第84話 前売りチケットどこで買える?
【20年前 帝都・元老院議事堂】
本来、厳粛であるべきバロア帝国の中枢――元老院。
そこは今、一人の初老の外交官と彼が被る黒いシルクハットによって、完全に異質な熱狂の空間へと変貌していた。
雄鶏「さぁ、盛り上がっていこうぜぇぇぇ!!バロア帝国ゥゥゥ!!」
開いた帽子のクラウンから現れたステージ。
スタンドマイクを握った雄鶏のシャウトが、荘厳な議場へ轟く。
ジャアアアアアアンッ!!!
ロバもエレキギターを豪快に鳴らし、メロディを刻む。
火花でも散りそうな勢いで掻き鳴らされるギター。その音へ重なるように、ネコのベースが重低音を叩き込み、議場の床そのものを震わせる。
議員たち「おおおっ!?」「な、なんという爆音だ……!」「だが、なんだこの妙な高揚感は……!」
帝国の重鎮たちは困惑しながらも、次第にその熱量へ呑み込まれていく。
ドンッ!!ドドンッ!!
後方の小さなドラムセットへ鎮座する『衝撃の明太子』も、小さな丸い手に握ったスティックで凄まじい勢いのビートを刻む。
原理は相変わらず不明だが、バスドラムの音が空気を震わせる。
グラバー「おおお!! これはまさしく‟衝撃‟だな!!」
グラバーは豪快に笑いながら、バスドラムのリズムに合わせて頭を振り始める。
隣ではハヌスも、いつの間にか足先で自然と拍子を刻んでいた。
雄鶏「もっとだもっとォ!!そんなもんかバロア帝国ゥゥ!!」
ギュイイイイイン!!!
ロバが鋭いギターソロを響かせる。
ネコもベースを抱えたまま身体を揺らし、全身でリズムに乗っていた。
ネコ「テンション、アガってこーぜぇぇぇぇ!!」
その瞬間だった。
ボォォォォォッ!!!!
帽子の両脇からせり上がっていた謎のノズルから、突如として巨大な火柱が噴き上がった。
議員たち「うおおおっ!?」「ぼ、帽子から炎がっ!?」「なんだあれは!!」
赤々と燃え上がる炎が、八大神のステンドグラスへ反射する。
色とりどりの光が乱反射し、重厚な元老院の空間を完全に別世界へと塗り替えていく。
ハヌス「フハハハハ!!もはやなんでもアリだなあの帽子は!」
ハヌスは堪えきれずに笑いながら立ち上がった。
グラバーも同じように席を蹴るように立ち上がり、拳を突き上げる。
グラバー「センポ・スギハラ!!最高じゃねえかぁ!!」
その混沌の真下で、センポは穏やかに、しかし楽しそうに笑っていた。
議員たちの熱狂へ呼応するように、雄鶏がついに歌い出した。
力強いシャウトが議場を揺らし、ロバのギターがメロディを奏で、ネコのベースが空気を震わせ、明太子のドラムが容赦なく観客の鼓動を煽り立てる。
そして。
ついに、一人の議員が笑顔で拳を突き上げた。
議員1「フォーーーーー!!」
続くように、別の議員も立ち上がる。
議員2「なんだこれは!!もはや意味はわからん……わからんがッ!!」
議員3「体が勝手に動くぞぉ!!」
ネコ「みんな~~~~~!!気分はどう~~~~!?」
その呼びかけに応えるように。
グラバー、ハヌス、そして議員たちが、一斉に拳を突き上げた。
「サイコォォォォォォォォ!!!!」「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
その時、『厳格』という言葉は、元老院議事堂から完全に消え去った。
【元老院議事堂・大廊下】
ジパング国から訪れた外交使節・杉原センポとの会談は、帝国にとっても極めて重要な案件として扱われていた。
そのため、元老院議事堂の大廊下には、近衛兵団が厳戒態勢で配置されている。
重厚な赤絨毯、白大理石の柱、壁に掛けられた歴代皇帝の肖像画……。普段ならば、私語すら憚られるような空気が漂う場所である。
近衛兵1「しかしまあ……」
槍を肩に立てかけながら、若い兵士が小声でぼやく。
近衛兵1「あのスギハラ卿って人、よくたった一人で元老院なんかに来れたよな」
近衛兵2「ああ……俺なら絶対胃が持たねえよ」
もう一人の兵士も苦笑混じりに頷く。そして、首を少し傾げながら続ける。
近衛兵2「っていうかさ、見間違いじゃなかったらなんだけど……」
少し声を潜める。
近衛兵2「あの人の帽子、なんかパカッて開いてなかったか?」
近衛兵1「はぁ?」
若い兵士は眉をひそめる。
近衛兵1「お前、緊張しすぎて変なもん見たんじゃねえの?」
近衛兵2「いや、でもさぁクラウンていうの?あの上の部分が――」
隊長「そこ、無駄口を叩くな!!」
ビシィッ、と近衛隊長の怒号が飛び、二人の兵士は即座に背筋を伸ばした。
隊長「ここは元老院。ジパング国との重要会談中だぞ。気を引き締めろ!」
近衛兵たち「はっ!!」
再び廊下に静寂が戻る。
しかしその時。
ジャアアアアアアアンッ!!!!
突如、議場の扉の向こう側から爆音が響いた。
近衛兵たち「!!?」
空気が震え、天井のシャンデリアがかすかに揺れる。
今度はドンッ!!ドドンッ!!!と重低音が鳴り響く。
近衛兵1「な、なんだなんだ!?」
近衛兵2「敵襲か!?」
隊長「何事だッ!!」
すると今度は。
「YEEEEEEEEEEEEAAAAAAHHHHHH!!!!」
何者かの絶叫が、議場の内部から轟いた。
近衛兵たち「!?」
近衛兵1「え?会談中……なんだよな?」
しかし次の瞬間には、ボォォォォォッ!!!!と扉の隙間から、一瞬だけ赤い光が漏れた。
隊長「もしや、閣下方に何かあったのか!?扉を今すぐ開けろ!!」
隊長の号令と共に、兵士たちが慌てて議場の巨大な扉を押し開く。
隊長「………………は?」
だが、扉の先に広がっていた光景を見た瞬間、近衛兵たちは完全に硬直した。
まず目に飛び込んできたのは、巨大な火柱。
赤々と噴き上がる炎が八大神のステンドグラスへ反射し、議場を妖しく照らし出す。
次に耳へ飛び込んできたのは、腹の底を揺さぶるような爆音だった。
それらはすべて、ジパング国からやってきた外交官、杉原センポの被る黒いシルクハットの上から発せられていた。
横に大きく開いた帽子のクラウン。
その上に広がっていたのは、もはや意味不明としか言いようのない光景だった。
ロバがエレキギターをかき鳴らし、派手な化粧をしたネコが身体を揺らしながらベースを弾き、雄鶏がスタンドマイク片手に絶叫している。
さらに後方では、顔のついた真っ赤な明太子のぬいぐるみが、小さな丸い手に握ったスティックで凄まじいビートを叩き込んでいた。
足はついていないのに、バスドラムまで完璧なリズムで鳴り響いている。
そして。
議員たち「FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
グラバー「センポ!!あんた最高だぜぇぇぇぇぇ!!!!」
ハヌス「フハハハハハハ!!!!」
肝心の帝国の重鎮たちは、会談も何も完全に忘れ去り、激しくもどこか心を高揚させるロックサウンドへ熱狂していた。
拳を突き上げ、顔を紅潮させ、年甲斐もなく叫んでいる。
近衛兵団一同「…………………は?」
もはや兵士たちは理解が追いつかず、呆然とその光景を見つめていた。




