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第90話 順応性の怪物

【ジパング大使館・応接室】

梅原ナオの被る帽子。そのクラウンはいつの間にかぱっくりと開いていた。

そして中から、灰色の雲そのものの顔をした学ラン姿の男が、半身を乗り出している。


腕を組み、いかにも当然といった顔でグラバーの方を向いていた。


北風「……ん?」


ステラ「『ん?』じゃないわよ!!」


ナオ「お前……いつぞやの北風ヤンキーやないかい!」


ノノ「あ……あの……天気予報して帰っていった」


ノノも思い出したのかオロオロする。


北風「よう、久しぶりだなてめぇら」


ナオ「『よう』やあれへんわ!お前いつからそこおったんや!?」


北風「さあな。話が聞こえてきたから、ちょいと混ざらせてもらっただけだぜ」


カイ「いや、混ざり方が自然すぎるんすよ!」


リラ「わ、私……てっきり、グラバーさんのお知り合いなのかと……」


ステラ「なんでよ!?顔が雲なのよ!?」


リラ「いや……あまりにも自然にお話されてたから……」


みんなの様子をみたグラバーが豪快に笑いだした。


グラバー「フハハハハ!なんだ、君たちは気づいていなかったのか!」


ステラ「いやむしろ、グラバーさんは気づいてたんですか!?」


グラバー「無論だとも!」


ナオ「いやいやいや!ほんなら、なんで普通に会話続けとるんですか!?」


グラバー「話が分かる奴だったからさ!」


あまりにも迷いのない即答だった。


北風「へっ、違ぇねぇ」


ナオ「お前も納得すんな!」


グラバー「それに、いいじゃないかナオくん!」


ナオ「何がですの?」


グラバーは葉巻を咥え、愉快そうに北風を指差した。


グラバー「外交官、文官、剣士、技師、喫茶店の店主……。そして、雲の顔をした不良!」


北風「フッ!」


グラバー「ますますカオスになって面白いじゃないか!」


ナオ「カオスにも限度がありますわ!!」


北風「おいおい。細けぇこたぁ気にすんなよ、外交官」


ナオ「お前にだけは言われとうないわ!」


グラバー「ハッハッハッハ!」


北風「ガッハッハッハ!」


ガッと拳を握り合う、帝国の高官と雲の顔をした謎の不良。

本来ならば何一つ接点がないはずの二人の笑い声が、なぜか妙に息ぴったりに応接室へ響き渡る。


ステラ「ほんとなんなのよ……この人の謎の順応力」


呆れ果てたステラは腰に手を当ててため息を吐く。

リラはそんな光景を呆然と眺めていたが―――やがて、ふっと小さく笑った。


リラ「……ふふっ」


ステラ「リラ?」


リラ「いえ……なんだか、さっきまで悩んでいたのが馬鹿らしくなってきちゃって」


ノノ「リラさん……?」


リラは北風をちらりと見上げる。


北風「何見てんだ?」


リラ「だって……」


少しだけ肩の力を抜いて、笑った。


リラ「帝国のお偉いさんと、雲の顔をした不良さんが普通にお話できるんですもの」


北風「おう」


ナオ「いやそこ基準にしてええんかな!?」


リラ「だったら、喫茶店の店員くらい普通ですよね?」


グラバー「フハハハ!そういうことだ!」


ナオ「いやまあ……言いたいことは分かるんやけどなぁ……」


カイ「説得力があるんだかないんだか、もう分かんないっすねぇ……」


リラの顔からは、先ほどまでの不安げな色がすっかり消えていた。

そして、ぱっと明るい笑顔を浮かべる。




リラ「確かに……カオスですね!!」




グラバー「だろう!?」


ナオ「そこ納得してもてええんやろか……」


そう呟いて、帽子のツバを押さえながらも、ナオの口元にも笑みが浮かんでいた。


と、その時。



グゥゥゥゥゥゥウウウウ……



応接室内に大きなおなかの鳴る音が鳴り響いた。

音の発生源は……。


ノノ「あぅぅ……」


音の主は、ノノだった。

恥ずかしそうにお腹を押さえ、頬を赤くして俯いている。


その様子を見て、ナオがふと壁に掛けられた時計へ目を向けた。

つられるように、一同も時計を見る。


正午前から始まった会談。

途中、あまりにも色々なことが起こったせいで誰も気に留めていなかったが。時刻はすでに十五時半を回っていた。


ナオ「おー……もうこんな時間経ってたんか」


ノノ「す、すみません……。いろいろ起こりすぎて……お、お腹が空いちゃって…」


カイ「いや無理もないっすよ、ただでさえ帝国の高官との会談なのに、あのハードボイルドのおっさんが割り込んできたり」


ステラ「なかなかにカロリー消費する時間だったわね…」


リラ「そういえば……私も少しお腹が空いてきました」


ナオ「そらそうやわ。昼飯も食わんと三時間以上喋っとったんやから」


グラバー「フハハハ!それだけ話が弾んだということだな!」


そう言って笑ったグラバーだったが。


グゥゥゥゥゥ……。


今度は別の、低い腹の音が響いた。


一同「…………」


グラバー「おや?」


ナオ「……グラバーさん?」


グラバーは数秒黙ったあと、豪快に笑った。


グラバー「ハッハッハッハ!どうやら私の腹も、会談はここまでにしろと言っているらしい!」


ステラ「グラバーさんまで……」


思わずステラはズッコケそうになる。


カイ「まあ、この時間なら仕方ないっすよ」


グラバー「うむ!腹が減ってはまともな話もできん!」


そう言って葉巻を灰皿へ押しつけると、グラバーは大きく伸びをした。

そこで、リラはすかさず手を上げる。


リラ「じゃ、じゃあ今から急いで何か作ります!ナオさんお台所借りますね!!」


そういってリラはエプロンを結び直した。

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