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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
第十一章 旅の終点編
111/121

【11−1】ある日森の中、三つ目の蛇さんに出会った

「ついにここまで来たわね」

「長かったですが、お嬢様の秘密が解き明かされるまであと少しです」


 暖かな陽気の中まだ冷たい風が吹くこの季節、アトレたちはついに旅の目的地であるベルヌーイ村に辿り着いた。

 アルネミアの祭日が終わった頃は年末だったのに、もう春の季節がやってきた理由は一度道に迷ったからだ。

 コルディエがベルヌーイ村までの道を教えてくれたけど、道が変わっていたらしく間違って別の道を進んでしまった。

 だから一地方を渡ったみたいな感覚でアトレはベルヌーイ村に来ていた。

 正直、リヴィエールが嫌いになりそうなくらい広大な土地だった。


「お父様はリヴィエールの遥か東にある小さな村だって言ってたけど、今まで訪れたどの村よりも小さいわね」


 ベルヌーイ村は木造の家が十数軒ほどの小さな村だ。

 それに意外と子供が少ない。

 この家のどこかに<翠煌の魔女>リトナードが住んでいると思うと、期待で胸が膨らむ。


「とりあえず、あの家から聞いてみましょ」


 そう言ってアトレは一番近くの家に向かった。

 そして玄関を軽くノックして住民を待った。


「すみません、お尋ねしたいことがあるの」

「ん? 旅の者かい?」

「ええ。リトナードさんに会いに来ていて、家を知りたいの。ご存知ないかしら」

「知らないねぇ」


 腰が曲がった白髪のお婆さんはそれだけ言うと、そそくさと家の中に戻ってしまった。

 あまりにもあっさり過ぎていたので、アトレは固まって驚いてしまった。

 それから一軒、また一軒と同じように尋ねたのだが、誰も教えてはくれなかった。しかもみんな知らない様子だった。


「なんでぇ……なんで誰も教えてくれないのよ……」

「お前が嫌われてるとか?」

「来たばっかりのこんなに可愛い旅人が嫌われるはずないじゃない」


 アトレの言う通り嫌われる要素が何一つない。

 見た目も普通だし、わざと教えてくれないのにしてもみんな知らないと言ってばかり。

 でもここまで来て諦めきれないアトレに火が付き、徹底的に調べてやるという意志が湧いてきた。


「……こうなったら、村長の家に突撃よ!」



* * *



「リトナード? うちの村にはいないが……」


 老年の村長の言葉にアトレは項垂れる。


「アトレお姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫……じゃないかも……」


 しかし二年半も歩き続けてきたアトレはこんなところで折れたくはない。

 膝をついて立ち上がり、上着を雑に投げ捨てると精一杯の怖い顔をして椅子に座る村長を睨んだ。


「聞きなさい。私はエマニュエリ公爵家の次女、アトレ・エマニュエリよ! 社会的に死にたくなければ、今すぐ情報を吐きなさい」


 その時、白い手袋がアトレの口を覆った。

 そしてラスカがアトレを羽交締めにして捕まえた。


「お嬢様、やりすぎです!」

「んーんん、んー! (しょうがないじゃない、最終手段なのよ!)」

「本当に、うちのお嬢様が失礼なことを……」


 アトレを黙らせながら非常に申し訳なさそうに、バルはアトレの頭と一緒に頭を下げて村長に謝った。

 アトレが変なことを喋らないよう口を抑えられていると、アトレは村長が少し悩んでいるような顔をしていることに気付いた。

 村長は確かめるように口を開く。


「その、本当に旧公爵家の方なのでしょうか?」

「ええ。わたくし達はエマニュエリ公爵家の人間で、この不躾なお嬢様は本物の血族でございます」

「俺とアミュは違うけどな」


 不躾と言われたことは癪に触るが、今はアトレは喋らない方がいいみたい。

 村長は歩行用の杖を持って椅子から立ち上がると、家の窓の外を眺めた。


「では、あなた方が旧公爵家の方なら少し依頼があります」

「依頼ですか? 何なりとお申し付けください」


 村長は深刻そうな顔をしてバルを見る。


「この先、近くの街に繋がる道があるのですが近頃魔物がいて、若い村人達が通れないと言うのです。ですので、そちらを解決してくれれば貴方方のご要望に応えれると思います」

「わかりました。お嬢様もそれでよろしいですね」

 

 口を抑えられながら、アトレは縦に頷く。そろそろ解放してほしいものだ。

 しかし宮廷魔法使いの<翠煌の魔女>がいるのに、どうしてアトレ達が魔物退治をするのだろうか。

 やはりいないのではと不安が募るが、バルはそうでもないみたいだ。


「ではその依頼、わたくし達が引き受けましょう」


 バルは執事らしく、丁寧にお辞儀をした。



* * *



 ベルヌーイ村からしばらく歩き、森の中の街道の中でアトレは謎の呻き声を耳にした。

 木がざわめき、鳥が飛び立つ。周囲の森が騒がしく、不気味に急に静まり返る。

 アトレは腰の剣に手を添えた。


「随分と厄介なものがいるみたいね。みんな気を付けて」


 アトレが力のこもった声で言うとラスカは杖を、バルは銃を取り出す。

 アミュはビクビク震えて怯えてラスカの後ろに隠れた。

 その時、アトレ達の正面から一匹のイワヤドカリが慌てた様子でやってきて通り過ぎた。


食材イワヤドカリ? どうしてここに……」


 その光景にアトレは違和感を覚える。

 なんせイワヤドカリなんて洞窟にしか生息していない魔物なのだから、地上の森にいることがおかしい。

 どうやら大変なことが起きているみたいだ。

 気を引き締めて前に進む。

 アトレが木の枝を踏んだその瞬間、遥か前方から紫色の液体が飛んできた。


「危ない!」


 ラスカが咄嗟に防御結界を張って、紫色の液体は結界によって弾かれた。


「ありがとう、ラスカ。一体どこから……」

「正面だ。真っ赤な三つ目の目が影からこっちを睨んでるぜ。うー怖い」


 ラスカの言う通り、森の奥から赤い三つ目を輝かせながら巨大な大蛇がのそのそと現れた。

 木よりも太く、紫の鱗の蛇は木に絡まってアトレを見つめる。

 アトレは剣を構えた。


「どうやら、これが例の魔物みたいね」

「お嬢様、お気を付けてください。先ほどの液体はおそらく毒でございます。触れたら身体が溶けるかもしれません」

「怖すぎるだろ!」


 ラスカは杖を抱きしめて怯えた。


(ラスカって多少は毒に耐性あるんじゃなかったっけ?)


 余計な考えは置いておいてアトレの青みがかった剣を握る手に力が入る。

 アトレは蛇を見たままアミュに声をかけた。


「アミュちゃん、防御結界を頼める?」

「……うん」


 アミュは何故か不服そうな顔をしつつ、アトレの後ろで頷いた。

 しかしアトレは蛇だけを見ていたため、アミュの言いたいことに気づけなかった。

 そして蛇がシャーと唸る。


「いくわよ!」


 アトレは蛇に向かって走り出した。

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