【5−2】ルミネ・エマリュエリ二十歳! 現在彼氏募集中で〜す⭐︎
あれから数日、一段と寒さが目立つようになった頃、アトレたちはルミネのいるベルソンに到着した。
今回は昼前に着いたので、ゆっくりと家を探すことができそうだ。
そしてなんと言っても、ベルソンは国内有数の学園都市。
アトレのいたフランクール法学校に匹敵する学校がそこら中にある。しかも、工業的な機械が街を動かしているらしいのだ。
さすが物質魔法を得意とした旧ポエール公爵家のお膝元だ。滞在するだけでワクワクする。
そんなわけだが、ルミネの家を探さないと野宿は確定なので、アトレたちはカルミアの手紙を読みながら街を探索している。
「この『オーレル通り十二番地』ってどこなのかしら?」
「今いるここは『ラクスター通り』。地図がないのでわかりませんね」
三人が通りの横で悩んでいると、どこからか女性の声が聞こえてくる。
「……アトちゃーん」
「誰か私のこと呼んだ?」
「いや、呼んでないが」
気のせいだと思ったので手紙と睨めっこするが、やっぱり聞こえてくる。
気になったアトレが振り向くと……その瞬間、アトレと同じ水色髪の女性にバックハグされた。
「アトレ! ひさしぶりっ!」
「お姉ちゃん——?!」
「師匠?!」
抱きついてきた女性は、緩やかなタレ目に金星のような瞳のアトレの姉。
ラビナほどではないが、発育も良く、モデルのような体型をしているアトレの姉。
尚且つ、可愛い妹のアトレの実の姉。
——そう、ルミネ・エマニュエリであった。
……であったが、ラスカの遮るような「師匠」という声にアトレは気づいていた。
「ちょっと待って、お姉ちゃん」
抱きしめるルミネを引き離してアトレは言った。
「なぁに?」
「ラスカの『師匠』ってどういうこと?」
ルミネは「ん〜?」と言いながら、のんびりラスカの方を向いた。
「あらぁ〜? もしかして、ラスくん?」
「は、はい! ラスカ・ファビウスです!」
珍しくあのラスカが萎縮している。しかも、お姉ちゃんに。
アトレはまた彼の弱みを握った気がした。
「あの師匠。師匠は『エマ』っていうお名前じゃないんですか?」
「あれは偽名なのっ。ごめんね。今、改めて自己紹介するから」
ルミネは持っていた野菜の入ったカゴを地面に置くと、小さく咳払いをして口を開いた。
「わたしはルミネ・エマニュエリ、二十歳! エマニュエリ家の長女で、現在彼氏募集中で〜す!」
一等星のように明るくて、どこかおっとりとしたルミネに、アトレは心底ホッとした。
なんせ三年間会っていない姉の姿が、昔となに一つ変わっていないのだ。長旅の疲労が一気に飛んだ気がした。
なんだか家に帰ってきたみたいだ。
「ところで、アトちゃんたちはどこに泊まるの」
ルミネは頭にクエスチョンマークを浮かべて尋ねた。
「あっ、そうそう。これ、お母様からの手紙なの。読んでほしいわ」
アトレが手紙を渡すと、ルミネはそれを読みだす。
書いていることは、近況報告とアトレたちを家に泊めてほしいという内容だ。
アトレはてっきり快く家に泊めてくれると思っていた。
だけど、なぜかルミネの顔が渋い。
「え、えっと〜」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「泊めてもいいんだけど……ちょっと散らかっているっていうか……」
「本当にちょっとだけ?」
「うん。本当に、『ちょっとだけ』なの……」
ルミネが横髪をいじりながら目を逸らす。昔から、嘘をつくときはだいたいそうだ。
アトレの念に負けたのか、可愛い妹を野晒しにしたくない気持ちが勝ったのか、ルミネは渋々観念したかのように歩き出した。
ルミネの家の中は、アトレの予想通りだった。
「ちょっとだけ」散らかっているどころか、足の踏み場もないほど書類が山積みになっている。
まあまあ広いアパートの一室なのに散らかりすぎる。
それに、玄関の郵便受けには手をつけていないであろう封筒がたくさん。シンクには洗っていないお皿が溜まっている。
しかもなんだ、水スライムまで沸いているではないか。
「お姉ちゃん!? スライムがいるわ!」
アトレは目を見開いて指差した。
でも、ルミネは冷静に答える。
「あの子はお姉ちゃんのペットなの〜」
手を合わせて、満面の笑みで言った。
ルミネの声に気づいたスライムは、紙を器用に避けながら、とびきりの笑顔で彼女に飛びついた。相当なついているのだろうか。
ルミネはスライムを肩に乗せると、魔法で部屋を片付けた。
書類は端っこにまとめ、散らかった本は本棚に。シンクからは水が出て、宙に浮いたスポンジが食器を洗っている。
「お姉ちゃんはすごいのよ!」
ルミネは胸を張って、自慢げに言った。だけど、アトレの目は尊敬の眼差しではなく、呆れた目でルミネを見ていた。
「……なんでいつもそれを使わないの?」
「め、面倒くさいから?」
「…………」
「と、とにかく、我が家へようこそっ!」
ルミネは、妹が自分よりしっかりしていたことをようやく思い出した。




