈り取れる物は……あった!)

 アトレは体格の大きい傭兵に向かって、鎌を避けながら駆け抜けた。

 斧を取った次の瞬間、魔術師に向けて力いっぱい投げつけた。

「いっけぇぇぇぇ!!!!」

「投擲とは、甘い!!」

 ガツンという鋭い音がして、斧は炎の鎌で砕け散る。

「甘いのはそっちよ」

 大きな斧で目の前がいっぱいだった魔術師の裏をとり、アトレの剣が喉仏に触れる。

「いつの間にっ!」

「失礼」

 アトレが魔術師の後頭部を強く殴ると、彼は地面に崩れ落ちた。

 小さな広間には、横たわる人間とアトレだけがその場に立っていた。

 次の目標は子供達の救出。

 倒れている魔術師の懐から金色の鍵を取り出して、一つの檻を開けた。

「もう大丈夫だよ。頑張ったね」

 優しく声をかけた途端、安堵した女の子が大声で泣き出した。

「こわっかったよぉ! おねえちゃーん!!」

「よしよし。怪我はないかしら。ちょっと待っててね、みんなを助けるから」

 女の子の頭を優しく撫でると、手を繋いで他の檻に向かった。

 アトレの救出の成果として、合計十三人の子供がいた。しかも全員、十歳にもなっていない男女であった。



「ごめんね。ママがちゃんと見てなかったから、こんな怖い思いをさせちゃって」

「……ううん、このおねえちゃんが守ってくれたから、怖くなかったよ」

 我が子を抱きしめる母親を、アトレは何も言わず見守った。

 そして二人が落ち着いた頃、アトレは残った子供を母親に託して、ルミネの元へ向かった。


* * *


 一方その頃、アトレの元へ応援が行かないようにと、ルミネは本隊に奇襲をしていた。

 空を飛ぶルミネは、飛んでくる大量の魔法をいとも簡単に防ぎつつ、蹂躙した。

 その様子は、傭兵からすると恐怖そのものである。

 自身の最大火力をもってしても、ルミネは嘲笑うかのように防ぎきる。そして、間髪入れずに攻撃が入る。

 何をしても髪にすら触れさせてくれないルミネに、多くの傭兵は戦意をなくしていた。

「ごめんなさい。あまりこういうことは好きじゃないけれど……」

 そう言って、攻撃と防御を同時にこなしながら、風を使って戦意喪失した者と倒れた者を一箇所に集めている。

「これで片付いたわ〜。お掃除は苦手なの」

 全ての敵が片付けたルミネがゆっくり空から降りている時、針のように尖った葉がルミネの髪をかすめた。

(あら、まだいたのね〜。あまり戦いたくないから逃げてくれると助かるのだけど)

 空から大声でルミネは叫ぶ。

「犯人さ〜ん。わたしはあなたを傷つけたくないから、この人たちを連れて帰って欲しいのよ〜」

「ふん、滑稽な。僕には無関心ってことか」

 男は手を深緑の炎に染め、ツタを地面から出してルミネに鞭のように放った。

 だが、ルミネは視界にすら入れず、防御魔法で防ぎ、破壊した。

 それを見た男は大きく高笑いをしてルミネを睨む。


「さあ、宮廷魔法使い様のお出ましだ! <金星の魔女>、ルミネ・エマニュエリよ!」


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