【12−1】贅沢な朝の過ごし方
鳥のさえずりと香ばしいトースターの匂い。
眩しい朝日で眠りから目覚めたアトレは、布団から起き上がり背筋を伸ばして大きく欠伸をした。
まだ眠たい目を擦り、布団から出ると洗面台で顔を洗う。
鏡越しに映った寝癖がついた自分の淡い水色の髪を櫛でとかし、耳に金剛石のピアスをつけた。
これで準備完了! と思ったアトレは前髪を整えてからいい匂いのするキッチンへ向かう。
「おはようございます、リトナードさん」
水色のエプロンをつけて料理をしているリトナードに声をかける。
リトナードは料理をする手を止めずに、頭だけアトレの方に向けて笑顔で返した。
「おはよう、アトレ。パンを焼いて置いたから食べていいよ」
「ありがとうございます! うわぁ……美味しそう……」
こんがりと焼き目がついた食パンに、蜂蜜の瓶が近くに置かれている。
焼きたてのパンからはほんのり湯気が出ていた。
アトレはよだれが出る前に椅子に座ると、黄金色の蜂蜜をハニーディッパーで掬い取りトーストにとろりと垂らした。
「いただきます! うへへ……」
気持ち悪い笑い方をしたアトレは出てきたよだれを引っ込めると、一気に蜂蜜付きのトーストにかぶりついた。
サクッという歯切れの良い音がした。
焼きたてのサクサクのパンにとろりとした甘い蜂蜜、口の中で広がる二つのデュエットにアトレの幸福度は最高潮に達していた。
お嬢様らしからぬ甘くとろけた顔で、幸せそうに今にも落ちそうな頬を抑えた。
「やっぱりアトレは紅茶の方がいいかしら?」
そう言ってリトナードはアトレの前に淹れたての紅茶と、胡椒がかかった目玉焼きを置いた。
「目玉焼きだ! うはぁ〜……最高……」
アトレはその辺にあったカトラリーケースからフォークを取り出し、目玉焼きを蜂蜜を塗ったパンに乗せた。
家でこの食べ方をすると絶対怒られるのだが、今だけは誰もアトレを止めやしない。
パンに目玉焼きを挟んでアトレは頬張った。
半熟の黄身は口の中でとろりと弾け、甘い黄身と蜂蜜がいい感じに混ざり合う。
アトレの口の中はもはや幸せが爆発していた。
こんなことをしてくれたなんでも至れり尽くせりのリトナードには頭が上がらない。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、じいや。……えっとぉ…………」
バルに挨拶したアトレはすぐに目を逸らす。
今のアトレはジャンキーな食べ方をしていて到底お嬢様とは思えない姿をしている。
はしたないと言われるのだろうか。しかしバルはそのことを言わなかった。
「とても幸せそうなお顔ですね。わたくしも同じように食べてもよろしいでしょうか?」
「アミュもやる!」
バルの横から元気そうな手が上がる。
朝から天真爛漫のアミュは朝日くらい眩しすぎる笑顔でアトレとパンを見ていた。
「じゃあ、みんなでやる?」
「やりたいやりたい!」
アミュはその場でぴょんぴょん飛び跳ねる。
そして彼女はアトレの隣にちょこんと座り、リトナードが焼くパンを待った。
「お待たせ〜」
リトナードは焼けたパンと目玉焼きを四つずつ持ってきて、バルとアミュの前、そして誕生日席とラスカが昨日座っていた席に並べた。
それから彼女も椅子に座ってトーストに黄金色の蜂蜜を垂らし、目玉焼きを乗せて頬張った。
同じようにしてバルとアミュも齧り付いた。
「おいしい!」
「思っていた以上に上品なお味ですね」
「やっぱりこの味よね。ワタシだって何十年も食べ続けてるけど、飽きないもの」
そう言ってリトナードはパンを頬張る。
彼女も彼女でアトレとはまた違った幸せそうな顔をしていた。
その時、何やらバタバタと忙しない音が聞こえてきた。
「やっべ、遅刻した?!」
「ギリ間に合ってるわよ」
片腕が服に入っていないラスカはアトレの一言にホッとして胸を撫で下ろした。
寝癖だらけの小麦色の髪は先ほど起きたみたいにぐちゃぐちゃだ。
「お前らなんかうまそうなの食ってんなぁ。俺も食べていいか?」
「ラスカ様。その前に顔を洗って髪を直してからにしてください」
「確かに……」
ラスカは袖に腕を通して洗面台の方に歩いていった。
そしてすぐに戻ってきてバルの隣に座った。
「いただきます。これって蜂蜜をかければいいのか?」
「そうそう。あと、目玉焼きものせてみ?」
「蜂蜜の上に目玉焼き? なんかすげぇうまそう!」
リトナードに言われたまま、ラスカはトーストの上に蜂蜜を垂らし、目玉焼きを挟んで大きく口を開けて食べる。
その瞬間、ラスカの目がキラキラと輝いた。
「うんま! 朝から贅沢しすぎだろ!」
ラスカはアトレよりも早く口の中にパンを放り込む。
その姿をアトレはなぜか微笑ましく見ていた。
「ん? 俺になんかついてるか?」
「いや何も? ただ、美味しそうに食べてるなって」
「俺にアトレ以上の食べ方はできないって」
「そりゃもちろんよ。私は何を食べても美味しそうに食べれちゃうんだから」
アトレは開いたパンの上に蜂蜜をいっぱい垂らして、元に戻してから大きく口を開けて頬張る。
「ん〜!」
赤く染まって今にも落ちてきそうな頬を抑えて、アトレは幸せそうに鳴いた。




