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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第四章 剣と家族編
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【4−4】さよならはエモーション

 「おかえり、ラスカ」

 この言葉を聞いた瞬間、ラスカの頭の中で、幼少期の記憶が間欠泉のように湧き出した。


 毎日仕事詰めの両親。まだ幼いながらも、ラスカと弟、妹を世話してくれた、たった一人の姉。

 最期に自分を逃がしてくれた優しかった姉——ユリイカ・オリエイル。

 そして目の前にいる彼女の名前はユリイカ。髪色も、記憶の中の姉と同じだ。

「……姉さん?」

 ラスカの口から自然と言葉が溢れた。

「そうだよ。私はユリイカ・オリエイル。ラスカ、ずっと会いたかった」

 ラスカの身体が、流されるように動き出す。

 そして、ユリイカに抱きついた。

「姉さん……会いたかった! 俺も、ずっと、ずっと! 会いたかった!」

「おかえり、ラスカ。……大きくなったね」

 ラスカよりも小さなユリイカの体。成長したラスカには、もう大きな姉の姿は見えない。

 でも目の前にいるのは懐かしい姉の姿。

 昔と変わらない姉に、ラスカの目からブワッと涙が溢れた。

「ああ。ただいま! 姉さん」

 ユリイカの髪型が昔と変わっていて、ラスカは言われるまで気付かなかった。

 でも、ユリイカは初めからラスカに気付いていたかもしれない。

 そう考えると、彼女はやはり、昔と変わらない姉だった。

「姉さん、他の兄弟たちはどうなったんだ?」

 涙を拭って、ラスカは尋ねた。

 でもユリイカは俯いて寂しそうな顔で話した。

「みんな死んだよ。オーレルも、ユアンも、レアも……」

「そうか……」

「でも君だけは生きてくれた。だからこうして会えている。それだけで十分嬉しいことだよ」


 ユリイカが十二歳の時、ラスカがまだ八歳になってまもない頃、ラスカ一家は心中を図った。

 でも臆病だったラスカは、川に飛び込めずにいた。

 そんな時、ユリイカがラスカに言ってくれた言葉に、ラスカは支えられていた。


——逃げたくなったら逃げていい。でも、いつかは逃げたものが追いつく。その時になったら生きて越えればいいと思う。だから、ラスカは逃げていいんだよ。


 またねと言って、母を追ってユリイカは川に飛び込んだ。

 それを追うように、弟たちも飛び込む。

 けれど、ラスカは思い切って逃げた。

 そこから数日間逃げる間におばさんに助けてもらい、そこで養ってもらっていた。

 

 ユリイカは死ぬのが怖かった。ラスカに向けたあの言葉、は自分を慰めるものでもあった。

 そうして、必死に踠き、流されながら、やっとの思いで弟と妹と共に岸に上がった。

 でも、その時には、弟たちは息を引き取っていた。

 濡れた身体を引きずって凍えている時に、プラトーに救ってもらった。

 その頃から、自分はプラトーの娘として生活を始めた。

 境遇は違えど、実は同じ「別の大人の元で別の人生を紡ぐ」ことをしていた二人だった。


「そろそろ行かないと。……ありがとう、姉さん」

「ねえラスカ! もしよかったら一緒に……。いやなんでもない」

 ユリイカは一瞬躊躇い、言葉を飲み込んだ。

 今から言うことは、今のラスカには必要のないこと。

 大きくなった弟に言うべきではないと、自分の胸の奥に、そっとしまい込んだ。


「アトレちゃん、弟をよろしくね」

「こちらこそ。私の方こそ、いつも助けてもらっているので」

「ラスカー? アトレちゃんに迷惑かけんなよー。あと、女の子には優しくだぞー」

「うっさいなー。迷惑かけてねーよ」

 ユリイカは頑張って背伸びをすると、ラスカの頭をぽん、と撫でた。


「またね。ラスカ」


「ああ。またどこかで」


 笑顔でそう言って、ラスカはアトレ達と歩き出した。

 

* * *


 なにもない草原に看板が一つ。

 手前にはエーベル。向かいには次の地方、「エスト地方」が書かれている。

「ここら辺がエーベルとエストの境目ね」

「長かったな」

「ここからルミネお嬢様のいる街まで半月もかからないでしょう」

「ではいきましょ。せーのっ!」

 アトレ達は手を繋ぎ、ジャンプして看板の横を飛び越えた。

 境目をジャンプするのはどの国でも同じなようだ。

「ここがエスト地方ね……」

「さっきと何も変わってないだろ」

「ではお嬢様、先に進みましょう。次の街は遠いですからね」

 アトレは新しくなった銀色の剣を握って歩き出した。


エーベル編 終わり


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