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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第十一章 旅の終点編
112/121

【11−2】血を操る魔法

「ルミナス!」


 ラスカが杖を向けて魔法を詠唱する。

 鋭い閃光が蛇を掠め、その隙にアトレが斬りかかる。

 硬い鱗に深い切り傷が入り蛇は叫んで口からアトレに毒を飛ばす。

 それを遠くのアミュが防御結界で防いだ。


「ありがとう、アミュちゃん!」


 アミュに感謝を言うとアトレは剣を構えて蛇に飛び込む。

 剣を横にして薙ぎ払おうとしたその時、アトレは蛇の尻尾に振られて飛ばされて木に当たった。


「いったぁ……木屑が服に付くじゃない」


 剣を地面に突き刺して立ち上がる。

 顔についた汚れを親指拭き取ると、アトレは蛇を睨む。


(ここは私が囮になってラスカとじいやに任せましょう)


「ラスカ! じいや! 私が囮になるからそのうちに!」

「任せろ!」

「承知です!」


 遠くから心強い返事が返ってきた。

 剣を地面から抜き取り、口を開けて毒を出す蛇に突っ込んだ。


「いっけぇ!!」


 蛇はアトレを追うように頭を動かしたその時、大きな銃声が鳴り響き頭が上に持ち上がった。

 その瞬間に首を鋭い閃光が通り抜け、大穴を開けて霧散した。


「よしっ! ナイスよ!」


 アトレは笑って親指を上げてラスカ達を見る。

 あちらも同じように親指を上げた。

 アトレは剣をしまって嬉しそうに三人の元へ走り寄り、アミュの頭を撫でた。


「ありがとうアミュちゃん。助かったよ」

「アミュ、役に立った?」

「うん!」


 アミュは少し不安そうな顔をした後、嬉しそうに笑ってぴょんぴょん跳ねると、アトレの後ろから木が折れる音がした。

 驚いて後ろを振り向くと先ほどの大蛇が四匹集まって一匹ずつ木に絡まっていた。


「まだいるの……?」

「さっきと同じ種族みたいだな。流石にこれ以上は捌ききれないかも」


 ラスカが神妙そうな顔をして蛇に杖を構える。


「一人一匹とあまりね。いける?」

「わたくしはおそらく大丈夫ですが、お嬢様一人で近接を? 少々危険です」

「わかってるわ。でも今は——」


 アトレの声を遮るように、アミュは大きく声を出した。


「アトレお姉ちゃん! アミュも戦う!」

「で、でもアミュちゃんを危険な目には……」


 アトレが悩みつつ心配そうな声を出したが、アミュはキッパリと言い張った。


「大丈夫、アミュを信じて。アミュ、強いから。それにみんなのことも守りながら戦うから」


 アミュの顔は見れないが、声だけでも彼女は真剣に一緒に戦いたいという意志を感じる。

 今までの戦闘ではアミュには防御結界に専念させていたので、自ら攻撃するところを見たことがない。

 ただ自分で強いと言うあたり、相当自信があるみたいだ。

 しかしアミュは肉体も精神的にも子供だから本当に戦わせてもいいかとアトレが悩んでいるところに、ラスカの後押しするような言葉が入ってきた。


「まあ、いいんじゃない? どうせこの戦いが終わったら俺たちの旅は終わるんだから、最後くらいやらせてもいいと思うぜ。それに、俺もアミュの魔法すっげぇ気になるし」

「本音を言うと、わたくしもアミュ様の魔法が気になります」


 正直言うと、アトレもアミュの魔法が気になる。

 だから最後くらいと言われてしまうと後悔させるわけにはいかないから、アトレはアミュにも戦わせてあげることにした。


「じゃあアミュちゃん、お願いできる?」

「うん! アミュ、頑張る!」


 後ろから嬉しそうな可愛らしい明るい声が飛んできた。

 そしてすぐさま四人の前に防御結界が張られると、何故かアミュは声のトーンを落として心配そうに言った。


「アミュの魔法、みんな怖がらない?」


 なんというか、罪悪感を滲ませたような声だ。

 だからアトレはアミュにその感情を抱かせないようにと、優しく告げる。


「もちろん、怖がらないわよ。だってここにいる私たちはみんな、魔法が好きだから」


 アミュの顔の緊張がほぐれる。

 そしてアミュは狩りをする側の目つきに変え、右手の親指を犬歯で噛んで出血させながら静かに魔法を詠唱した。


「エマーティノス(血を操る魔法)」


 アミュの指から滴った一滴の紅色の血は大きくなるとたちまち赤褐色にくすみ、槍のような形となってアミュの左手に収まった。


「これがアミュの魔法、血を操る魔法。アミュは魔族だから血も魔力で作られてるの。……アミュのこと、怖がって嫌いにならない?」


 アミュが震えた声で尋ねる。

 しかしここにいるのは魔法オタクの三人。あまりにも不思議で子供心がくすぐられる魔法に、興奮が隠せなかった。

 特にラスカ。


「スッゲェ! めちゃくちゃかっこよすぎだろ、アミュ!」

「そ、そうかなぁ?」


 アミュは頬を赤らめて恥ずかしがる。

 おそらくこの魔法を初めて他人に見せて、初めて褒められたのだろう。

 アトレもその気持ちがわかる。


「よし。これで数的不利ではなくなったわね。一人一匹、みんな、行くよ!」


 アトレの掛け声と共に後ろから力強い返事が返ってくる。

 アトレは剣を前に構えて一匹の大蛇へ突撃した。

 他の大蛇にはラスカのルミナス、バルの銃とたまに炎魔法、そしてアミュの血で作られた棘や槍が飛び交っていた。

 魔法が使えないアトレも負けじと鱗の硬い蛇に対して一対一で戦った。

 それから少しずつ周りも大蛇を処理するとアトレの援護に来てくれた。

 最初はアミュが大蛇が動けないよう血で固め、ラスカが援護射撃、バルはアトレが負傷しないようアミュの代わりに強力な防御結界を張った。

 そして身動きが取れない大蛇にトドメを刺しに行くアトレに、アミュが叫んだ。


「アトレお姉ちゃん、これ!」


 アミュが力一杯投げたのは血で作られた鋭い槍。

 剣よりも確実にトドメを刺すためとアミュが考えたのだろう。


「おっけぇ、任せて!」


 それをアトレは器用に受け取ると、力一杯蛇に突き刺した。

 硬い鱗をものともせず貫く槍は身体の奥深くまで入ると、先端から大きく膨れ上がって破裂し内部から蛇を壊す。

 そして最後の大蛇が黒い霧となって霧散した。


「よし。これで終わりね」

「お嬢様、お怪我は?」

「うん。全くないわ。みんなのおかげよ。そして何より……」


 アトレは右手の親指をフーフーしているアミュをギュッと抱きしめて持ち上げた。


「アミュちゃんのおかげ!」

「ア、アミュの?」


 アミュは戸惑ったかのように聞き返す。

 そんなアミュを、アトレは抱っこして微笑んだ。


「そう、アミュちゃんのおかげよ! とってもかっこよかったわよ!」

「アミュが? かっこいい……えへへ、嬉しいな」


 アミュは照れたようにはにかんで笑って見せた。

 アトレがアミュをかっこよく感じたのは紛れもない本心だ。

 それほどまでにアミュは今回のアトレにとってすごく重要で頼り甲斐があったのだ。

 そして依頼をこなしたアトレは、アミュを抱っこしたままラスカとバルを見た。


「これで依頼完了ね。さて、旅の終点に向かいましょう!」


 えへっと、アトレは元気よく笑った。



* * *



 ベルヌーイ村の村長の家に戻り魔物討伐のことを伝えると、村長は観念したかのように正直に話し始めた。


「<翠煌の魔女>リトナードは確かにこの村に住んでいます。この先の小高い丘にある赤い屋根の一軒家に彼女は住んでます」

「でも、なんで最初っから俺たちに話してくれなかったんだ?」

「それは、彼女にそう言われているからです。あまり外部の人間に会いたくないらしく、もし自分のとこに訪ねてきたら何か難しい依頼をあげて選別して欲しいと言われてます」


 この話の感じだと、<翠煌の魔女>は相当な癖モノの可能性が出てきた。

 しかし、彼女に会えるのもアトレの秘密がわかるのももう少しだ。

 まだまだ聞きたいことはあるが、それは本人に聞けばいい。

 村長に感謝を伝えるとアトレ達は家を出た。


 言われた通りに道を進むと、小高い丘の上に赤い屋根の小さな家が見えてきた。

 遂に旅の終点に来たと感じると、心臓の鼓動が速くなって緊張してきた。


「もうすぐ、<翠煌の魔女>に会える……」

「お嬢様、旅の終点なのですから失礼の無いようにいきましょう」


 バルにそう言われて、アトレは自分を落ち着かせるために深呼吸をする。

 <翠煌の魔女>の家と思しき建物に近づくと、玄関の前にある花壇にしゃがんで水をやっている淡いラベンダーのような色の髪の少女がいた。

 おそらくアトレと同世代のお弟子さんなのだろう。

 アトレは彼女に訊いた。


「すいません、リトナードさんの家はここですか?」

「そうよ」


 アトレの緊張が少し解ける。

 確かにここは、<翠煌の魔女>リトナードの家だった。


「私たち、リトナードさんに会いに来たの」


 すると少女は水をやる手を止めた。

 そしてしゃがんだまま、口を開く。


「奇遇ね。私も同じ名前なの」


 彼女はゆっくりと立ち上がり、アトレの方へ振り向く。

 長い髪、綺麗な若い顔立ち、そして、翡翠のような透き通った瞳。

 まるで惹き込まれてしまいそうな雰囲気の彼女は、アトレを見ると優しく微笑んだ。


「ようこそ、ワタシの家へ」

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