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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第三章 久遠のライバル編
32/78

【3−11】楽しいことはあっという間

 名探偵? アトレの推理によって事件解決から数日、ロコモアの女神祭が改めて無事に開催された。

 初めてこの街に訪れた時よりも賑わいを見せ、三人は祭りを楽しんだ。

 後日聞いた話によると、ナディアはロッカーに閉じ込められて眠らされていたらしい。アトレが部屋に戻った時、バルがすやすや寝ていたのも、同じ手口なのだろう。

 きっとクルーエの仕業だ。


 肝心な彼は、事件の翌日、リリアンの手により処刑された。

 しかし、この事実を知る者は、ロコモアでもアトレたちと、一部の情報屋だけだった。

 しかもこの情報は、公にすると処刑されるため、誰も買ったり売ったりなどしなかった。


* * *


「それでは改めて、俺たちの祝勝会をしようではないか! 乾杯!」

 情報屋のボスの軽快な掛け声と同時に、みんなが一斉に乾杯と言う。

 日が沈み、月が出てきて星が目を覚ます頃、いつもの食堂で祝勝会が開かれた。

 大きなテーブルには揚げ物などが沢山盛られている。それをみんなで囲んでつつく形式だ。

 もちろん、アトレとってはこの体験が初めてであった。

「今夜は俺の奢りだ! さあお前ら! どんどん飲め!」

 酒を片手にボスは大声で叫ぶ。よく通る声だ。

 元々この会は討伐の当日に行われるはずだったが、アトレたちが伯爵に拉致されたため、こうして今日まで延期になった。

「僕までいいんですかぁ?」

「ええ、アーク様は一番の功労者でもありますから」

 大きなテーブルの端でバルとアークは談笑する。この中でも一番の常識人組だ。

 その隣と、お誕生日席にはラスカ、ボス、グザヴィエが座った。

「おいラスカ、あの店員さん、めっちゃ美人じゃないか? あの尻、たまんねぇな」

「ボスはわかってないなぁ。あの人は胸のバランスがいいんだよ」

「ボス、この場で猥談は控えてくださいよ。あとラスカさんも」

 三人はコソコソと男の会話を楽しんでいた。

「ん〜! これも美味しい! あっエビフライも〜らいっ」

「ちょっと! それはボクのエビフライだぞ!」

「あっすいません、ビール一つ」

「かしこまりました。失礼ですがお客様、店内は禁煙でございます……」

「おっと」

 グザヴィエから順に店員を困らせているのは、いつも無表情のナディア、その隣にリリアン、そして誕生日席にいるのがアトレだ。

 リリアンとナディアは、貴族だと一般客に気付かれないよう、どこにでもある質素な普通の服を着て来ていた。

「ところでアトレ、君はいつ出発するんだい?」

「明日あたりには出ようかなって思ってるわ。この街には長居しすぎたからね」

 当初の予定では三日くらいの滞在を目安にしていた。だが事件続きで、長期滞在を余儀なくされていた。

 それに、アトレの剣はまだ折れたままなので、一刻も早く直したい所存だ。

「そうか……もう行ってしまうんだね。寂しくなるよ」

 リリアンは口をへの字に曲げて、寂しそうに言った。

 そんなリリアンを見て、アトレは両手でリリアンの頬を挟み、フグのようにしながら話した。

「私のこと散々虐めておいて寂しくなるなんて、そんなに私のことが恋しいの?」

「そ、そんなわけない! 君がいなくて清々するよ!……でも少しだけ、学校が寂しくなるな」

「今の学校にはあなたが必要。私の知らない人が首席なのは、ごめんだわ」

 アトレはコップのジュースを一口飲んでから言った。

「だから、早く勝ちに来なさいよ。リリアン」

「……! うん!」

 リリアンはジュースの入ったコップを持ちながら、笑顔で頷いた。

(やっぱり、ボクは君に勝てないよ。アトレ)


 祝勝会は、ボスが酔い潰れることで幕を閉じた。

 どうやら酒の飲み比べでナディアに喧嘩を売ったらしく、ボコボコにされて決着がついた。

 ナディアは酒を十三杯近く飲んでいたが、それでも物足りないのか、はたまた酒に鬼強いのか、終始スンとした表情だった。

 そしてみんなが解散し、アトレは出発の準備を済ませ、就寝した。


* * *


 出発の日。ボスを除いた全員が、見送りに来てくれていた。

「本当に行くのかい」

「そうね、決めたことだから」

 朝から見送りに来てくれているリリアンが、何か言いたそうな顔をしていたことにアトレは気付いた。

「その……ボクも旅に出てみたいなぁって思っちゃって……。正直、この生活から逃げたいんだ。だ、だから、ボクも君の旅に連れて行ってくれないかな……」

 モジモジしながら指を弄り、リリアンは言った。

「あなたはダメ。まだやるべきことがたくさんあるでしょ」

 リリアンは「うぐっ」と鳴くと、体をぐったりさせて落ち込んだ。

 普段から見える頭頂部が、今はもっと見える。

「だから、一位を守り抜いてから来なさいね。リリアンならできると信じてるわ。だって、私のライバルなんだもん」

 アトレは優しく、笑顔でそっと告げた。


「あとこれ、ラビナに渡しておいてくれないかしら」

 紅色の蝋で封をされた白い封筒を、リリアンに手渡す。

「ラビナって、いつも君の隣にいる茶髪の女の子だよね。言われた通り渡しておくよ」

 リリアンが手紙を受け取ると、アトレを呼ぶ声が聞こえた。

 もう出発の時間だ。

「じゃあね、リリアン」

 アトレはリリアンの手を両手でギュッと握って、仲間たちの元へ向かう。


 一週間という長いようで短かったこの街での思い出は、今まで生きてきた中で強烈なものばかりだ。

 だからこそ、ここで終わってはいけない。


 自分を探すため——<翠煌の魔女>に会って魔法を追い求めるために。


 アトレは前を向いて歩いた。

 過去に縛られない人生はこれからだ。

 その背中に向かって、リリアンは目に涙を浮かべて大きく手を振る。


 自分を変えた、自分を救った、自分が勝ちたい「他人ライバル」に向かって。


「じゃあねーアトレー! ボクはまだー! 負けてないからなー!」

「六十七対二!」

 背中越しに返された言葉に、リリアンは思わず言葉を詰まらせる。

「私は勝ち逃げするからー!」

 アトレは振り返らず、そのまま遠くに歩いていく。

 リリアンは彼女たちの背中が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。

酒の強さ

ナディア<<ボス<グザヴィエ<バル=アーク<<リリアン(間違って舐めたらひどく酔った)

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