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魔法が使えない魔女は旅に出る  作者: 宮坂 たきな
幕間 翠煌の魔女編
105/121

Ⅵ. ドアは壊すためにあるのよ(破片を集めながら)

 宮廷魔法使いになってからしばらくして、リトナードが雑務の仕事を自宅で行なっていると玄関に取り付けられた鐘が鳴った。

 ミシェルもエミールも鐘を鳴らさないため、滅多にない来客だ。

 宮廷魔法使いの仕事は機密事項も多いため、書類にそっと布を被せてからリトナードは対応にでた。


「今行きまーす」


 ドアノブに手を掛けてドアを開ける。

 するとそこには金色の立派な杖を持った茶髪でツインテールの少女? が険しい顔をして仁王立ちで立っていた。


「<翠煌の魔女>リトナード! あたしと勝負しなさい!」

「……えっと、どちら様?」


 リトナードはキョトンとした表情で言う。

 知らない人が急に殴り込みに来て怖くなってきたので、リトナードは開けた扉の後ろに顔だけ出して隠れた。

 しかしそんなリトナードを引き摺り出すように、彼女は思いっきり扉を開けてきた。


「あたしを忘れたわけ?! 元宮廷魔法使い<星骸の魔女>、ニネット・サンローランよ!」

「は、はぁ……」


 思わず曖昧な相槌を漏らしてしまった。

 <星骸の魔女>と言う二つ名はどこかで聞いたことがあるが、イマイチ思い出せない。

 だけどニネットはリトナードが考えるより早く、答え合わせをしてくれた。


「ほら、選考会であんたに飛び蹴りされたじゃない。正直まだ少し痛い……」


 飛び蹴りでようやく思い出した。

 確かにリトナードは<星骸の魔女>を名乗る目の前の人物を空中でドロップキックをした思い出がある。

 と言うことはこれはアレか。慰謝料を請求しにきたのだろう。

 相手の逆鱗に触れないようペコペコとリトナードは謝った。


「そ、その節はどうもぉ……」

「うんうん、ちゃんと謝れて偉い……って違うわよ! あたしはあんたに挑みにきたわけ!」

「うち、そういうのお断りなので。では失礼します」


 杖を構えて今にも戦いたそうなニネットをまるでセールスのような扱いで追い出し、リトナードはそっと扉を閉めた。

 あまりにも堂々とした断り方だったので、彼女の目はプラナリアより丸くなっていた。

 鍵を閉めてリトナードは凝り固まった上半身を伸ばすように大きく腕を伸ばす。

 やっとうるさいのが消えてスッキリしたのでリトナードが仕事に取り掛かろうと椅子に座ると、急に強烈な打撃音が聞こえてきた。

 風圧でリトナードの髪が揺れる。

 驚いてすぐさま音のした方を見ると、やはり玄関の扉だった。

 ニネットがなんの魔法を使ったか知らないが、ドアが綺麗に破壊されていて家の中にバタンと倒れているのだ。


「あっごめん」

「あ゛ーーーー!!!! ドアがーー!!」

「あんたの家だから結界くらい張ってるものだと思って、つい威力を高めちゃった……」

「ねえこれどうしてくれんの?! お義父さんに怒られるのワタシなんだけど!」


 慌てて倒れた扉のところに向かったのだが、時すでに遅し、大穴開いて木の破片が散らばっていた。

 涙目になりながら修復魔法で扉を直そうとしたが、一部が完全に消し飛んでいて直る気配がない。

 頬を膨らまし、リトナードは元凶となるニネットを睨んだ。


「直らないケド?」

「あー、えっと、その…………ごめんなさい」


 ものすごく申し訳なさそうにニネットは頭を下げた。

 そして頭を下げながら力のこもった声でリトナードに許しを請う。


「弁償でも雑用でもなんでもするんで許してください……」


「…………」


「あたしが百悪いです。リトナード様は何も悪くありません」


「…………」


「ホントになんでもするんで許してください……」


「……なんでもって言った?」


「なんでもです! あっ、でも身体はちょっとぉ……」


 こいつは頬を赤らめてクネクネしながら何を言っているんだ?

 リトナードは一言も身体で払えと言っていないのだが。

 思わず重たいため息がこぼれ落ちた。


「……なら、ワタシの仕事を手伝ってもらえる? わからない所が多くて困ってるの」

「もちろんですとも! なんてったってあたしはあんたの先輩、元宮廷魔法使いなんだから!」


 そう言って許しを得たのが嬉しいのか若干上機嫌になったニネットを、リトナードはやれやれと家に上がらせて自身の仕事を見せた。

 山積みになった書類はどこかの軍事情報だったり、宮廷魔法使いの許可が必要なものなどよりどりみどりだ。

 特に許可モノはちゃんと読み込んでサインを入れたり、期限があって時間がないものなどとりわけ面倒臭い。

 そのことをニネットに見せると、彼女はすごい勢いでいいものとダメなものを分別しだした。


「リトナード、こっちが許可していいやつ。こういう中央貴族が絡んでるやつは面倒だから許可した方が身のためよ。逆にこっちはダメなやつ。読めばわかるけど不記載があったり、普通に気に食わないものはどんどんバツしていいから」


 なんだか気分で選んでいるものもあるようだが、こう言ってくれるととってもありがたい。

 だって前任のマクロンは簡単な説明だけしてとっとと引き継いでしまったのだから。

 特にニネットの言う政治の世界の話は役に立った。

 なんだろう。仕事ができる上司って他がダメでも敬いたくなってしまうものだ。

 リトナードは彼女のことをこれから、「ニネットお姉さん」と呼ぼうと決意した。


「ありがとうございます! ニネット姉さん」

「当然よ!」


 かくいう彼女はたった一年しか宮廷魔法使いをやっていない。

 史上最年少、齢十七歳という若さで宮廷魔法使いの座についたニネットだが、翌年の選考会で出てきた<影月の魔導師>にあっさりと負けてしまい一年で引き摺り下ろされてしまったせいで、史上最短の退任の記録を塗り替えてしまった。

 戦闘面では後任の宮廷魔法使いに劣るが、彼女の事務処理能力は目を見張るものがあった。

 一年でのスピード退任だったが、当時十七歳の少女が国の中枢を担う重大な仕事を簡単にこなしてしまったことは賞賛に値する。

 現に十五歳のリトナードが躓いているのだから。

 そしてニネットは他の仕事も手伝おうと一枚の紙を手にしたのだが、浮かない顔をして何か考え込んでしまった。


「お姉さん?」

「あんた、これから大変になるわよ」

「どうして?」


 ニネットは紙をリトナードに渡すと、声を低くして深刻そうに告げた。


「どうやら国中で貴族狩りが起きてるらしいの。理由はおそらく、身分の差で不満が高まった平民が起こしてるみたい」

「それならワタシが片さなくちゃ」

「……そうだね。宮廷魔法使いの初仕事になるかもしれないわね」


 宮廷魔法使いの本当の仕事は雑務処理ではなく、国家と宮廷を守ること。

 しかし、残念ながら宮廷魔法使いになりたがっている人に愛国心からの人は少なく、ほとんど魔法使いの頂点に立ちたい野心家ばかり。

 前任やニネットも含め、実戦が大好きな血気盛んな連中が多い。

 その中でもリトナードはたまたまなってしまった部類なのだが。

 ただ、平民の反乱など貴族、特に中央貴族は黙っている訳にはいかない。

 これからは忙しくなりそうだと、改めて感じた。

 リトナードはニネットから受け取った紙に目を通してメモを別の紙に残してから内容を覚えると、許可すべき書類の束に置いた。

 やっぱり自分では何を許可していいかわからない。

 迷惑かもしれないけど、リトナードは勇気を出して手伝って欲しいと聞いた。


「あの、ニネットお姉さん。また、仕事手伝ってくれますか?」


 こう言う時、エミールは上目遣いをして猫のように甘えるといいと言っていた。

 だからリトナードは上目遣いで、困り顔でニネットに優しく訊いた。


「だめ?」

「……んもう! 手伝ってあげなくてもいいけど!」


 頬を赤らめて両手を腰に置き、ニネットはリトナードから目を逸らし偉大な先輩面でツンケンした感じで言った。

 そして壊れた扉をが視界に入ったのか身体が一瞬崩れた。

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