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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第三章 久遠のライバル編
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【3−8】私は守りたかった

 戴冠式の翌日、ロコモアに一台の黒い馬車が到着した。

 その馬車を見るや否や、町の住人、屋敷の人々は涙を流した。

 戴冠式で掲げられるはずだったシャリエール家の旗は、半旗になって掲げられた。

 黒い馬車が屋敷に到着すると、リリアンはまだ治りきっていない身体で走り寄った。

(嘘だと言って! 嘘だと言って! 嘘だと言って! 嘘だと言ってよ!)

 馬車の扉を勢いよく開けると、リリアンはこの世で一番、目にしたくなかったものを見た。

 簡素な、大小の異なる桐の棺が三つ。

 それを目にした時、悲しみという感情すら出てこなかった。

 リリアンは意識せずに、棺の蓋を開けた。大人と子供の遺体が三つ。

 リリアンは意識せずに、彼らの胸に手をかざし回復魔法を使った。しかし、変わり果てた身体は、うんともすんとも言わない。

 魔力が足りない。そう思い込み、自分の全てを賭けて回復魔法を使った。

 それでも、見知った顔は沈黙を貫いた。

「いやだ…………いやだっ……いやだよ!」

 何度も無茶をするリリアンを抑えたのは、同じくボロボロのクルーエだった。彼もまた、事故の被害者でもあり唯一の生存者でもあった。

「リリアンお嬢様! おやめ下さい!」

 脇を抱えられ、持ち上げられても、リリアンは泣き叫びながら詠唱を続けた。

 それでも棺の中の人物が動くことはなかった。

 ナディアに抱き抱えられた後も、声を出して泣いた。

「私を置いていかないで…………」

 ナディアの胸元の布を掴み、リリアンは嗚咽した。


 それからしばらくして、リリアンは爵位を継承した。

 それは公の場で行われたものではなく、伯爵家の関係者だけで執り行われた。


——皇帝の名の下に、リリアン・シャリエールにシャリエール伯爵卿の爵位を与える。


(私……いやボクは、この家を守らなくちゃいけないんだ)

 それからだろう。リリアンの性格が大きく変わったのは。


* * *


 ベッドの縁に寝巻き姿で座るアトレは、パンと手を鳴らした。

「とりあえず今ある情報をまとめたいの。ラスカ、昨日のこと教えてくれる?」

「いいぜ。さっき、アトレはフグを盛られたって教えたよな。そのフグ、ゴミ箱の中に潰されて捨てられていたんだ。俺はその時、クルーエさんと一緒に探したんだ」

「そのフグはどちらに行かれたのですか?」

「彼に渡したぞ。なんか証拠品としてこっちで調べるとか言ってたな」

 ラスカによると、フグは合計三匹見つかったらしい。それも同じゴミ箱ではなく別の場所から見つかっている。

 その辺はクルーエが後で教えてくれた。

「あと、余談だが海産物を自由に仕入れられるのは伯爵とクルーエさん、そして一部の料理人だけらしい」

「そうなるとやっぱりあの子が怪しくなるわね……。クルーエさんと料理人は私を殺す動機がない」

「そうですね。この屋敷の中で中立の立場はナディア様だけになりますか」

 アトレは頭を抱えた。

 リリアンが治療に来た理由は何なのか。アトレに恩を売るため? それともただ単純に苦しむ姿を見たいだけ?

 動機と治療したことの矛盾が頭に駆け巡った。病明けのアトレの頭には処理が追いつかない。

「うーん……だめだわ。何も思いつかないよぉ」

「なんでそこまでして伯爵を守りたいんだ?」

「絶対にあの子では無いって心の中ではわかっているのに、どうしても容疑が晴れない。なんかこういうのってワクワクするでしょ。あと普通に勝ちたい、ただそれだけかな」

 アトレは内心、リリアンをライバルと認めていた。だからこそ、自分自身と、彼女に勝ちたかった。

 そこで、アトレは少し一人で考えたかった。そんな時に使える簡単で最も効果的で便利な言葉、「トイレに行ってくる」をアトレは使った。

 それに、普通にトイレにも行きたかった。

「ちょっと、お花摘みに行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」


 アトレはドアを開けた。久しぶりに部屋の外に出たが、どこからかタバコの匂いがした。

 アトレが匂いの方を振り返ると、メイド服の女性が壁に寄りかかり、本を読みながらタバコを吸っている。

「こんにちは、その……トイレはどこかしら?」

「こんにちはお客様。トイレはあちらの奥にあります」

 ナディアはアトレのことを見向きもせず、本を読みながらタバコで奥を指差した。

 数分後、何の成果も得られないまま部屋へ戻った。

 それからして、昼食が運ばれた。まだアトレの料理はなかった。そのままアトレは何もせず、ただ寝るだけ寝て夜になった。


* * *


 明かりのついた部屋、窓からは雨のような満天の星空が見える。

 三人のいる部屋に、誰かがノックをした。ナディアのノックではなく、丁寧な男性らしい音がした。

「こんばんは、お客様。夕食をお持ちいたしました」

 声の主はクルーエであった。

「ええどうぞ。お入りください」

「ありがとうございます。実は先ほど、ナディアが体調を崩してしまい食事を作れなくなってしまいました。ですので今回は私が作らせていただきました」

 膳をテーブルに置くと、クルーエは忙しそうに部屋を後にした。

「ではこれで私は失礼させていただきます」

 豪華ではないが質素でもない料理が三つ、透明な水が三杯。今回からアトレの食事もあるだろう。

 だが、アトレにはそれが気がかりであった。

(私はまだ食事制限がかかっているはず。それにそのことはナディアさんがクルーエさんに伝えているはずだわ。でも昼間元気だったナディアさんが急に体調を崩している。何かがおかしい……)

 アトレは頭の中で情報を整理しだした。竜災の時に来た馬車、ナディアさんから聞いたリリアンの過去、そしてナディアさんの突然の体調不良。

(これら全てに関わっている人がいる……。もしそうだとしたら…………そうだわ。全ての辻褄が合う! なら……)

「……あの子が危ない!!」

 アトレは急に叫ぶと、走って部屋を出た。

「おい! ちょっと待てって! ……あの子って多分『うんこ』のことだよな。先に食べてようぜ」

 ラスカはそのまま持ってきてもらった料理をバルと食べ始めた。きっと、アトレが戻ってくると信じて。


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