第86話 こういうのって大体バレてる
お久しぶりでございます、ろんどです。
いや……ほんとにお久しぶりです。読んでくださってる方いらっしゃったら、投稿だいぶ間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
仕事が変わってかなり忙しい状況でしたので、書きたいと思いながらもなかなか続きが書けずという感じです。これからも細々と投稿していきますので、暇つぶしに読んでいっていただけると幸いです!
【ジパング大使館・応接室】
応接室の中では、ようやく笑いが落ち着き始めていた。
グラバーは葉巻をくゆらせながらソファへ深く腰掛け、ナオも「はぁ~……笑った……」と息を整えている。
――その頃。
襖の外では、盗聴用の魔道具をぴたりと当てたまま、ステラ、カイ、リラの三人が顔を見合わせていた。
ステラ「……私たち、一体何を聞かされてたのかしら」
ステラは半目になりながら、思わず額へ手を当てる。
カイ「外交官って職業のイメージが、今すごい勢いで崩れていってるんすけど……」
リラ「元老院で火柱って……。仕込みだったとしても、とんでもないですよね……」
三人そろって、なんとも言えない顔で小さく頷いた。
ステラ「っていうか、“衝撃の明太子”が最後まで何なのか、結局わかんなかったんだけど」
カイ「そこはもう、考えたら負けな気がしてきました。完全に勢いだったでしょ、あれ」
リラ「でも……なんだか、ちょっと素敵なお話でしたね」
その言葉に、ステラとカイが同時にリラを見る。
リラは少し照れくさそうに笑った。
リラ「ナオさんのお師匠さん、“皆を笑顔にする”っていうのを、本当に大事にしてた方だったんだなぁって」
ステラ「……まあ、それはちょっとわかるかも」
カイ「ナオさんが普段あんな感じなのも、なんか納得できるっす」
その時だった。
応接室の中から、グラバーの落ち着いた声が聞こえてくる。
グラバー「ところでだ、ナオくん」
ナオ「はい、なんでしょう?」
グラバー「そろそろ、外で聞いている君の仲間たちを、私に紹介してはくれないかね?」
襖の外の三人は、ぴたりと固まった。
カイ「えっ!?」
リラ「き、気づかれてました……!?」
ステラ「う、うそ……」
応接室の中では、ナオが「あー……」と苦笑いする。
ナオ「やっぱバレとりました?」
グラバー「フハハ。あれだけ気配が賑やかなら、さすがにな」
ノノ「えっ……えっ?」
今さら気づいたノノが、慌てて襖の方を見る。
ナオは帽子を軽く被り直すと、襖へ向かって声をかけた。
ナオ「みんな。盗み聞きはその辺にして、もう入ってきいな」
襖の向こうで、三人は顔を見合わせる。
ステラ「……バレてないと思ってたの、私たちだけだった……ってことね」
カイ「いやこれ絶対、もっと早い段階で気づいてましたよね……」
リラ「ど、どうしましょう……」
すると、襖越しにナオの呆れ混じりの声が返ってくる。
ナオ「別に聞かれて困るような話しとらんかったし。むしろ途中から、“ああ、聞いとるなこれ”って思いながら喋ってたもん」
カイ「なっ!?」
ステラは深々とため息をついた。
ステラ「……あたしたち、完全に泳がされてたってことね」
グラバー「フハハハ!若者らしくて良いじゃないか」
応接室の中から、豪快な笑い声が響く。
グラバー「それに、盗み聞きしていた割には、随分と素直に笑っていたようだったしな?」
襖の向こうで、三人の肩がびくりと跳ねた。
リラ「き、聞こえてたんですか……!?」
グラバー「“衝撃の明太子って何!?”あたりは特にな」
ステラ「あっちゃぁ……」
カイ「穴があったら入りたいんすけど……」
ナオ「ほらほら。いつまでも立ち話もなんやし、入ってきいな」
観念したように、ステラがそっと襖を開ける。
その後ろから、気まずそうな顔をしたカイとリラも続いた。
ノノ「す、ステラさん!? カイさんにリラさんまで……」
ノノは本気で驚いた顔で、ソファの上でアワアワとする。
ナオ「気づいてなかったんは、ノノだけやな」
応接室へ入った瞬間、三人の視線は自然とグラバーへ向く。
グラバーはソファへ深く腰掛けたまま、口髭を撫でながら三人を見渡した。
そして、ニッと笑う。
グラバー「初めまして……と言うべきかな。いや、君たちの反応は襖越しに十分聞かせてもらったが」
ステラ「あ、あの……」
リラ「す、すみません……」
カイ「いやほんと、出来心というかなんというか……」
グラバー「フハハ!! 気にせんよ。むしろ若い連中が賑やかな方が、私は好きでね」
葉巻を軽く持ち上げ、愉快そうに笑う。
グラバー「私が君たちぐらいの歳なら、きっと同じことをしているさ」
その一言に、三人の表情から少しずつ緊張が抜けていった。
ナオはその様子を見て笑うと、ゆっくり立ち上がる。
ナオ「ほんならグラバーさん。改めまして、みんなを紹介しますわ」
そう言って、ステラたちの方へ手を向けた。
ナオ「こちら、冒険者のステラ。帝都へ向かう際なんかにも、護衛役をしてもらってます」
ステラは一歩前へ出て、軽く頭を下げる。
ステラ「ステラです。剣しか取り柄はありませんけど……よろしくお願いします」
グラバーは、その立ち姿を見て満足そうに頷いた。
グラバー「ふむ。姿勢がいいねぇ」
ステラ「え?」
グラバー「入ってきた時の足運びと立ち方を見れば分かる。かなり場数を踏んでいるだろう?」
ステラは一瞬きょとんとしたあと、少し照れくさそうに頭を掻いた。
ステラ「……どうも」
ナオ「この人、こう見えて結構照れ屋なんですわ」
ステラ「ちょっ、余計なこと言わなくていい!」
ナオ「ハハハ」
小さな笑いが応接室に広がる。
続いて、ナオはカイへ目を向けた。
ナオ「で、こっちはカイくん。魔導工学の技師ですわ」
カイは慌てて姿勢を正す。
カイ「ど、どうも!カイっす!」
ナオ「魔道具の開発やら調整やら、馬車の整備……それに、こいつのメンテナンスまで」
そう言って、自分のシルクハットのつばを指で軽く弾く。
ナオ「道具関係はだいたい彼に見てもらってます。腕は確かなんですけど、空いた時間見つけたら何でも分解して中身見たがるんで、ちょっと目ぇ離せません」
カイ「ちょ、ナオさん!それ紹介になってないっすよ!」
応接室に再び笑いが起こる。
グラバーも愉快そうに肩を揺らした。
グラバー「フハハハ! なるほど。君がナオくんがさっき話していた技師だね」
カイは気恥ずかしそうに頭を掻く。
カイ「ええ……まあ」
グラバーはそんなカイを眺めていたが、ふと、その視線が彼の首元で止まった。
そこには、聴診器にも似た形状の魔道具が掛けられている。
グラバーは興味深そうに目を細めた。




