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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第三章 久遠のライバル編
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【3−3】エマニュエリ嬢毒殺事件

 テーブルには、一人ずつコース料理が並べられていた。

 見たこともない魚の美味しそうな海鮮料理、この街で作られたであろうパンがそれぞれ別々の皿に盛り付けられていた。

 だが、ロコモアは内陸の都市だ。汐風なんて吹いてすらいない。

 話によると、シャリエール伯爵の側近であるクルーエの出身地が海沿いの街なんだとか。彼の人脈でこの屋敷に運びこまれているらしい。

 そして各々が席に着くと、ワイングラスにジュースが注がれた。バル以外未成年だからワインは避けられていた。

 全員同じブドウジュースで、先日、アトレが暇つぶしで飲んでいた物と同じ銘柄だった。これも豪華なもので、一人一本ずつ開けられた。

 今の所の席順はこうだ。

 「誕生日席」にリリアン、その右前にラスカ、向かって左にバル、バルの隣で、リリアンから離れた位置に座っているのがアトレだ。

 全ての準備が終わり、食事会が始まろうとした時、リリアンが何やら提案してきた。

「こほん。この中で一番貴いのはボクではない。公爵嬢である君、アトレだ」

 突然指で指されて、部屋のメイド含めた全員の注目が集まったアトレは思わず慌てふためいた。

 だって、公爵嬢と言われても自分は旧貴族。現時点で伯爵の爵位を持つリリアンの方が、どう考えても立場は上である。

 だけど、ここで何か言っても面倒だし埒が開かなそうだから、黙って話を聞くことにした。

「一番貴い者、そして一番の功労者が『誕生日席』に座るべきだ。ボクはキミのいる場所に行こう。そのほうが君にとってもいいだろう」

 彼女自身も、顔見知りではない男二人に囲まれて、堂々と食事をするのは気まずいのだろう。アトレはそう思って素直に席を交換した。

 幸い、注がれた飲み物も用意されている料理も全員同じだったので、人の移動だけで済んだ。

 アトレは、「わあ、なんて素敵な席なんだろう。景色が最高だわ」とは一切も思わなかった。むしろ、「わあ、なんであの子の顔が余計に見える席なんだろう」と思っていた。

 だが、それを口にすると場の空気が悪くなるし、バルに怒られそうだからやめておいた。

 代わりに素敵な笑顔でリリアンに「ありがとう」と言ってあげた。

「さあ、盃を掲げよ。ここに君たちの勝利を祝って、乾杯!」

 アトレとバルは笑顔で乾杯と言うと、胸の高さまでグラスを掲げた。

 一方、ラスカは貴族のやり方に慣れていないから、不思議そうな顔でグラスを上げた。最初こそ、グラス同士を当てようとしていたが誰も合わせてくれなかった。

 みんな薄々そうなるだろうな、と思っていたが伝えることを忘れてしまい、一人だけ場違いな雰囲気になっていた。

 その光景を横目にアトレは、ジュースを一口飲み込んだ。

 あの時の甘酸っぱさとは違い、少し舌がヒリヒリする。でも味はあまり変わっていない気がして、スッキリとした爽やかさが続く。

(もしかしたら、これがあの子の好みなのかも。変わってるわ)

 変わった味のブドウジュースは一旦置いといて、次は前菜に手を伸ばした。四角くて、なんとも可愛らしい見た目をしている。

 少し酸味のある葉野菜のオードブルは、目の前に置いてある海鮮料理のために味付けされているのだろう。

 シャキシャキとした食感がクセになりそうだ。

 少しだけチラッと横を見ると、案の定ラスカが右手でフォークを持ち、今にも海鮮に手を出そうとしている。

「ラスカ、ストップ!!」

「んえ?」

 ギリギリのところでフォークが止まった。

「『んえ?』じゃないわよ。フォークは左手、ナイフは右手。ポワソンはオードブルの後の後!」

「バルさんそうなのか? てゆうかおーどぶる? ぽわそん? ってなんだ?」

 なぜかアトレは信用されていないようだ。

 困った時に一番頼りになるのは、やはりバルだ。

「お嬢様のおっしゃる通りでございます」

「ほら見たか」

 アトレはドヤ顔でラスカを見た。ここで見栄張ってどうする。

「オードブルは前菜でございます。まずはその野菜からお食べください。ポワソンは魚料理のことです。スープとパンの後に食べますよ」

 なんとも見事な答えに、ラスカはお〜っと関心した。

 だがそれに伴い次の疑問も生まれる。

「じゃあ、なんで魚が先に出てるんだ? パンは冷めないからいいけど、魚はダメだろ。湯気出てるし」

 美味しそうな湯気をたてた海鮮は、運ばれてきた中で最初にやってきた。

 コース料理を知らない人からすると、一番最初に食べるものと思ってもしょうがない。

 だが、ある事に勘づいて、アトレはラスカに小声で耳打ちする。

「多分、見栄を張りたいんでしょ。普通、こんな豪華な魚は最初に持ってこないし」

 プライドが高そうなリリアンなら、あり得ない話でもなかった。

 ふぅっと一息つき、アトレはワイングラスに口をつける。

 酸欠だろうか。軽い目眩がして、気を落ち着けようと飲み物を口に含んだ。

 だが、ジュースを飲むと寒気がしてきた。

(うぅ……寒い。湯冷め、したかも)

 完全に身体を拭けなかったことを思い出しながら、今しがた運ばれてきた温かいコーンスープに手を伸ばす。

 喉越しが良く、とっても濃厚でクリーミーだ。たまに口に入ってくるコーンの粒もまた、歯切れが良く甘くて美味しい。

 スープを飲んで、再びジュースを口に含んだ。

 温かいスープを飲んでいるはずなのに、寒気が止まらない。おまけに身震いもしてきた。

(あぁ、頭がぼんやりする……寒い。ちょっと、眠い、かも……)

 体の力がフッと抜けると、バタンと大きな音を立ててアトレは机の上に倒れた。

 手の力が抜け、持っていたスプーンを床に落ち、飲みかけのスープがテーブルに広がる

 その衝撃で、アトレのワイングラスは甲高い破裂音を立てて粉々に砕けた。

 意識が飛ぶ寸前、ほんの少しだけリリアンの白い歯が見えた。

 やがて、誰の声も聞こえなくなり、目の前が真っ暗になった。


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