【3−11】楽しいことはあっという間
名探偵? アトレの推理によって事件解決から数日、ロコモアの女神祭が改めて無事に開催された。
初めてこの街に訪れた時よりも賑わいを見せ、三人は祭りを楽しんだ。
後日聞いた話によると、ナディアはロッカーに閉じ込められて眠らされていたらしい。アトレが部屋に戻った時、バルがすやすや寝ていたのも、同じ手口なのだろう。
きっとクルーエの仕業だ。
肝心な彼は、事件の翌日、リリアンの手により処刑された。
しかし、この事実を知る者は、ロコモアでもアトレたちと、一部の情報屋だけだった。
しかもこの情報は、公にすると処刑されるため、誰も買ったり売ったりなどしなかった。
* * *
「それでは改めて、俺たちの祝勝会をしようではないか! 乾杯!」
情報屋のボスの軽快な掛け声と同時に、みんなが一斉に乾杯と言う。
日が沈み、月が出てきて星が目を覚ます頃、いつもの食堂で祝勝会が開かれた。
大きなテーブルには揚げ物などが沢山盛られている。それをみんなで囲んでつつく形式だ。
もちろん、アトレとってはこの体験が初めてであった。
「今夜は俺の奢りだ! さあお前ら! どんどん飲め!」
酒を片手にボスは大声で叫ぶ。よく通る声だ。
元々この会は討伐の当日に行われるはずだったが、アトレたちが伯爵に拉致されたため、こうして今日まで延期になった。
「僕までいいんですかぁ?」
「ええ、アーク様は一番の功労者でもありますから」
大きなテーブルの端でバルとアークは談笑する。この中でも一番の常識人組だ。
その隣と、お誕生日席にはラスカ、ボス、グザヴィエが座った。
「おいラスカ、あの店員さん、めっちゃ美人じゃないか? あの尻、たまんねぇな」
「ボスはわかってないなぁ。あの人は胸のバランスがいいんだよ」
「ボス、この場で猥談は控えてくださいよ。あとラスカさんも」
三人はコソコソと男の会話を楽しんでいた。
「ん〜! これも美味しい! あっエビフライも〜らいっ」
「ちょっと! それはボクのエビフライだぞ!」
「あっすいません、ビール一つ」
「かしこまりました。失礼ですがお客様、店内は禁煙でございます……」
「おっと」
グザヴィエから順に店員を困らせているのは、いつも無表情のナディア、その隣にリリアン、そして誕生日席にいるのがアトレだ。
リリアンとナディアは、貴族だと一般客に気付かれないよう、どこにでもある質素な普通の服を着て来ていた。
「ところでアトレ、君はいつ出発するんだい?」
「明日あたりには出ようかなって思ってるわ。この街には長居しすぎたからね」
当初の予定では三日くらいの滞在を目安にしていた。だが事件続きで、長期滞在を余儀なくされていた。
それに、アトレの剣はまだ折れたままなので、一刻も早く直したい所存だ。
「そうか……もう行ってしまうんだね。寂しくなるよ」
リリアンは口をへの字に曲げて、寂しそうに言った。
そんなリリアンを見て、アトレは両手でリリアンの頬を挟み、フグのようにしながら話した。
「私のこと散々虐めておいて寂しくなるなんて、そんなに私のことが恋しいの?」
「そ、そんなわけない! 君がいなくて清々するよ!……でも少しだけ、学校が寂しくなるな」
「今の学校にはあなたが必要。私の知らない人が首席なのは、ごめんだわ」
アトレはコップのジュースを一口飲んでから言った。
「だから、早く勝ちに来なさいよ。リリアン」
「……! うん!」
リリアンはジュースの入ったコップを持ちながら、笑顔で頷いた。
(やっぱり、ボクは君に勝てないよ。アトレ)
祝勝会は、ボスが酔い潰れることで幕を閉じた。
どうやら酒の飲み比べでナディアに喧嘩を売ったらしく、ボコボコにされて決着がついた。
ナディアは酒を十三杯近く飲んでいたが、それでも物足りないのか、はたまた酒に鬼強いのか、終始スンとした表情だった。
そしてみんなが解散し、アトレは出発の準備を済ませ、就寝した。
* * *
出発の日。ボスを除いた全員が、見送りに来てくれていた。
「本当に行くのかい」
「そうね、決めたことだから」
朝から見送りに来てくれているリリアンが、何か言いたそうな顔をしていたことにアトレは気付いた。
「その……ボクも旅に出てみたいなぁって思っちゃって……。正直、この生活から逃げたいんだ。だ、だから、ボクも君の旅に連れて行ってくれないかな……」
モジモジしながら指を弄り、リリアンは言った。
「あなたはダメ。まだやるべきことがたくさんあるでしょ」
リリアンは「うぐっ」と鳴くと、体をぐったりさせて落ち込んだ。
普段から見える頭頂部が、今はもっと見える。
「だから、一位を守り抜いてから来なさいね。リリアンならできると信じてるわ。だって、私のライバルなんだもん」
アトレは優しく、笑顔でそっと告げた。
「あとこれ、ラビナに渡しておいてくれないかしら」
紅色の蝋で封をされた白い封筒を、リリアンに手渡す。
「ラビナって、いつも君の隣にいる茶髪の女の子だよね。言われた通り渡しておくよ」
リリアンが手紙を受け取ると、アトレを呼ぶ声が聞こえた。
もう出発の時間だ。
「じゃあね、リリアン」
アトレはリリアンの手を両手でギュッと握って、仲間たちの元へ向かう。
一週間という長いようで短かったこの街での思い出は、今まで生きてきた中で強烈なものばかりだ。
だからこそ、ここで終わってはいけない。
自分を探すため——<翠煌の魔女>に会って魔法を追い求めるために。
アトレは前を向いて歩いた。
過去に縛られない人生はこれからだ。
その背中に向かって、リリアンは目に涙を浮かべて大きく手を振る。
自分を変えた、自分を救った、自分が勝ちたい「他人」に向かって。
「じゃあねーアトレー! ボクはまだー! 負けてないからなー!」
「六十七対二!」
背中越しに返された言葉に、リリアンは思わず言葉を詰まらせる。
「私は勝ち逃げするからー!」
アトレは振り返らず、そのまま遠くに歩いていく。
リリアンは彼女たちの背中が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
酒の強さ
ナディア<<ボス<グザヴィエ<バル=アーク<<リリアン(間違って舐めたらひどく酔った)




