第34話(第4話):身体の檻、あるいはマイルドドラッグに踊る羊達
あの白熱した経済の罠の議論から、また日を改めた放課後。
サークル室には、しっかりと休息を取り、頭脳を極限までクリアに整えた4人の姿があった。
ホワイトボードの前に立つ佐藤を見つめ、御剣怜が眼鏡の位置を指で軽く直した。黒髪を静かに揺らし、その落ち着いた、どこまでも冷徹な美しい声がサークル室に響く。
「佐藤君、ここからのシミュレーションはさらに深層へ踏み込むわよ。経済という外側の財産を毟り取るだけではなく、暗記勝ち組エリートどもの調教システムは、大衆の『身体』や『日常の娯楽』そのものを合法的な依存の檻に閉じ込めているの。生涯にわたって医療や税収で搾取し続ける、完成されたマッチポンプのファクトに、私たちは冷徹にメスを入れなければならないわ」
「ああ、分かっている。綺麗事の政策を並べる前に、まずは大衆が『日常の癒やし』だと盲信させられている罠を、データと法理で綺麗に剥ぎ取る番だ」
佐藤は冷静沈着な声で応じ、マイクを持つ体で右手を握りしめた。サークル室の壁の向こうに広がる無関心な群衆の海を見据え、どこまでも真摯な、しかしどこか親しみやすい、朗らかな声でシミュレーションの第一声を放った。
「えー、駅前を行き交う皆様、こんにちは。事実陳列党の佐藤です。皆さん、突然ですが、今は本当に便利な時代になりましたよね。AmazonプライムやNetflix、YouTubeといったストリーミングサービスを、スマホやテレビで毎日何かしら見ているという方が、ほとんどではないでしょうか。
ですが皆様、そんな便利なストリーミングサービスを楽しんでいる中で、ちょっとNHKの話をさせてください。正直、不満に思うこと、いっぱいないですか? テレビを置いているだけで、あるいは外資のAmazonで動画を見るためだけに、なぜか裏でオンデマンド外資売却利権が働き、二重に金をむしり取られるような構造になっている。世間にはNHK党なんてものもありますから、皆さんも『NHKはおかしい』『ムカつく』ということは、すでにある程度知っているし、日常的に腹を立てているはずなんです。……ですが、ここで私は皆さんに、最も冷酷な問いを真摯に投げかけたい。
それだけムカついていて、誰もが不正だと分っているのに、なぜ皆さんは暴動も起こさず、結局は大人しくお金を払って従っているのですか? なぜ、本気で怒ってシステムをぶっ壊そうとしないのか。……それは、皆さんが大人しいからではありません。小学校の、あの教育の時点で、皆さんの『脳みその向き』が最初から変えられているからなんです!
小学校で誰もが習う『喧嘩はいけません』『みんな仲良くしましょう』というあの美しい刷り込み。悪い奴、不正を働くエリートが目の前にいるのに、『波風を立てるな』『怒ったらあかん』と幼少期から牙を抜かれ、理不尽に対して無抵抗に従う『飼い慣らされた羊』に仕立て上げられた原点。だからNHKの二重取りのような大泥棒のシステムに対しても、私たちは本気で怒ることができなくなっているんです。
――しかし、お上どもが仕掛けている罠は、そんな精神的な調教(教育・家庭)だけではありません。
戦後、GHQがこの国を占領した際、彼らが日本人の精神から『國の背骨』を奪うために仕掛けた最凶の罠。それこそが、スクリーン、スポーツ、そして性を解放して大衆を快楽に溺れさせる『3S政策』という思考停止のプログラミングだったんです。GHQが直接『タバコや砂糖を食わせろ』と命令したわけじゃない。彼らはただ、日本人が政治や国の危機に牙を剥かないよう、目先の娯楽や嗜好品に依存しやすい『お花畑の土壌』を完璧に作り上げた。
そして何より許せないのは、現代の日本のお上や暗記勝ち組エリートどもが、そのGHQの遺産を都合よく利用し、皆さんが日々のストレスを忘れるために吸う『タバコ』や『甘いもの』を、自分たちの天下り利権や省庁の収益を守るための『身体の檻』として完成させて今も維持し続けているという、あまりにも生々しい現在のファクトなんです!」
ここで、佐藤が一度言葉を区切ると、それまで静かに聞いていた後輩の近藤さんが一般的な有権者のリアルな目線から、鋭い疑問のツッコミを投げかけた。
「佐藤さん、ちょっと待ってください。NHKにみんながムカついているのは本当ですけど、それが全部『学校教育のせい』っていうのは、ちょっと論理の飛躍だって世間から言われませんか? ネットではみんな散々文句を言ってるわけですし、国民は『怒ってない』んじゃなくて、『怒ってるけど、制度的にどうしようもないから諦めてる』だけじゃないですか」
佐藤は近藤さんを真っ直ぐに見据え、静かに首を振った。
「そこが甘いんだ、近藤さん。ネットのタイムラインで愚痴を吐き出すことと、利権のシステムそのものを実力や法律で叩き潰そうと行動することは全く違う。なぜ日本人はデモや暴動を起こさない? ネットの愚痴という『ガス抜き』で満足させられ、最後の一線で大人しく従ってしまう。その『従順さのブレーキ』こそが、子供の頃に刷り込まれた『波風を立てるな、みんな仲良く』の呪縛なんだよ。
たとえば海外、フランスなんかを見てみろ。彼らは自分たちの権利を主張するために、日常茶飯事のように大規模なデモやストライキを起こして国と戦っている。それに比べて、日本人はあまりにもおとなしすぎると思わないか?
俺は以前、あることを真剣に考えたことがある。もし、この国の物流を支えているトラックドライバーや関係者たちが、命を削るような低賃金に怒り、団結して『俺たちの給料を上げろ』とたった1週間ストライキを起こしたらどうなる? 物が届かなくなるんだから、日本の経済は一瞬でぐちゃぐちゃになる。特に都心部のコンビニなんて、たった1週間で棚に何も商品がなくなる、完全なパニック状態に陥るはずだ。それだけの強力な『武器(主権)』を現場の労働者は握っているんだよ。
普通なら、それを使ってお上と命がけの交渉をしていいはずだ。それなのに、今の日本人は誰もそれをやろうとしない。なぜか? 自分の頭で深く思考する骨を抜かれ、戦う牙を奪われているからだ。やっぱり、脳みその向きを最初から完全にやられてしまっているんだよ。
近藤さん、それだけじゃない。学校教育だけではなく、今の日本の『家庭の教育』そのものが、大衆を空っぽにするための檻として完成してしまっているんだ。
皆さんは、子供の頃に親から『これだけは守りなさい』という人生の哲学を、一つでも真面目に教わったことがありますか? 世間の人間に聞いてみればいい。『嘘をつくな、人を騙すぐらいなら騙される側に回れ』という、現実社会に出たら一瞬で人生が詰むような、片方だけの綺麗事を真に受けさせられているか、さもなければ『借金はするな』『公務員は安定していていいぞ』といった、生き方の哲学でも何でもない、目先の生活に即しただけの浅薄な短期保身のアドバイスしか頭に残っていない。それ以外の『人間の道』や『誇り』について、親から何一つ教わっていないし、聞いてすらいないんだ。
今の親の世代に『自分の親から何を学んだか』と聞いても、心に残るような言葉を何一つ覚えていないという人間がごまんといる。これは人間の形成において、致命的な国家の欠陥だと思わないか?
江戸時代であれば、十五歳で元服を迎える若者に対し、一般常識は寺子屋で学び、そして『人の道』や『男としての生きる覚悟』は、父親が息子を目の前に座らせて命がけで直伝していた。だが、今の現代にはそれがない。『お前、そこに座れ。これから大人になって生きていくなら、こういう風に生きるんだぞ』と、真面目に魂を語る親が消滅してしまった。なぜか? 親の世代自身が、さらに上の戦後教育システムによって牙を抜かれ、生き方の核を奪われてきたから、やり方がわからないんだよ。こうして、何世代にもわたって、日本人は自力で思考する骨を綺麗に抜かれ続けてきたんだ。
――そして、お上どもが仕掛けた罠は、そんな精神的な調教(教育)だけではない。皆さんが日々のストレスを忘れるために、それこそストリーミングでアニメを見ながら吸う『タバコ』や、ホッと一息つくための『甘いもの』。それら、日常のささやかな『嗜好品』の中にこそ、国民の肉体そのものを生涯にわたって家畜化する、おぞましい『身体の檻』が隠されているんだ」
すると今度は、腕を組んでホワイトボードを睨みつけていた熱血漢の先輩が、険しい表情で佐藤に言葉をぶつけた。
「佐藤、話のスケールは大きくて面白い。だが、サークル室でのシミュレーションから一歩外(街頭や世間)に出たとき、『タバコや砂糖がエリートの利権だ』っていうのは、ただの個人の陰謀論だろって一蹴されるリスクがある。そこを黙らせる具体的な“データ(数字)の裏付け”はあるんだろうな?」
佐藤は先輩の問いに応じ、ホワイトボードの別の区画へペンを力強く走らせた。
「当然です、先輩。たばこ税の年間収益は約二兆円。そして国が推し進める防衛費増額の財源として、たばこ税の増税が明確に議論されている。つまり、国にとってタバコは『絶対に絶やしてはならない最高の財源』なんです。禁煙ブームで若者のタバコ離れが進む中、利権側が焦ってイメージ戦略に走るのは当然の帰結です。
さらに、あなたが日々の癒やしだと思わされている『砂糖(甘味)』。砂糖は強烈な依存性を持つ『マイルドドラッグ』そのものです。大衆を甘味中毒にして糖尿病や生活習慣病にさせ、生涯にわたり医療利権と製薬会社に金を貢がせ続ける悪魔のマッチポンプ構造がここにあります。
そして、現代の暗記エリートよりも、遥か昔の『先人』の方がこの本質を見抜いていたという事実を、皆さんは知るべきです。江戸時代の先人、貝原益軒らは『養生訓』の中で、砂糖が『内臓を損ない、歯をむしばむ毒』だと完全に見抜いていました。だからこそ幕府や薩摩藩は、大衆が中毒になって国力が骨抜きにならないよう、琉球からの流通量や国内生産を厳格に制限し、コントロールしていたのです。国民を病気にさせて生涯搾り取る現代の勝ち組エリートと、大衆を守ろうとした江戸の先人、どちらが本当に賢いかは歴史のデータが証明しています」
佐藤は一気に語り、自らの胸に手を当てて、48年間の生々しい肉体の記憶、泥臭い実体験の言葉を冷酷に陳列した。
「今期、なぜこのタイミングで『ヤニ系アニメ』が多発しているのか。若者の脳内に『タバコ=カッコいい』という嘘のプログラミングを流し込んで、激減した税収の穴埋めをさせようとしているんだ。綺麗事のアニメの嘘に騙されてはいけない。タバコを吸った先にある本物のファクトは、真っ黒に汚れる肺、朝一番に絡みつく嫌な痰、息の臭さ、歯の黒さ、解剖室のリアルな汚れ、そしてそれを辞めようとした時の、のたうち回るような壮絶な禁煙の苦しみだけだ。アニメのキャラクターは痰を吐かない。歯も黒くならない。そんな都合のいい嘘のイメージで若者の身体を人質に取り、最後の1円まで税収を毟り取ろうとするエリートどもの精神性が、俺は許せないんだ」
サークル室に、佐藤の静かな咆哮が響き渡り、重い沈黙が流れた。
ここで、それまで静かに佇んでいた御剣怜が、眼鏡の位置を指で軽く直し、あの落ち着いた冷淡なトーンで、自分自身とこの国への深い問いを投げかけた。
「……話の因果の線は完璧だわ、佐藤君。だけど、私に一つ『疑問』を言わせて。日々の仕事や生活費の工面、あちこちからの支払いに文字通り『忙殺』され、疲れ切った脳みそを持つ本物の有権者たちに向かって、私たちがどれだけ真摯にこの正論を説いたところで、右の耳から左の耳へ通り抜けてしまうのではないかしら。届かない正論に、一体何の意味があるの?」
佐藤は劇的な光を宿した瞳を、最強のパートナーである怜に向けた。
「だからこそ、普通のトーンじゃダメなんだ、御剣。身近なストリーミングや日常の嗜好品という『相手の生活の領域』にこちらから土足で踏み込んで、脳みそに直接冷水をぶっかけるような、真摯かつ鋭利な正論でなければならない。全員を救う必要はない。忙殺の鎖を引きちぎって立ち止まる人間が、3人のうち1人でも現れれば、そこから行進の列は乱れ始めるんだ」
怜は佐藤の答えを聞き、眼鏡の奥の瞳を細め、フッと静かな納得の笑みを漏らした。
「ええ……完璧な因果関係ね。ストリーミングの日常から始まって、学校教育で『怒る牙』を抜かれ、最後は砂糖とタバコというマイルドドラッグで『身体の自由』まで檻に閉じ込められる。これらすべての身近な違和感が繋がった時、私たちが歩かされている最後の終着点が見えてくるわ」
佐藤はホワイトボードの中央に、血の滲むような赤のペンで、巨大な『赤信号』の文字を書き殴った。
「その通りだ、御剣。これが最終結論だ。なぜ日本人はおかしいと分かっていて怒らないのか。怒らないんじゃない。日々の仕事、生活費の工面、あちこちからの支払いに文字通り『忙殺』され、身体を麻薬で骨抜きにされ、赤信号だと気づく時間すら、エリートどもに意図的に奪われているんだ。
そして、このシステムの何より恐ろしいところは、この狂った社会の中で少しでも優秀な人間たちが、こぞって『うまく立ち回って勝ち組側に回ろう』としてしまうことなんだ。
お上が作った暗記のゲームを勝ち抜き、官僚や大企業、利権組織という『勝ち組』の内側に入り込んだ瞬間、人間は完全に変わってしまう。そこに入ってしまえば、待っているのは『自分たちの組織の収益』や『天下り利権の保身』だけを最優先で考える、どろどろとした利権構造の奴隷だ。どれだけ足元の庶民が困窮していようが、国益が外国に売り渡されていようが、自分たちの身内のサイフさえ潤えばそれでいいという、底なしの精神性の崩壊がそこにある。
つまり、この国を変えるべき頭脳を持つ人間たちから順番に、エリート側の収益システムに家畜として飼い慣らされ、真実を隠蔽する側の『スパイ』に変貌させられているんだよ。
そして近藤さん、そのスパイたちが牛耳っているメディアや言論空間の奥底には、戦後のどさくさ、それこそ日韓併合以降の歴史の歪みの中で入り込んできた海外勢力や特定の民族の思惑が、不気味なほど深く根を張っているんだ。
日本人は彼らの『ものの考え方』を何も理解していない。だから、彼らが社会の要職や情報の中枢に入り込み、日本人の世の中で旨みを吸いながら、さらに美味しい利権を掠め取っている恐ろしい現実に最初から気づくことすらできないんだ。世間にはこの不条理に気づいて叩いている人もいる。だが、感情的に悪口を言えば、お上やメディアから『それはヘイトだ、差別だ』とレッテルを貼られて、言論そのものを完全に圧殺されてしまうのが今の狂った日本の現実だ。
だからこそ、俺たちの党名は『事実陳列党』なんだよ。悪口を言うんじゃない。感情で叫ぶのでもない。彼らが言い訳できない客観的な証拠、利権のデータ、歴史の事実をただ冷酷に、目の前に陳列して窒息させるんだ。ヘイトという盾を一切使わせず、事実の弾道だけで大衆に『おい、俺たちは内側から乗っ取られているんだぞ』と気づかせる。これしか、この国の洗脳を解く道はないんだ。
――だからこそ、俺たち全員が思考停止で行進させられているその赤信号の先にある正体は――海外勢力と、国内に潜むそんなスパイどもが仕掛けた、この日本という國の完全な『破滅と乗っ取り、そして分裂』だ。この一本の確信を持って、俺たちは街頭へ打って出る」
佐藤の静かな宣言とともに、サークル室の空気は、すべての日常の違和感を国家の病理へと昇華させた、一撃必殺の宣戦布告の場へと完全に切り替わった。
本作をここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
作中で佐藤が、私たちが毎日見ているストリーミングサービスの話から入り、NHKへの不満、学校教育の罠、そして日本人がいかにおとなしく飼い慣らされているかをフランスのデモや『1週間の物流ストライキで都心のコンビニが空っぽになる恐怖』という生々しい例えで暴いていくシーン。さらに、砂糖というマイルドドラッグの恐怖や、今期のアニメに溢れるタバコ美化の嘘をガチのファクトで剥ぎ取っていく流れ。
実は、これこそが私(作者)自身が18年間という長い歳月、タバコという悪魔の依存症に肉体を支配され、そこから血の滲むような思いで這い上がってきた生々しい実体験そのものです。
かつての私は、タバコを吸うことこそがストレス解消であり、大人の嗜みであると盲信していました。しかし、その裏で私の身体は確実に蝕まれ、肺は汚れ、朝起きるたびに不快な痰が絡み、歯は黒ずみ、息の臭さに怯える日々を過ごしていました。あの禁煙の壮絶な大変さは、経験した者にしか分かりません。文字通り、自分の脳が何者かにハッキングされ、コントロールされている恐怖そのものでした。
それなのに現代のメディアや利権側は、激減するたばこ税収(防衛財源など)を必死に維持するため、若者向けのアニメを使ってタバコを美化し、次の世代を新たな依存症の檻へ引きずり込もうとしています。これほどおぞましいマッチポンプがあるでしょうか。
日常のストリーミングや、物流ストライキの思考実験といったあまりにも身近な領域から、事実という絶対的な氷の弾丸を、忙殺されている有権者の脳髄へ最短距離でぶち込む。自分自身がかつてその身体の檻に閉じ込められ、15年かけて歴史や法理を学び直してようやく洗脳から脱出したからこそ、大衆を忙殺し、中毒にさせ、国が滅ぶ『赤信号』へ向かって平然と歩かせている売国エリート官僚や海外勢力の存在が、絶対に許せないのです。
現役世代に残された時間はもうありません。この4人のサークル室でのシミュレーションが、いよいよ現実の街頭へと放たれる時、この國の洗脳システムにどれほどの風穴をあけることができるのか。私が人生をかけて手繰り寄せた本物の執念の背骨を、これからも一文字ずつ本編へ注ぎ込んでまいります。この熱き因果の線を、ぜひ最後まで見届けていただければ幸いです。
事実陳列党公式動画:https://youtu.be/0owlTj-hW8w




