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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第十一章 旅の終点編
114/121

【11−4】答え合わせ

「さて、そろそろ本題に入ろうかしら。アトレ、君はワタシに助けを求めてエーベルからやって来たってことでいい?」


 さっきまで暗い顔で過去のことを話していたリトナードは、すっかり気持ちを切り替えてアトレに尋ねた。


「うん。助け、というか答えが知りたいの」

「答え? なら気兼ねなくワタシに教えて」


 最高峰の魔女である自分に答えを教えて欲しくて来たってことには、同じく何か暗い過去があると思ったのか、リトナードはアトレが話しやすいように気兼ねなくって言ってくれた。

 それがなんとなしにすごく言いやすかった。

 そしてアトレは、ずっと心の奥で溜まっていたことを打ち明けた。


「実は私、魔法が使えないの。それで学校を退学になって引きこもっていたらお父様が<翠煌の魔女>様なら教えてくれるって言ってくれたの。だから、どうして私が魔法を使えないのか、教えてくれませんか?」


 アトレはリトナードに頭を下げる。

 リトナードはアトレに謙って欲しくないのか、彼女の頭を軽く押さえて上に持ち上げさせた。


「頭を下げなくてもワタシは寛大だから教えてあげるわよ」


 リトナードがアトレの両手を包み込むように取った。

 彼女の手は、アトレのように柔らかくて温かい、まるで大人の手ではないような気がした。


「その答え、<翠煌の魔女>リトナード様が教えてあげる。ワタシの手を握って。そして、そっと目を閉じるのよ」


 アトレは言われるがままリトナードの手を握ってそっと目を閉じた。

 そして次の瞬間、身体中を何かが駆け巡るような感覚がアトレを通った。

 それはまるで、初めて魔法が使えたあの時のよう。


「目を開けて」


 そう言われてアトレは瞼を持ち上げる。

 リトナードはまだ手を握っていた。


「君の魔法、すごく綺麗だった」

「綺麗?」


 そういえば<影月の魔導師>も同じようなことを言っていた気がする。

 確か、「きみの魔法は美しい」……


「さて、答え合わせの時間よ。アトレ、準備はいい?」

「えっ? ああ、もちろんよ。すごく緊張するけど、どんな結末でも私はもう受け入れる準備はできてるわ」

「そう……」


 いつの間にかリトナードの手がアトレから離れていた。

 アトレは両手を膝に置き、リトナードの翡翠の目をじっくりみるように聞き入れる。


「君が魔法を使えない理由、それは——」


 アトレは固唾を飲む。


「アトレが持っている魔法、ヒカリエのせいよ」


「ヒカリエのせい?」


 アトレはポカンと口を開けて聞き返す。

 二つの意味で驚いていたのだ。

 まずアトレがヒカリエだけ使えたということをリトナードに言っていないこと、そしてそのヒカリエがアトレの問題だと言うことだ。

 その新たに生まれたアトレの疑問を、リトナードは補足するように教えてくれた。


「今言ったヒカリエはね、アトレしか使えない魔法よ」

「私しか使えない魔法?」

「そう。アトレは魔法、好き?」


 今の流れでどうしてアトレの好みの話になるのか。

 よくわからないがアトレが魔法が好きなことに変わりはないので、そのまま素直に答える。


「大好きよ。私にとっての魔法って、お姉ちゃんとの思い出だし何よりも——」


 アトレはラスカとアミュの顔を見た。

 二人の顔は笑っている。

 そしてバルも。アトレを見て微笑んでいる。

 アトレも三人に笑みを返すと、リトナードに言った。


「ラスカとアミュ、それにリュカも。大切な仲間に出会ったきっかけだもの。だから、魔法は大好きよ!」


 底抜けに明るい笑顔が飛び出た。

 魔法が使えないとわかっていても、アトレが魔法が好きなことに変わりはない。

 魔法が使えなかったからこそアトレはラスカに出会えたし、リュカとアミュ、それに他の地方での友達やライバルと仲直りもできた。

 それに世界を知ることができ、こうして今リトナードに会うことができた。

 だからこの体質も含めて、アトレは魔法が大好きだ。

 そんなアトレの想いが伝わったのか、リトナードは微笑みをアトレに返す。


「ならよかった。実はね、君のその感情が原因なのよ」

「私が魔法が好きっていう感情?」

「そう。ヒカリエは君から生まれた君にしか使えない魔法。君の魔法が好きだっていう感情がその魔法を作り出し、開花年齢になる前に身体が覚えてしまったから魔法が使えなくなったの」


 リトナードは補足するように、「いつかはわからないけど」と付け足す。

 しかしそのいつかはアトレはわかる。

 それは姉が初めて魔法を使えるようになった日だ。

 大好きな姉が初めて使った魔法はアトレに魔法への憧れと、好奇心からのとても綺麗だったという興奮を教えた。

 まだ自分が使える年齢じゃなくてもアトレは見様見真似でルミネと同じことをし、なんとなしにそれが自身も魔法を使っているような気持ちになって楽しかったのだ。

 しかしそれが原因だったらしい。

 現に宮廷魔法使いであるルミネと一緒に練習していると、アトレのやっていることは真似事ではなく、ほとんど魔法が使えないだけの魔法使いみたいなことになっていた。

 ルミネの使う様々な魔法を見て、覚えて、いつか自由に魔法を操る自分を想像してずっとその年齢になるのを待っていた。

 だからアトレの使うヒカリエは、アトレの想像通りに、やりたいことがなんでもできる、まるで「魔法のようになんでもできる魔法」になったのだ。


「だから君の魔法はなんでもできる。要するに、他の魔法を覚えなくても使える、みたいな風に覚えてしまって魔法が使えなくなったってわけ。すごく、アトレらしい理由でアトレらしい魔法だよね」


 話し終えたリトナードはなんだか嬉しそうな表情で紅茶を飲み干した。

 アトレも同じように、すごく興奮して心臓が早く鼓動していた。


(まさか私の理由が、こんなにも身近なものだなんて……)


 ただ、ヒカリエがいつでも使えなかった理由や、ルミネが趣味で作った魔法——ルミナスが使えた理由とかの疑問がまだ残っている。


「リトナードさん、もう一ついいかしら?」

「どんどん来なさい。なんでも答えてあげちゃうから」


 胸を張って話すリトナードはすごく頼り甲斐があった。

 だからアトレも気にせずにどんどん気になることを聞いた。


「私がヒカリエがずっと使えなかった理由と、お姉ちゃんが作った魔法だけ使えた理由が知りたいの」

「その二つでいいの?」

「それと……」


 アトレはヒカリエを使った時に見えた光景を思い出す。

 とても綺麗で、金色に光る粒子があたり一面ふわふわと輝いて飛んでいたこと。

 今まで見た景色の中で一番綺麗だったその光景を、アトレはなんとか言葉にして伝える。


「初めて魔法を使ったとき、周りにキラキラと輝く何かが見えて、それが自分の思い通りに形を変えて操れたの。それが何か、教えてくれませんか?」

「いいよぉ。まず、最初の二つだけ答えるわ」


 そう言いながらリトナードは紅茶のティーポッドを魔法で動かして自身のカップに淹れた。

 そして淹れたばっかりの紅茶に口をつけると話し始めた。


「ずっと使えなかった理由。それは君の魔法は特殊で使いづらいの。例えば、純粋な魔力が必要だったり、そもそもの魔法の構造が複雑だから、魔法が使えない君にとって知らない数式を足し算だけで解いてって言われているような状況になっていたのよ。だからずっと使えなくて、ちょっとした拍子にたまたま条件が揃って解読できて使えた、とワタシは思う」


 リトナードの例えはアトレの頭にスッと入るくらいわかりやすかった。

 魔法は使えないものの基礎的な魔法学を習っていたアトレは、魔法の原理としてどんな魔法でも基礎魔法となるものが存在して、それに味付けや応用をして様々な魔法になることを知っている。

 例えばラスカの水の針は基本的な水を作る魔法に、針のように細くする味付けがされているのだ。

 しかしアトレのヒカリエは元となる魔法が存在していない、あるいは存在していても基礎魔法が使えないから使えなかったと考えられる。

 だから魔法が使えなかったんだ、とアトレは合点した。

 だけどその話について来れない感覚で魔法を使うラスカとアミュは、なんの話か分からなさそうな顔をしていた。


「次に姉の作った魔法が使えたことだけど、それについては簡単。姉妹だから魔力の親和性が高くて見様見真似で使えたんだと思うわ」


 確かに、アトレはルミネがルミナスを使うところを何回も見てきたし、構造も教えてもらっていた。

 それにルミネには昔から魔法を見せてもらっていたから、なんとなくで使えそうな気がする。

 よくあるのは親の得意属性が子に引き継がれやすいらしいのだが、実の姉であるルミネの魔法がアトレにも馴染んで使えたと言うのも納得できる。

 そして最後に、アトレが見たキラキラについてリトナードは教えてくれた。


「最後に君の見た金色のキラキラ。それは、魔力なの」

「魔力って見えるんですか?」

「そうよ。魔力濃度が高いとこにいたり、魔力に対して敏感な人はごく稀にみる事ができるのよ。ワタシの知っている限りそれができるのは、ワタシと<星骸の魔女>の一族。アトレの場合、魔法が純粋な魔力しか受け付けなくてそれで見えるようになったはずよ。ホント、魔力って綺麗よね〜」


 リトナードは一度深く目を瞑ってまた開くと、うっとりした表情で何かを見始めた。

 おそらく魔力を見ているのだろう。

 アトレも同じようにして目を瞑り、身体の中の何かを目に集中させて見ようとしたが、何も見えずにただ普通の景色だけが映った。


「見えない……」

「そりゃそうよ。魔力を見るにはね、慣れが必要なのよ慣れが」


 リトナードはもう一度瞼を閉じて、目を開けた。


「これでおしまい?」

「うん。ありがとうございます」


 今、アトレはすごくスッキリしている。

 身体の重みが取れたような、そんな感じだ。

 そしてアトレはリトナードを見て、柔らかい表情で改めて感謝を伝えた。


「私の悩みを解決してくれて、本当にありがとうございます。リトナードさん!」


「いいってことよ。<翠煌の魔女>は誰かを助けるためにいるんだから」


 アトレはそんなリトナードが、すごく自然に心の底から嬉しそうに笑っているような気がした。

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