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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第四章 剣と家族編
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【番外編①】仲直りとファン

 夏の長期休暇が終わり、リリアンはフランクール法学校の寮に戻った。

 久しぶりにアデリーナと、フランソワーズに会いたいという気持ちもあったが、今はアトレとの約束を果たすために、早く手紙を渡したいという思いの方が大きかった。

 だが始業前に渡そうと思うも、なかなか勇気が出ない。

 そうしているうちに、一限、二限と時間だけが過ぎていく。

 できればアデリーナとフランソワーズがいない時がいい。なぜならまだ、アトレと仲直りしたことを伝えていないから。


 いろいろ悩んでいると、昼食の時間になった。

 リリアンはいつも通り、二人と一緒に食堂に向かった。ポケットには、アトレから預かっている手紙を大切にしまっている。


 フランクール法学校の食堂は豪華だ。

 元々、貴族校でもあり、中等部はまだその影響が色濃く残っている。高等科との学食の統一のために、出てくる料理は総じて豪華なものが多い。

 そして今日は、新学期初日ということもあり、食堂は大混雑だった。

 必死に席を見つけて、三人で料理を持ってくる途中、リリアンはある人物を見かけた。

 茶髪ショートボブの少女。彼女がきっとアトレの友人、ラビナなのだろう。

 それに一緒の卓には、紺髪の少年もいる。

(間違いない)

 確信したリリアンは、勇気を出して話しかけることにした。

「アデリーナ、フランソワーズ、ちょっと話したい人がいるから少し席を離れるね」

「あら、行ってらっしゃいまし、リリアン様」

「ええ、あたくし達は先に食べておりますわ」

「うん、ありがとう。じゃあ行ってくる」

 リリアンは人混みを抜けて歩いた。

 さっき見つけたテーブルには、まだ二人の姿がある。

 大きく深呼吸し、リリアンは茶髪の女の子に話しかけた。

「な、なぁ。君はラビナかい?」

「ん? そうだけど? ……ていうかきみ、アトレちゃんを虐めてた子だよね。わたしに何の用?」

 ラビナの反応は予想通り冷たかった。

 それもそうだ。自分の親友を虐めていた人が唐突に話しかけてくるのだから、警戒するのは仕方がない。

 でもリリアンは怖気付くことなく、手紙をポケットから取り出した。

「こ、これ! そ、その……アトレから君にって、預かったんだ」

 リリアンはラビナに白い封筒を渡した。

 ラビナは裏面に書かれていた、アトレの名前を見て疑うことなく手紙を開けた。



私の一番の友人、ラビナへ


 私は今、ロコモアを出たばかりのところにいます。ラビナと別れてからたくさんの仲間や友人ができました。

 個性的な研究者やボス、それに頼りがいのある仲間がいて毎日が楽しいです。彼にはいつか会って欲しいな。

 ロコモアではいろんなことがありました。竜に出会ったり、女神祭を楽しんだり、夜には宴会をしたりしました。ボスとナディアさんの飲み比べは特に面白かったよ。


 それに、この手紙で一番伝えたいこと。今手紙を持って来てくれたリリアンと仲直りをしました。もしかしたら疑っちゃうかもしれないけど本当です。彼女は多分、私より友達も少ないだろうし、案外面白い人なので仲良くしてあげてください。


 最後に、今年の冬ごろベルソンに着く予定です。着いたらまた手紙を出すので、返事はここ(ルミネの住所)に送ってください。もちろん私の名前を書くこと。お姉ちゃんが食べちゃうかもしれないから。

 では、これで失礼します。帰ってきたらまた服を買おうね。楽しかったよ。


                   貴方の親友、アトレ・エマニュエリより

追記:トスカは勉強すること!



 ラビナの持つ手紙を覗きこむように、トスカも手紙を読んだ。

「どれどれ、アトレはオレになんて言ってるんだ?」

「あんたは勉強しなさいって」

「何だよそれっ、アトレらしいな」

 談笑している二人を見て、リリアンはモジモジしながら尋ねた。

「それで……アトレの手紙にはなんて書いてあったんだい?」

「きみと仲直りしたってこと。それって本当なの? きみが脅して書かせたとかない?」

「そ、そんなわけないじゃないか! だいたいボクは暴力なんか振るったこともないし、この手紙をもらったのだって街を出ていく直前だ!」

 あたふたしながら釈明するリリアンを、ラビナはジっと見つめていた。

「なら友達になってあげるよ、リリアンちゃん」

「……。え?」

 思わぬ言葉にリリアンの目が点になる。

 それに気付いたラビナが、無言で手紙のある部分を指差した。

そこには、「友達が少ない彼女と仲良くしてあげて」と書いてあった。

(こんなことまで書かなくていいじゃないか)

 首を傾げて考えていると、白い手袋をつけた男子の手が伸びてきた。

「オレはトスカ。よろしくリリアン」

 リリアンはにっこり笑ってトスカと握手した。

 これが初めての、同年代の男子の友達ができた瞬間だった。

 手紙を渡すことに満足のいったリリアンは、鼻歌を歌いながらアデリーナたちの元へ戻った。


 残るはもう一つの問題。ボルドー男爵の件だ。

 実は旧ボルドー男爵はフランソワーズの系譜であった。クルーエの出身を知っていたリリアンは、友人の故郷と同じ領土であることに気付いていた。

 しかし、ボルドー男爵が横暴であったことは初耳だったので気になってしょうがなかった。

 とはいえ、何も知らないアデリーナの前でこの話題を出すのは、少々いたたまれない。今は保留にしていくことにした。


「戻ったぞー、二人とも」

「あら、遅かったじゃないですか」

 席に戻ったリリアンは真っ先にアトレのことを伝えたかった。ラビナとも和解したことも含めて。

 椅子に座るなり、すぐに口を開く。

「ボクから二人に、伝えたいことがあるんだ」

「なんですの?」

 二人はすぐにフォークを置き、真剣な顔をするリリアンの方に顔を向けた。

「実はアトレと仲直りをしたんだ。あと、アトレの友人とも。だからこれからはその二人とも仲良くしてほしい。それにこれはボクの願望だけど、二人にはタメ口で話して欲しいんだ。今のボクは伯爵としてのボクじゃない。普通の生徒として接してもらいたいんだ」

 真面目な話をしたリリアンを見て、アデリーナとフランソワーズは顔を見合わせた。

「悪役ごっこは終わりね」

「これからは隠さずにできるねっ」

 そう言ってガサゴソ鞄を漁ると、何やら「アトレ・ラブ」と書かれた鉢巻やら光る緑の棒を出した。

「あたしたち」

「実は」

「アトレ様のファンですの!」

「アトレ様のファンなの!」

 目を輝かせてオタク全開の彼女たちを見て、リリアンはその勢いに思わず引いた。しかも、そのままキャアキャアと話し始めてしまった。

「あの翡翠のような瞳! なんて美しい!」

「そしてそして可愛らしさと凛々しさを持ち合わせたあのお顔と立ち姿、いつ見ても胸がドキドキしちゃう!」

「友達になったリリアンが羨ましいわ!」

 もはや二人のアトレ愛は凄まじく、いつの間にかリリアンの目の前で話していた。

 でも、どうしてアトレの虐めに加担したのか気になったリリアンは、この状況に戸惑いながらも訊いた。

「だって大切な友人の頼みですもの。自分を犠牲にしてまで助けたいわ。でも、虐めは良くないから次からは助けないわ」

 リリアンは知らなかったが、実はいつもアトレたちに菓子折りを持って謝りに行っていたのがこの二人であった。

 でも、いくら頭を下げても二人を許してくれるアトレに、いつの間にか惚れてしまい、アトレを推すようになっていた。

 結局、今日のお昼は二人のマシンガントークで時間が終わった。


 一方、ボルドー男爵の件は、寮に戻った後フランソワーズに直接訊いた。もしかしたら、酷く落ち込んでしまうかもしれない。

 しかし、フランソワーズの反応はあっさりしたものだった。

「ああそれ、ウチの糞ジイさんのことね。あの人、頭が硬いの。わたしも正直嫌い。でも今はお父様が当主を務めているし、お兄様とお父様が謝罪の行脚をしたから、今ではさほど評判も悪くないよ。リリアンはどうして急に気になったの?」

 リリアンはクルーエのことを言葉を濁して伝えた。

 それを聞いて、フランソワーズは納得したかのように言う。

「一部の頭のかたーい人たちはそう言うかもね。これもしょうがないこと。旧貴族の末路みたいなものね。でもリリアンはこうなっちゃダメだよ」

 椅子に座って足をぶらぶらさせている彼女は、何も気に留めていない様子で、あっけらかんとしていた。

 きっと今は旧貴族としてのフランソワーズではなく、ただの友達として言ってくれているのだろう。

 そのことがリリアンは何よりも嬉しかった。


 アデリーナとフランソワーズ。

 二人と本当の友達になれた気がして。

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