【4−2】どうしてぇぇぇぇぇぇ!!!!
「おうバル! 久しぶりじゃないか!」
「お久しぶりです、プラトー」
巨漢、スキンヘッド、頭にタオルを巻いているこの男こそ、バルの古い友人——プラトー・セントレイである。
そしてバルのショットガンを作ったのもこの男だ。
工房の中には今までに作った作品であろう、剣や銃が大量に置かれている。
「こっ、こんにちはっ!」
アトレは巨漢のプラトーに圧倒され、萎縮しながらペコペコ頭を下げた。
「おうこんにちは。で、こいつが今回の依頼主で、例のお嬢様か。どれ、ブツを見せてみろ」
「ええ、この剣よ。……どうしても直して欲しいの」
アトレは柄と根本からポッキリ折れた剣を渡した。
それを見たプラトーは頭を悩ませていた。
正直、修理するより新しいものを買った方がいいと思っているのだろう。
それでも、アトレはどうしても直して欲しかった。
この剣はただの剣ではなく、アトレの子供の頃からずっと一緒にいる「家族」だからだ。
「いやぁ……新しいのを買った方がいいと思うが」
「それでも直して欲しいの。だってこの子は私の『家族』だから」
アトレは真剣な眼差しで訴えた。
その気迫に、プラトーは一瞬言葉を失う。
「プラトー、そこを何とかしてもらえませんか?」
「ええい! 友人の頼みとならしょうがない。ユリイカ! ユリイカー!」
プラトーが叫ぶと家の奥から「はいはーい」と快活で明るい声が返ってくる。
そして引き戸が開くと、そこから頭に赤いレンズのゴーグルをつけた、小麦色のショートパーマの若い女性が出てきた。
おそらく、彼女がプラトーの娘——ユリイカ・セントレイなのだろう。
「親父なに? うち、まだ眠いんだけど……」
「このお嬢さんの剣を作ってやるんだ。ほらこれ」
プラトーは柄だけの剣をユリイカに手渡した。
「うっわ、ポッキリいかれてるじゃん。これなら新しいの買った方がいいよ」
「俺もそう思うんだが、このお嬢さんがどうしてもっていうんでい」
アトレはムスっとした表情でユリイカを見つめた。
「ああ何となくわかったよ……。剣士あるあるだね。今、石があるか見てくるから」
「ありがとうございます!」
ユリイカは剣を持ったまま、別の部屋に戻っていった。この感じ、きっと依頼を承諾してくれたのだろう。
「ところで、プラトーに子供っていましたっけ?」
「あの子は、まあ……拾い子だな。路頭に迷ってたところを連れてきたんだ」
どうりで親子にしては顔が似ていないわけだ。
アトレがそんなことを考えていると、家の奥から大きな声が聞こえてきた。
「どおしてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「どうしたユリイカ!」
ドンという大きな音とともにドアが開くと、ユリイカが空の桶を見せながら入ってきた。
「青い鉱石がなぁい! 今になってどこにもないの! あんなにあったのに……。これじゃあ鍛造ができないよぉ」
するとプラトーは腕を組んで、顰めっ面になって悩み出した。
しばらく悩んだ後、何か思いついたかのように口を開いた。
「ユリイカ! この坊主とお嬢さんを連れて石を取ってこい。二人も、取ってきてくれたら料金は無しにしてやるから」
「了解っ! ささ、どこまでも君を連れて行くよっ!」
ユリイカはアトレとラスカの手を引くと、そのまま家の外に引き摺り出していった。
「なんで私までぇ〜!」
アトレの断末魔だけが家の外から中に響いた。
* * *
工房から歩いて数十分。
アトレとラスカは、山の麓の石だらけの崖にある小さな洞窟に連れて行かれた。
二人ともツルハシを持たされているが、肝心のユリイカだけ持っていない。
「うちの仕事はここまで。ここから先は入れないから」
「どうしてだ? 普通こういう所は、中の構造がわかっている奴が先導するだろ」
「いやぁ……うちさ、自衛手段の魔法とか剣とか扱えないから……」
ユリイカは決まりが悪そうに、頭を掻いて苦笑した。
そのまま何か思い出したのか、自分のポケットを探し回り、一切れの紙をアトレに手渡した。
よく見たら、筆で洞窟内部の構造らしいものが描かれている。
「その地図ね、親父が描いたこの鉱山の構内図。採ってきて欲しいのは最奥にある青い鉱石。できればこの桶いっぱいに入れてきて欲しいの」
ユリイカはラスカにさっきの桶を渡した。
腕で輪を作ったより一回り小さい程度の、そこそこ大きな桶だった。
「てなわけで、よろしくぅ!」
ユリイカは手を振って、鉱山に入っていく二人を見送った。
* * *
真っ暗な鉱山の中、流石に灯りがないと見えないので、ラスカが魔法で松明を作った。
探索は拍子抜けするほど順調だった。
特に魔物が出るわけでもなく、二人は地図通り最深部へと進んでいく。
「そういえばラスカさぁ、さっき工房にいた時あんまり喋らなかったわよね? 何かあったの?」
「何でもないんだが、あのユリイカって人、どっかで見たことがある気がするんだよな」
「気のせいじゃない?」
そんな会話を交わしていたその時。
「ゴゴゴゴッ!」
突然、轟音と共に目の前の天井が崩落した。
しかも落ちてきた巨大な落石は、まるで意識を持っているかのようにゴソゴソ動き出した。
「なになに!? ま、魔物!?」
アトレはビクビク怯えながら、ラスカの背後で縮こまって隠れた。
そんなアトレを見て、ラスカは呆れながら言った。
「竜を倒した剣士が魔物ごときで怯えんなよ」
「魔物は竜と比べるとちっちゃいから怖いのよ!」
岩に擬態した魔物たちは、隙間からひょっこりカニのような赤い顔を出して、カニのような足で歩き出した。
彼らはイワヤドカリという魔物で、よく岩を掘ってそれを棲家にする。
見た目はただの巨大なヤドカリだ。
「ちょ、ちょっと! 早く倒しなさいよ!」
「倒せばいいんだろ、全くもう」
ラスカは魔法を詠唱して水の針をイワヤドカリの上に落とした。
しかし、水はヤドカリの岩に完璧に防がれた。
焦ったラスカはイワヤドカリに雷を落とした。
それも効果がないように、ヤドカリ達はアトレとラスカの元にジワジワ近づいてくる。
「魔法が効かないわけじゃないんだが……。アトレ、アイツらの殻を壊してくれないか?」
「いやだよぉ……。怖くて近づけないわ……」
まだ怯えているアトレは、今にも泣き出しそうだった。
巨大な竜には怖がらなかったのに、どうしてヤドカリ如きでこんなにも怯えるのか……。本当に意味がわからない。
このまま埒が開かないと思ったラスカは、アトレを煽ることにした。
「ならお前ののんびり旅もここで終わりだな。『剣と心が折れて帰ってきました』って親に言うのか?」
「うぅ……そ、そんなわけないでしょ! そんなに言うなら、やってやるわよ。見てなさい」
アトレの表情がピシッと変わった。
アトレはツルハシ片手に、ズカズカ歩いていく。
(やっと乗ってくれたか)
「採掘開始ね」
アトレはツルハシを肩に担いで言った。




