【5−5】二人の師匠
勝負は一瞬で決着がついた。
アトレが木刀を振り上げた瞬間、<影月の魔導師>が持っていた杖で木刀を吹き飛ばし、そのままアトレの首元で杖を止めた。
「隙が多い」
目を見開いて、アトレの背筋が凍る。
ただの一言で、死の瀬戸際を彷徨ったような恐怖が襲った。
間違いない。
彼は本物の宮廷魔法使い、<影月の魔導師>なんだと。
「あいたた……腰が……」
「おじいさま! もう、無理するから……」
アレットが椅子を出して、マクロンが腰をゆっくり下ろす。
それはもう、どこにでもいるおじいちゃんだ。
(嘘でしょ……今、何が起こったの?)
アトレは未だ呆然と立ち尽くしている。
あっという間の出来事で、自分が信じられなかった。
「お嬢様、大丈夫でしょうか?」
バルの声でやっと気が付いた。
良かった。まだ生きてる。
「ええ。ただ、本当に何が起こったのかよく分からないわ。それに怖かった……」
「ちびった?」
ラスカはこの場を茶化すかのように言った。どうせ、すぐに言い返すだろうけど。
「ちびってない……」
ラスカの問いに言い返す気力もなかった。ただどのように、試合が行われていたのかも分からない。
そんなアトレに、<影月の魔導師>は言った。
「君の剣術は貴族の嗜みのようだ。実戦には隙が多すぎるように見える」
彼の言う通り、アトレは父に教わって剣を学んだ。
このご時世に実践用の剣術なんて必要なかった。
時代は魔法だ。
至近距離以外、剣が有利になることはない。
でもアトレは魔法が使えない。
(それでも、私が魔法を求めるのは……)
大きく息を吸う。
「あのっ、<影月の魔導師様>!」
「今なんて?」
アレットがすかさず紙に書く。
「私に、剣を教えてください!」
深々と頭を下げた。
<影月の魔導師>は髭をいじってアトレを見た。
「これから毎日来るんじゃ。わしが見てやろう」
アトレの顔が一気に晴れやかになる。
「ありがとうございます!」
頭を下げたまま、マクロンに言った。
* * *
アトレの修行と同時に、他でも修行が始まっていた。
ルミネがラスカの師匠「エマ」だったので、休みの合間を縫って修行をしていた。
ベルソンは学園都市ということもあって、魔法戦用の広場が多い。そのうちの一つを借りて鍛錬に励んでいる。
「ということで、今から魔法戦をしま〜す!」
「ま、魔法戦?」
アトレはその言葉にあまり馴染みがなかった。
フランクール法学校では、高等科の二年から実戦魔法の授業が始まる。噂程度には聞いていたものの、退学した今では縁がないため詳しくは知らなかった。
「魔法戦は、小規模の結界の中で行われるのよ〜。模擬の実戦だから怪我はしないけど、とっても痛いのよ」
ルミネはだいぶフランクに言っているが、魔法戦は大怪我を除いた実戦である。
かすり傷や服は傷つくし、軽減された魔法の痛みは身体に伝わってくる。だから、とっても痛いのだ。
ベルソンの魔法戦フィールドは常に結界が張っている。魔道具によって維持されているようだ。
そのため観戦する人も、利用する人も安全に楽しめる。
アトレとバルは、ラスカとルミネの勝負を観戦するだけなので、結界の外から座って見ていた。
「じいや、お姉ちゃんとラスカの勝負、どう思う?」
「ルミネお嬢様の圧勝でしょう。おそらく長続きはしません」
「どうして?」
「ルミネお嬢様は一撃で終わらせるはずです」
そう言われて、アトレはルミネの背中を凝視した。
参加者ではないのに、心臓がドクドクと鼓動してくる。
「それではスタート!」
ルミネの軽快な合図とともに、魔法戦が始まった。




